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日常編
第53話 仲良しクッキング
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「ーー兵馬に怒られた」
離宮に帰った琉生斗は、ソファに座り項垂れた。
「そうだな」
「悲しいー。慰めて……」
「ああ」
手を広げてアレクセイを招く。優しく抱きしめられ、ふふっ、と笑う。
「大好き」
「愛している」
唇を重ねながら、頬を寄せたり髪をすいたり身体をくっつけて、二人はお互いを撫で合う。
すっかり二人の世界なのだがーー。
「ーールートォォォォォォォォォ!いーかげんにしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
書類を叩きつけ、兵馬は切れた。
「僕、いるからね?虫とか空気じゃないよ?」
「そんな怒るなよ。いつもの事じゃないか……」
「まったく、国民が何も言えないからって、ひどいよ!もう、約束しな!外ではイチャイチャ禁止!」
イチャイチャ禁止ぃぃぃーー!!!
「ーー私に、死ねと?」
アレクセイが真剣な顔で兵馬に問う。
「そんな簡単に死ぬ殿下なんかルートの殿下じゃないよ」
兵馬に睨まれ、アレクセイが目を伏せた。
「大型犬がチワワに諭されてるな」
琉生斗はアレクセイにキスをして、騎士服の襟に手をかけた。
「ルート!」
「ここ家だもん。家ならいいんだよな?」
ガサガサと彼らしくなく書類を乱雑に整理し、兵馬が出て行った。
「何をイラついてんのかね?兵馬さんは」
「ーーラルジュナが最後までさせてくれないと言っていたがーー」
プライベートな話、ぶっ込まれてんなーー、と琉生斗は目を丸くした。
「最初したのにできないんだ。兵馬の事だ、冷静スイッチが入っちゃったのかな」
「……ルート」
「そんな声で呼ぶなよ。欲しくなるーー」
アレクセイの首筋に歯を立て、琉生斗は夫を求めた。
「ほんとに、禁止だからね!」
「はいはい、わかりましたよ。おまえの前では自重いたしますよ」
「だめ!他の人の前でも!」
「暴君だな」
生チョコの手作りには美花や町子も来て、賑やかに作業が行われた。
「みんな迷惑してるの!ちょっとは考えな」
「えっ、でもジョンレノとヨーコのキスシーンなんか、めっちゃカッコよくなかったか?」
「ーーそこを目指してるんだ……」
「あんな自然にスタイリッシュにできたら芸術だと思わねえ?」
チョコレートを湯煎で溶かしながら、琉生斗は匂いをかいでごきげんだ。
「ルート君は何でも勉強家なのよね~」
「町子、庇わないの!」
美花が風を起こして生クリームを泡立てている。
「兵馬ーー。前にね、レノラさん達が言ってたんだけど。あんなにお互いに夢中になれるときって短いんだから、できるだけ長く楽しんで欲しい、って。誰も迷惑してないわよ」
兵馬は目を丸くした。
「気にならないの?」
「えー、変態殿下が愛があるのはわかるしー。キスってしちゃうとねーー。きゃあああああああ!」
「葛城!生クリーム飛ばすな!花子(琉生斗の牝牛)が泣くぞ!」
「兵馬。おまえ、ラルジュナさんにやるのか?」
「ーーあげないよ。商品化の検討をするだけだよ」
「ふーん。もったいぶってねえであげればいいのに」
琉生斗の言い方が気になった兵馬は、目を細めて睨みつける。
「もったいぶってなんかないよ。そんな必要ないだけだよ!」
「ライバルでもでてこないと必死にならねえか」
いらない調理器具を片付けながら琉生斗は言った。
「僕は君みたいにならないの!なんなの、あんなに貞操観念ガッチガチだったくせに!今じゃどうなってんの?」
生チョコを入れるバットを並べながら、兵馬は噛みつくようにがなる。
琉生斗が深く息を吐いた。
「ーーだってよ。おれには他にアレクにやれるもんがねえから」
親友の言葉に兵馬は目を見開いた。
言い返す事も、気の利いた事も言えずに、動きをとめる。
「相手が望むうちは何でもしてやりたい、それだけだ」
チョコレートがついたテーブルを濡れぶきんで拭く。
「ルート……」
「おれは、おまえらみたいに他の才能がないから」
ふきんを洗いながら琉生斗が言った。
「浄化しかできないなんて、こっちの世界にきた意味がない」
「いや、その為に呼ばれたんだけどね」
趣旨が間違ってきてるような。
「ルート君は色々やりたいひとだからね~」
町子が笑う。
「生クリーム入れていい~?」
「よし、入れてくれ」
チョコレートに生クリームを加えて混ぜ、バットに材料を入れる。
「冷やしてくれるか?」
「冷蔵ぐらいね~」
「そうそう」
「攻撃魔法にはないわね~」
微調整しないと~、と町子が眉を寄せた。
「たしかに、敵にはダメージが少なそうだな」
琉生斗が笑った。
兵馬はバツが悪そうに俯き、誰にもわからないように溜め息をついた。
「ごめんね、ルート……」
「何が?」
「ルートも殿下に捨てられないように必死なのにーー」
「はっきり言うな!」
「そんな心配してるの、ルートだけだと思うけど」
「ーーそうだといいなぁ」
琉生斗はとめていた髪留めを外し、前髪を直した。
「ーーおれは、あいつを幸せにしたいんだ」
目を細めて笑う。
「おれにしかできないからな!」
照れたように言う親友が、心から輝いて見えたーー。
離宮に帰った琉生斗は、ソファに座り項垂れた。
「そうだな」
「悲しいー。慰めて……」
「ああ」
手を広げてアレクセイを招く。優しく抱きしめられ、ふふっ、と笑う。
「大好き」
「愛している」
唇を重ねながら、頬を寄せたり髪をすいたり身体をくっつけて、二人はお互いを撫で合う。
すっかり二人の世界なのだがーー。
「ーールートォォォォォォォォォ!いーかげんにしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
書類を叩きつけ、兵馬は切れた。
「僕、いるからね?虫とか空気じゃないよ?」
「そんな怒るなよ。いつもの事じゃないか……」
「まったく、国民が何も言えないからって、ひどいよ!もう、約束しな!外ではイチャイチャ禁止!」
イチャイチャ禁止ぃぃぃーー!!!
「ーー私に、死ねと?」
アレクセイが真剣な顔で兵馬に問う。
「そんな簡単に死ぬ殿下なんかルートの殿下じゃないよ」
兵馬に睨まれ、アレクセイが目を伏せた。
「大型犬がチワワに諭されてるな」
琉生斗はアレクセイにキスをして、騎士服の襟に手をかけた。
「ルート!」
「ここ家だもん。家ならいいんだよな?」
ガサガサと彼らしくなく書類を乱雑に整理し、兵馬が出て行った。
「何をイラついてんのかね?兵馬さんは」
「ーーラルジュナが最後までさせてくれないと言っていたがーー」
プライベートな話、ぶっ込まれてんなーー、と琉生斗は目を丸くした。
「最初したのにできないんだ。兵馬の事だ、冷静スイッチが入っちゃったのかな」
「……ルート」
「そんな声で呼ぶなよ。欲しくなるーー」
アレクセイの首筋に歯を立て、琉生斗は夫を求めた。
「ほんとに、禁止だからね!」
「はいはい、わかりましたよ。おまえの前では自重いたしますよ」
「だめ!他の人の前でも!」
「暴君だな」
生チョコの手作りには美花や町子も来て、賑やかに作業が行われた。
「みんな迷惑してるの!ちょっとは考えな」
「えっ、でもジョンレノとヨーコのキスシーンなんか、めっちゃカッコよくなかったか?」
「ーーそこを目指してるんだ……」
「あんな自然にスタイリッシュにできたら芸術だと思わねえ?」
チョコレートを湯煎で溶かしながら、琉生斗は匂いをかいでごきげんだ。
「ルート君は何でも勉強家なのよね~」
「町子、庇わないの!」
美花が風を起こして生クリームを泡立てている。
「兵馬ーー。前にね、レノラさん達が言ってたんだけど。あんなにお互いに夢中になれるときって短いんだから、できるだけ長く楽しんで欲しい、って。誰も迷惑してないわよ」
兵馬は目を丸くした。
「気にならないの?」
「えー、変態殿下が愛があるのはわかるしー。キスってしちゃうとねーー。きゃあああああああ!」
「葛城!生クリーム飛ばすな!花子(琉生斗の牝牛)が泣くぞ!」
「兵馬。おまえ、ラルジュナさんにやるのか?」
「ーーあげないよ。商品化の検討をするだけだよ」
「ふーん。もったいぶってねえであげればいいのに」
琉生斗の言い方が気になった兵馬は、目を細めて睨みつける。
「もったいぶってなんかないよ。そんな必要ないだけだよ!」
「ライバルでもでてこないと必死にならねえか」
いらない調理器具を片付けながら琉生斗は言った。
「僕は君みたいにならないの!なんなの、あんなに貞操観念ガッチガチだったくせに!今じゃどうなってんの?」
生チョコを入れるバットを並べながら、兵馬は噛みつくようにがなる。
琉生斗が深く息を吐いた。
「ーーだってよ。おれには他にアレクにやれるもんがねえから」
親友の言葉に兵馬は目を見開いた。
言い返す事も、気の利いた事も言えずに、動きをとめる。
「相手が望むうちは何でもしてやりたい、それだけだ」
チョコレートがついたテーブルを濡れぶきんで拭く。
「ルート……」
「おれは、おまえらみたいに他の才能がないから」
ふきんを洗いながら琉生斗が言った。
「浄化しかできないなんて、こっちの世界にきた意味がない」
「いや、その為に呼ばれたんだけどね」
趣旨が間違ってきてるような。
「ルート君は色々やりたいひとだからね~」
町子が笑う。
「生クリーム入れていい~?」
「よし、入れてくれ」
チョコレートに生クリームを加えて混ぜ、バットに材料を入れる。
「冷やしてくれるか?」
「冷蔵ぐらいね~」
「そうそう」
「攻撃魔法にはないわね~」
微調整しないと~、と町子が眉を寄せた。
「たしかに、敵にはダメージが少なそうだな」
琉生斗が笑った。
兵馬はバツが悪そうに俯き、誰にもわからないように溜め息をついた。
「ごめんね、ルート……」
「何が?」
「ルートも殿下に捨てられないように必死なのにーー」
「はっきり言うな!」
「そんな心配してるの、ルートだけだと思うけど」
「ーーそうだといいなぁ」
琉生斗はとめていた髪留めを外し、前髪を直した。
「ーーおれは、あいつを幸せにしたいんだ」
目を細めて笑う。
「おれにしかできないからな!」
照れたように言う親友が、心から輝いて見えたーー。
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