上 下
55 / 133
日常編

第52話 それは、もはや風景。

しおりを挟む
「最近おまえ、アジャハンばっかりだな」

 東堂はつまらなそうな声を出した。

「そうだね。鉄道関係で僕がいないと進まない事も多いから」

 兵馬がよろよろしながらボールを蹴るーー、蹴れなくてスカる。

「ーー嘘だよな」
「ほんとだよ!」

 何でとまってるボールが蹴れないんだ?


 ある意味才能だ、と首を捻るしかない。

「ーー運動神経ってどうしたらあがるのかな?」
「おまえの場合、頭脳に振り分け過ぎたんだろ」

 初期設定バグったんだな、と東堂は話をまとめた。

「けど、向こうにいるときより体力はついたよ」
「基本歩く距離長いしな。休みのときでも二万歩は余裕で歩いてね?」
「そうだね」
「訓練や、演習は考えたくねえな」

 東堂は笑った。


「今日はルートは?」
「朝から殿下と揉めてるよ」
「ん?やってんじゃないのか?」

「痴話喧嘩は痴話喧嘩だよ。ルートがカカオ豆加工するから別部屋作って、って言ったのが殿下は気に入らないの」

「ふーん。殿下は何でも目の前でやって欲しいんだな」

 オナニーもできないなー、という東堂に兵馬は吹いた。

「ーールートにそんな余裕はないと思うよ……」

 言ってて恥ずかしいが。

 兵馬が頬をかいた。





「おーす!遅れてごめん!」

 琉生斗が走ってくる。その後ろから箒に乗って町子も飛んできた。

「よお!町子!」
「お疲れ様~」



「あっ!マチコ先生だぁ!」
「マチコ先生ー!」

 子供達が町子を囲む。

「チビッコたち~。おはよ~」

「「「おはようございます」」」





 町子は初歩の魔法の講師で都合があえば来てくれる。基本魔力がある子供が多いが、中にはまったく使えない子供もいる。

 そういうとき、その子供は東堂と走り込みに行ったり、琉生斗と違う遊びをしたりする。



「ぼくも魔法使いたいな」
「そうだな。まっ、無いもんはしょうがねえ」
 
 聖女様ってひどいーー、ザルク少年は思う。

「無いなら無いで違う武器があるかもしれないからなー。そこ座れ」


 ザルクは聖女ルートの前に座る。

「はい、さわる?」

 琉生斗が聖女の証を、差し出した。


「ーー無理ですーー」
「そうか?じゃあ、直接みるか」

 本当に聖女様って、無神経だなーー。

 六歳の少年が気を使う中、琉生斗が小さな心臓の横にある魔力器官を見た。





「あるじゃん、ちゃんと……?ん?なんか違う?」

 じっとザルクの心臓を見る。

「んー、魔法でも聖魔法でもない。何だろ?」

 手を伸ばして少年の心臓に触れようとしてーー。

「あっ」

 手をアレクセイに掴まれる。

「何だよ」

 琉生斗は背後にあらわれた旦那様に背を預ける。アレクセイが腰に手をまわして、妻を抱きしめた。

 神聖ロードリンゲン国の民にはおなじみの光景なので、チビッコといえど誰も驚かないし茶化さない。


「浮気現場だな」

 どこがだ。

「なあ、ザルクの魔力器官がちょっと違うんだけど、何これ?」

 琉生斗の言葉を聞いてアレクセイがザルクを見た。ザルクはその厳しい視線に、身体の芯が冷えていくのを感じる。


「ーーこれは、魔物使いだな」
「へぇ?」


「うそぉ~!ちょうレアよ~!」

 町子が走ってきた。

「え~~~~!なるほど~~~、こうなってるのね~~~!」

 はじめて見たのか町子の目が興奮で血走っている。

「ザルクはどうなるんだ?」

「魔物使いなら、アジャハンの竜騎士になれる可能性がある。軍隊の中では魔法騎士の上にあり、アジャハンのみが持つ最強の部隊だ」

「竜騎士?神崩れのドラゴンを飼いならすのか?」

「いや、小さい竜を探して自分で育てるんだ」
「はーん。自分を親と思わすのか」
「この子の親がいいのなら、アスラーンに伝えるが」

「ザルク、帰ったら親と相談しよう。おれも行くからーー」
「私も行く」


 過保護ーー。

 
 幼児達でさえ直感で感じたという。









 ソラリス大神殿近くにザルクの家はあった。琉生斗が話をすると、両親は二つ返事で息子をアジャハンに行かせる事を決めた。

「魔法がないと、うちの国では兵士になれないから、どうしようと思ってたんですよ」

 子供の進路を憂うのは、どこの世界も同じらしい。


「今まで聞いた事のない職業だ」
「自国から魔物使いが出ることは、稀だ」
「アジャハンにしかないのか?」
「ああ。数は少ないが、強い」

 アレクセイが言うのなら、本当に強いのだろう。



「次回の魔法騎士の演習は、アジャハンと合同でやるんだろう?」

「そうだ。バッカイアと三国での話だったが、二国になった」

「ラルジュナさんが抜けたからか。あの人、うちの国ではどういう記憶になってるの?」



「ミントとシャラジュナ王太子が婚約するにあたり、事後の争いを避けるために国をでたことになっている」

「ふうん。アレクにしてはミントに甘いな」
「ラルジュナの希望だ」

「意外にまともだよな。アスラーンさんなんか一番まともそうに見えて、なんか違うし」

「ーーそうだな」

「東堂がしょっちゅうモフモフ動物園に行ってるらしいぜ。今度行ってみるか?」


「毛は、少しーー」

「あ、そうか。マスクでもだめなのか?」

 アレクセイはぬいぐるみや、動物の毛に鼻が反応して痒くなるらしい。

「そうだなー。ヒョウマに作ったものを改良してみよう」
「色は黒でよろしく」

 琉生斗は真顔で告げた。

「ああ……」

 答えながらアレクセイは首を傾げた。琉生斗はそんなアレクセイを、うっとりと見ている。


「ーーうん。マスク男子超イイ。おまえマスク取ってもハンサムだから、殺人的にやばいよ」

 想像で楽しみながら、琉生斗はアレクセイに抱きつく。


「アレクー」

 琉生斗がキスをねだった。アレクセイがためらいもなく応じる。幸せそうに琉生斗はアレクセイとキスを続けーー。




「ーールートォォォォォ!」

 仁王立ちの兵馬が二人をとめる。

 通行人が笑って通り過ぎていく。

「いい加減にしなよ!道の真ん中で、何やってんだよ!!!」

 書類手続きでついてきた兵馬に、二人はしこたま怒られた。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

たまゆら姫と選ばれなかった青の龍神

濃子
キャラ文芸
「帰れ」、と言われても母との約束があるのですがーー。 玉響雪音(たまゆらゆきね)は母の静子から「借金があるので、そこで働いて欲しい」と頼まれ、秘境のなかの旅館に向かいます。 そこでは、子供が若女将をしていたり働いている仲居も子供ばかりーー。 変わった旅館だな、と思っていると、当主の元に連れて行かれ挨拶をしたとたんにーー。 「おまえの顔など見たくない」とは、私が何かしましたか? 周囲の願いはふたりが愛し合う仲になること。まったく合わない、雪音と、青の龍神様は、恋人になることができるのでしょうかーー。 不定期の連載になりますが、よろしくお願い致します。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れているのを見たニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆明けましておめでとうございます。昨年度は色々ありがとうございました。今年もよろしくお願いします。あまりめでたくない暗い話を書いていますがそのうち明るくなる予定です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

処理中です...