ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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スズの指輪編

第50話 不機嫌な旦那が上機嫌になる方法

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 劇団キャットラビットのテント迄行くと、何やら騒ぎが起きていた。

「ーーお姉様、あいかわらずお幸せそうでー」
「まあ、ルッタマイヤこそ、軍将の制服がよく似合ってますわね」

 ほほほほほっ、と二人は笑いながら戦っている。

「まだ、あのうだつの上がらない男と一緒ですのね」

 ルッタマイヤの言葉に、チロバ厶が顔を背けた。

「夫よりどんどん出世する妻も、どうかと思うけど」

 ほほほほほっ、とまたやり合う。


「お、夫?」
 琉生斗は愕然としてチロバ厶の方を見た。

「ルート様!」
 ルッタマイヤが琉生斗に気づき、ひざまついて挨拶をする。

「ルッタマイヤさん、夫って?」

 チロバムは顔をこちらに向けたが黙っている。

「元、です。姉と不倫して出ていきました」

「あんたが大事にしなかったからでしょ!」

 昼ドラのような展開に琉生斗は言葉を失う。

「奥さんの出世にやさぐれて、浮気に走ったのね~」
「そういうとこうちの国、厳しそうだよね」


「はっ!こんな場合じゃありません。ルート様、殿下に行き先を言ってませんわね!」

「行き先は言ってないな」

 琉生斗が頷くのを見て、ラルジュナは肩をすくめた。

 彼の姿を見た女性達が、ヒソヒソと話をする。
 
「もの~すっごい不機嫌です。魔法騎士の相手をしてくださったのですがー」
「ーーはい」
「全滅して、士長が泣いています」

 何やってんだよーー。

「だから、東堂連絡がつかなかったんだ」
 兵馬が手を合わせた。


「もうー……、アレクー」

 あえて呼ばないようにしていた名前を、琉生斗は口にした。

 黒の騎士服を着た美貌の夫は、すぐにあらわれる。

 ただし、眉間にしわが寄っていた。


「ーールート」
 地の底から震えてくるような声だ。

「言わなかったか?すまんすまん。それよりも、あっちみろ」

 琉生斗の視線の先に、カリーナをはじめとした薄着の美女達が、真っ赤になってアレクセイを見ていた。

「何だ?」

 女だな、とアレクセイは一言いった。

「全員、おまえのセフレらしいが、どういうことだ?」

「は?」
 アレクセイが、忌々しそうに美女達を睨む。その視線のきつさに、美女達は息をとめた。


「くだらない。おまえ達、本当にそんな事を言ったのか?」

 圧が痛い。震えるような圧力に、カリーナ達は顔もあげられなくなった。

「どうなんだ?」
「怖がらせるなよ。本当のことが言えなくなるだろ」

「誓って、そんな事実はない」

 アレクセイがはっきりと言い切った。

「あそこのカリーナさん、一緒にダンジョンに潜ったんだろ?」
 アレクセイはカリーナを見て、首を傾げた。

「あー、違いますよ。たまたまダンジョン内で会っただけですーー」
 チロバ厶が消えそうな声で言った。


「他の女も、ただの見栄ですのでーー」
 



「ふふふっ、女子って怖いねー。ボクああいうの嫌いー」
「ああいう女子が嫌いなのであって、女子が嫌いとかじゃないんでしょ?」
「信用ないなー」

 兵馬とラルジュナが仲良く会話をする隣で、琉生斗は真っ青になっていた。



 ………。
 やばいーー。

 琉生斗の視線が泳ぐ。


 次は自分の番だ。

 琉生斗は目で助けを求めた。兵馬と町子は、首を振った。

「ルートー」

「ちょい待ち!ほら、イザベルさん!正真正銘のピンクダイヤだ!」 
 琉生斗はイザベルの前にピンクダイヤを置いた。


「「「えっ!!」」」

 傭兵達が驚愕の目で琉生斗を見た。

「ーー何階にあったんだ?」
「63階」

「ーー何でラルジュナ様が一緒なんだ?」

 チロバムが疑問を口にした。

「おれの親友の、ーー商売仲間」

「ひどいねー」
 ラルジュナが目を細めた。


「それって、ずるいわよね」
 薄着の美女ナジュが抗議した。
「確かに。ラルジュナ様と一緒なら取ってこれるわよね」

 他の美女もその意見に賛同した。


「えっ?駄目なのか?どうしようかな……」
「ピンクダイヤなら、持っているだろう」
 アレクセイが声をかける。

「産地が違うから」

 んー。

「よし。じゃあ、アルカトラズ地下ダンジョン、浄化しちゃおうかな」









「え?」
 全員が固まる。

「できそうなんだよね。おまえいるし。ダンジョンが無くなっちゃえば、ダイヤも宝もどうなるかわかんないけど。無いものはどうしようもないだろう?」

 ラルジュナが肩を揺らして笑いだした。

「やめなよ」
「そうよ~。魔王の遺産よ~。世界から苦情が来るわよ~」

「魔蝕がでましたで、すむ話だよ」
 兵馬と町子が呆れた顔になる。



「お、お姉様!聖女様に何をさせる気ですか!」
 烈火の如くに怒ったルッタマイヤが、イザベルの胸倉を掴んだ。


「せ、聖女様ですってー!」
「えーー!」
「男の子じゃない!」
 劇団員達が悲鳴をあげた。

「聖女様だなんて、知らなかったの!」
 イザベルが真っ青になって首を振る。


「この、高貴な御姿を見てわからなかったのですか!我が家の顔を、どこまで潰せば気が済むのです!」
 
 わからないでしょ~。兵馬と町子は、やれやれ、と言った。

「もう、悪かったわよ!これでしょ!」
 イザベルは町子に指輪を投げた。

「帰って!二度と関わりたくない!」
「何ですか!その態度は!」

「だってーー、だってーー……」
「そんな性格だから、スズ様に嫌われたのですわ!」

 ルッタマイヤの言葉を聞いて、イザベルの顔が歪んだ。走り出し、テントの奥へと消える。

「本当にーー」
 呆れるルッタマイヤにチロバ厶が近づいた。

「すまない、ルッタマイヤ……」

「名前で呼ぶな!」
 ルッタマイヤは踵を返した。




「よかったね、町子」
 兵馬が言うと、町子は頷いた。

「お師匠様、喜ぶかな~」
 銀色にきらめく指輪に喜ぶ二人を見て、アレクセイは眉間のしわを消した。




「めでたし、めでたし。さあ、アレク。帰ってお茶でもする?」
 琉生斗はアレクセイのごきげん取りにかかるが、彼の視線は厳しいままだ。


 そんなとき、頼りになるのがこの友である。

「……はい、お願いします。殿下ぁー!」
 小型魔通信でやりとりしていた兵馬が、アレクセイを呼ぶ。

「何だ?」
 アレクセイの声は尖ったままだ。

「隣のパラダイス島でいいホテルの部屋、予約とれたから」

 兵馬の言葉に、アレクセイの纏う空気が晴れやかに変わっていく。

「景色もいいし、アジャハンの部屋よりすごい良い感じだよ」  


 僕、何言ってんだろー、と兵馬が溜め息をついた。

 アレクセイが薄く笑いながら、深く頷いた。

「礼を言う」

「どういたしましてー。ルート、僕、明日はアジャハンに戻るけど、明後日の幼児運動教室は出るからね」


「お、おまえ!あのなぁ!おれはアルカトラズに潜ってお疲れなんだよ!」

「ルート、ベッドに潜ろう……。朝と言わずに永遠にーー」


 逃げられないように後ろからしっかりと抱きしめ、アレクセイが琉生斗の手に自分の手を絡めた。



「バカだこいつ!最低だぁぁぁーー!」
 

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