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スズの指輪編
第45話 条件
しおりを挟む教えてもらった場所には、大きなテントが張ってあった。
そこで、ごつい男達がお酒を飲んでいる。その横についている薄着の女性達は、役者なのだろう、皆容姿がいい者ばかりだ。
「すみません。お尋ねしたいんですが?」
「はあ?なんだ、きれいな兄ちゃんだな」
「入団したいのか?」
男達は上から下まで琉生斗をじっくりと見た。
「男装してる?」
「ちゃんと、男ですよ。ここに、イザベルさんがいるって聞いたんですがーー」
「支配人に用事か?オーディションはいま受け付けてないぜ」
それでなくても入団希望者が後を立たないのに、と男は言った。キャットラビットは人気の劇団なのだろう。
「個人的な用事です。元旦那さんの使いで来ました」
琉生斗の言葉に、男達は動きをとめた。
「支配人の元旦那ってーー」
「支配人を一度も抱かなかったくそヤローかー」
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「へー、ティンさんそうだったのか」
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「そうよ、失礼な奴よね」
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「ーー慰謝料がわりよ。あのマザコンが一番嫌がることをしてやったのよ」
マザコン。
そんな雰囲気あるな、たしかに。
琉生斗は頷いたが、町子の目は怒っている。
「返して欲しいそうなんですがーー」
「嫌よ。気に入ってるの、あれ」
「お母さんに会ったことあるんですか?」
「馬鹿にしてるの?こう見えて侯爵家の出よ」
ある程度の位があると、ティンの存在は知らされているのだろう。
「そうですかー。兵馬、どうなるんだ、この場合」
「裁判になりますよ。ティンさんは直接会いたくないようなので、代理の者が交渉にきますが、よろしいですか?」
兵馬の言葉にイザベルや、男達が目の色を変えた。
「おまえら!イザベルさんに何を言いやがる!」
「指輪のひとつで、みみっちいんだよ!」
「思い出を盗むほうに罪はないと?」
冷静な兵馬に、その場が静かになった。
「はあー。めんどくさいわ。返すわよ」
イザベルは視線を遠くに向けた。
だが、琉生斗が口を開く前にイザベルは言った。
「ねえ、あたし、アルカトラズで採れるピンクダイヤが欲しいのよ。それと交換してあげる」
「それって、おれが持ってるピンクダイヤじゃだめかな?」
琉生斗の言葉にイザベルは眉を顰めた。
「ガラス玉には用はないわよ。アルカトラズのピンクダイヤが欲しいの。そうねー、チロバ厶、どこだったかしら?」
「ダイヤは地下30階ぐらいからじゃないとでませんよ」
いかつい顔でチロバ厶が答えた。身体つきも逞しいなかなかのハンサムだ。劇団員兼傭兵なのだろう。
「だって、どう?」
「地下30階かー、町子どうだ?」
「上級者レベルね~。東堂くんがいれば大丈夫~」
「よし、大きさは?」
琉生斗はイザベルに尋ねた。
「ーー問わないわ」
そもそも、ダイヤは出てもピンクダイヤが出ることは本当に稀な事だ。
「おまえら、冗談だろ?」
ビールを飲んでいる男達が、馬鹿にした顔で琉生斗達を見た。
「そうね~、今日中には無理かも~」
「あー、時間がないか~。明日は予定があるしなー」
「僕は絶対に入らないよ」
「葛城、暇かな」
「花蓮とフラワーアレンジメントの授業してるよ」
そりゃだめだな。
「殿下呼べばいいじゃん。ていうかさ、原石も持ってるでしょ?」
声をひそめて兵馬は聞いた。
「あれ、モロッグ産だからなー」
イザベルがわかる人なら、すぐに見破られるだろう。
「まあ、行けるとこまで行くか」
「何階で出てくるかしら~?」
「何が?」
「魔物よ~」
すっかり行く気になっている三人に、イザベル達は呆れた。
「無知って怖いわね。素人が地下30階までいけるわけないでしょ」
劇団員達も皆、見下したような笑みを浮かべている。
「たしか、地下200階に記憶魔法陣があるって言ってたな」
「ーー行かないよ、僕は」
「おいおい、おまえ地下200階って、ふかしだろ」
聞こえたのかチロバ厶が近づいてきた。
「ガキはさっさと帰ったほうが身のためだぜ」
「ご親切にどうも」
琉生斗は相手にしない。
「こら、大人のいうことは素直に聞いとけ」
「無理を言ったのがあんた達の親玉だ。それを忘れんな」
ガキと思った少年に睨まれ、チロバ厶は後ずさった。
何に恐怖したのかはわからないが、この少年には他者を圧倒する何かがある。
「ーーあんた、魔法騎士なの?」
イザベルが琉生斗を見た。
「そこの娘さんは、魔導師でしょ?」
「はあい~。室長には、公私ともによくしていただいております~」
町子の言葉に、イザベルは目を細くした。睨みつけるように町子を見たが、そんなことで臆する町子ではない。真っ向から視線を受けて、睨み返している。
「お、おい。町子」
こういうとき、琉生斗はどうしていいかわからない。
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金髪の美人が、琉生斗に近づいた。
「ああ」
「あたし達、あのアレクセイ様の顔なじみなの」
わかる?
琉生斗は目を見開いた。
「あそこにいるカリーナなんて、ねえ?」
「やめてよ、ナジュ……」
カリーナと呼ばれた美女は、なんと先ほど兵馬とぶつかったグラマラスな女性だ。
琉生斗は固まった。
「風の噂に聞いたけど、アレクセイ様、ご結婚されたそうねぇ」
「はあ」
カリーナや、他の美女達が笑いだした。
「あなたの国は大変ね。聖女のために、王族がひとり犠牲になるんでしょ?」
琉生斗の横で、ひそひそと話しがはじまる。
「ーー政略結婚ってかわいそう……」
「聖女だからってやつねーー、ひどい国よねー」
薄着の美人達が、顔を歪ませている。
「アレクセイ様、なんてかわいそうな方ー」
カリーナが、ほう、と溜め息をついた。
どこが?
兵馬と町子は思った。
だが、こういう問題に弱いのが、琉生斗だ。
ーーえっ?元カノ?いや、いないっていってなかったっけ。ーーアレク、浮気してんの?でもって、特殊ゴムの三枚重ねでがんばってるの?あれ?前に行ったのって修行の旅だよなーー。マジ、何の修行してたんだよーー。
すでに心の中は動揺でぐらぐらだった。
「おまえ達、アレクセイ様を見て、キャーキャー言ってただけだろ」
チロバ厶が呆れて女達を見た。
「俺は知ってるぜ。アレクセイ様が他国の王子様と来たときに、聖女の護衛はするが結婚はしない、と言ってたからな」
したり顔でチロバ厶が頷いた。
「……そう」
みるみる琉生斗は落ち込んでいく。
ーー殿下のあほー!
兵馬と町子は頭を押さえた。
「あら、チロバ厶。あたしは、治癒師でもあるのよ。アルカトラズに一緒に潜ったこともあるわ」
カリーナが誇らしげに言った。
「はあー」
そうですかー、元気ですねー、と琉生斗はうわの空だ。
「で、一緒にベッドに潜ったの?」
ぼんやりと琉生斗は言う。
女性陣が目を剥いた。
「な、な、なカリーナ、あんた誘われたことあるのよね!?」
「ナ、ナジュこそ、い、い、いいとこ行ったんでしょ!?」
「ミ、ミルダも、さ、誘われたってー」
「あ、あたしだってあるわよ!」
「え、え、え、あたしもよー!」
女性陣が荒れに荒れた。
ひどい大嵐だ。
「あいつ、何してんだ?」
サークルクラッシャーみたいだな。
「時間がないよ。早く行こう」
兵馬に促され、琉生斗はダンジョンがある方向を向いた。
「ああ……」
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