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スズの指輪編
第43話 バツイチのティンさん
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続いて琉生斗が向かったのは魔導師室だ。
「すみません。ティンさんいる?」
ノックして顔を見せると、町子が振り向いて駆け寄ってきた。
「ルート君、いらっしゃい~。お師匠様はちょっと席を外してるけど、すぐに戻るわ~。ちょうどクッキーができたから一緒に食べない~?」
たしかに、いつも薬草のにおいがする魔導師室が、バターの匂いに変わっている。
「へぇー、オーブンでもあるの?」
「ううん。1.2.3.で製作ね」
「魔法かー」
「そう~」
魔法が使えるやつは、本当にまあー。菓子ぐらい手作りすりゃいいのにーー。
一口かじって一言。
「味はともかくー、粉っぽいな。バターはいいの使えよ。レシエみたいな」
祖母の愛用していたバターを思い出す。
あれでホットケーキは、ヤバいほどうまかった。
「はいはい~。食べなくていいわよ~」
「僕はおいしいと思う」
魔導師のエバンがクッキーを食べて微笑んだ。
「ありがとう~、たくさん食べてね~」
出された紅茶を飲みながら、琉生斗は尋ねる。
「ここはいつも人が少ないな」
「基本、みんな自分の実験室にこもってるからね~」
なーるー、と琉生斗は頷いた。
「お待たせしてすみません」
ティンが奥の部屋から出てきた。
「ごめん、ティンさん忙しいのに」
「いえいえ、レポートがまとまらなくてーー」
「ティンさん。ネルさんに聞いてきたけど、イザベルさん、一ヶ月前はパラダイス島にいたみたいだ」
「そうですか」
心底、どうでもよさそうな顔だ。琉生斗はちらりと町子を見た。
普通にクッキーを食べている。
ーー町子は動揺しねえ……しないからなー。
「明日行ってみるよ。ちょうど空きだし」
魔蝕が出ると困るがー。
「アレクセイが同行しますか?」
「そうだな。まだ聞いてないけど……」
「よければ町子も連れて行って下さい」
「え~?」
町子が嫌そうな声を出した。
「たまには出かけなさい」
「え~、目の前でいちゃいちゃはちょっと~」
「風景でしょ」
なんか悪口言われてるーー、琉生斗は紅茶を飲み干した。
数日前、ティンに結婚のことを切り込んだのは琉生斗だ。
「ティンさん。マジで結婚とか考えない?」
「私がですか?」
ありません。
「一度すれば、十分です」
「え?バツイチなのか?」
琉生斗は驚いた。
「バツイチーー、ああ、なるほど。そうですよ」
「もう一回どう?今度はうまくいくよ」
「琉生斗ーー」
ティンは深い溜め息をついた。
「たしかに、町子のことは好ましく思っています。だが、歳が違いすぎる。琉生斗は町子の将来をなんだと思っているんですか?」
「えー、おれ、町子なんて言ってないよ」
ティンが固まった。
「でも、好きなんだ。なら問題ないじゃん」
「あります」
「うちのじいちゃんとばあちゃん、二十五歳離れてたよ」
ティンが目を丸くした。
「悪の魅力が詰まったじいちゃんに、ばあちゃん一目惚れしたんだって」
実際、祖父は悪どいことばかりしていたがー。
「最後は、おれが中2のときにじいちゃんが、中3でばあちゃんが亡くなったんだ。歳はあんまり関係ないな。まあ、ばあちゃんは若すぎたけどーー」
それはそうだがー。
「うちには、母が嫁に渡すようにと言われた指輪があったんですが、それを元妻が持っていってしまったのですよ」
「ん?」
「それがないと、結婚できませんのでー」
「元奥さん、どこにいるの?」
「知りません。ルッタマイヤさんなら知っているかもしれませんねー」
ティンは会話を終わらせた。
と、いう話を聞き、ルッタマイヤのところに行くと、彼女は姉と一切連絡をとっておらず、逆にネルのことを相談された、というわけだ。
絶対に指輪を見つける、と琉生斗は決意した。
「なあ、アレク。明日の予定は?」
アレクセイの腕に包まれながら、琉生斗は彼の髪の毛や頬を撫でていた。
「ーー用事がある……」
「あっ、そうなんだー」
明日以外だと、明後日は神殿だし、その次の日は幼児運動教室があるしーー、それを次にまわそうにも東堂と兵馬の予定を聞いて、組み直さなきゃならないから難しいなー。
「じゃ、ちょっと町子と兵馬と出かけてくるわ」
「ーーちょっともう!寝かせろ!お願い!ーーああん!」
琉生斗の睡眠時間が、三時間になった。
「よし、行くぞ、パラダイス島に!」
寝不足を栄養剤でなんとかし、琉生斗はなんとかしゃきっとしている。
「あれ?殿下は?」
寝不足は可哀想だ、殿下に文句いっとこう、と兵馬は思った。
「なんか用事があるんだってー」
「へぇー」
兵馬は目を丸くした。
「何だよ、その顔」
「殿下がルート以外を優先するときがあるとはねー」
それ、よっぽどの用事なんだね。
「よし、探すぞ。初日で見つかるかな」
「無理でしょ~」
町子が呆れた。
日帰りの場合は、アレクセイが同行せずとも陛下の許可はいらないらしい。泊まりだと、すぐ近くのソラリス大神殿でも許可がいる。
わりと自分て要人だよな、と琉生斗は思う。
「すみません。ティンさんいる?」
ノックして顔を見せると、町子が振り向いて駆け寄ってきた。
「ルート君、いらっしゃい~。お師匠様はちょっと席を外してるけど、すぐに戻るわ~。ちょうどクッキーができたから一緒に食べない~?」
たしかに、いつも薬草のにおいがする魔導師室が、バターの匂いに変わっている。
「へぇー、オーブンでもあるの?」
「ううん。1.2.3.で製作ね」
「魔法かー」
「そう~」
魔法が使えるやつは、本当にまあー。菓子ぐらい手作りすりゃいいのにーー。
一口かじって一言。
「味はともかくー、粉っぽいな。バターはいいの使えよ。レシエみたいな」
祖母の愛用していたバターを思い出す。
あれでホットケーキは、ヤバいほどうまかった。
「はいはい~。食べなくていいわよ~」
「僕はおいしいと思う」
魔導師のエバンがクッキーを食べて微笑んだ。
「ありがとう~、たくさん食べてね~」
出された紅茶を飲みながら、琉生斗は尋ねる。
「ここはいつも人が少ないな」
「基本、みんな自分の実験室にこもってるからね~」
なーるー、と琉生斗は頷いた。
「お待たせしてすみません」
ティンが奥の部屋から出てきた。
「ごめん、ティンさん忙しいのに」
「いえいえ、レポートがまとまらなくてーー」
「ティンさん。ネルさんに聞いてきたけど、イザベルさん、一ヶ月前はパラダイス島にいたみたいだ」
「そうですか」
心底、どうでもよさそうな顔だ。琉生斗はちらりと町子を見た。
普通にクッキーを食べている。
ーー町子は動揺しねえ……しないからなー。
「明日行ってみるよ。ちょうど空きだし」
魔蝕が出ると困るがー。
「アレクセイが同行しますか?」
「そうだな。まだ聞いてないけど……」
「よければ町子も連れて行って下さい」
「え~?」
町子が嫌そうな声を出した。
「たまには出かけなさい」
「え~、目の前でいちゃいちゃはちょっと~」
「風景でしょ」
なんか悪口言われてるーー、琉生斗は紅茶を飲み干した。
数日前、ティンに結婚のことを切り込んだのは琉生斗だ。
「ティンさん。マジで結婚とか考えない?」
「私がですか?」
ありません。
「一度すれば、十分です」
「え?バツイチなのか?」
琉生斗は驚いた。
「バツイチーー、ああ、なるほど。そうですよ」
「もう一回どう?今度はうまくいくよ」
「琉生斗ーー」
ティンは深い溜め息をついた。
「たしかに、町子のことは好ましく思っています。だが、歳が違いすぎる。琉生斗は町子の将来をなんだと思っているんですか?」
「えー、おれ、町子なんて言ってないよ」
ティンが固まった。
「でも、好きなんだ。なら問題ないじゃん」
「あります」
「うちのじいちゃんとばあちゃん、二十五歳離れてたよ」
ティンが目を丸くした。
「悪の魅力が詰まったじいちゃんに、ばあちゃん一目惚れしたんだって」
実際、祖父は悪どいことばかりしていたがー。
「最後は、おれが中2のときにじいちゃんが、中3でばあちゃんが亡くなったんだ。歳はあんまり関係ないな。まあ、ばあちゃんは若すぎたけどーー」
それはそうだがー。
「うちには、母が嫁に渡すようにと言われた指輪があったんですが、それを元妻が持っていってしまったのですよ」
「ん?」
「それがないと、結婚できませんのでー」
「元奥さん、どこにいるの?」
「知りません。ルッタマイヤさんなら知っているかもしれませんねー」
ティンは会話を終わらせた。
と、いう話を聞き、ルッタマイヤのところに行くと、彼女は姉と一切連絡をとっておらず、逆にネルのことを相談された、というわけだ。
絶対に指輪を見つける、と琉生斗は決意した。
「なあ、アレク。明日の予定は?」
アレクセイの腕に包まれながら、琉生斗は彼の髪の毛や頬を撫でていた。
「ーー用事がある……」
「あっ、そうなんだー」
明日以外だと、明後日は神殿だし、その次の日は幼児運動教室があるしーー、それを次にまわそうにも東堂と兵馬の予定を聞いて、組み直さなきゃならないから難しいなー。
「じゃ、ちょっと町子と兵馬と出かけてくるわ」
「ーーちょっともう!寝かせろ!お願い!ーーああん!」
琉生斗の睡眠時間が、三時間になった。
「よし、行くぞ、パラダイス島に!」
寝不足を栄養剤でなんとかし、琉生斗はなんとかしゃきっとしている。
「あれ?殿下は?」
寝不足は可哀想だ、殿下に文句いっとこう、と兵馬は思った。
「なんか用事があるんだってー」
「へぇー」
兵馬は目を丸くした。
「何だよ、その顔」
「殿下がルート以外を優先するときがあるとはねー」
それ、よっぽどの用事なんだね。
「よし、探すぞ。初日で見つかるかな」
「無理でしょ~」
町子が呆れた。
日帰りの場合は、アレクセイが同行せずとも陛下の許可はいらないらしい。泊まりだと、すぐ近くのソラリス大神殿でも許可がいる。
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