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スズの指輪編

第42話 ルッタマイヤの姉の話

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「ルートが作ったのか?」
 蓮の髪飾りを見て、アレクセイが尋ねた。
「教わりながらだよ。午前中にメイドの女の子達と、アクセサリー作りをしたんだ」

 講師はあのひとねー。バレたら陛下に怒られるかなーー、と琉生斗はけだるそうにベッドに伸びる。



 服を着る元気がないー。このまま寝てしまいたいー。現在、眠気と戦う聖女。

「ルート、無理はしていないか?」
 寄せた眉根が美しく、琉生斗はベッドから彼の顔をじっと見つめた。

 好きだなーー、甘い溜め息をもらしてしまう。

「愛してるよ、アレク」
 アレクセイが目を見張った。

「ルート……」
 覆い被さり、キスを交わす。
「昼からの予定は?」
「かなり、つまってるけど」
「ひどいな」
 キスの合間に会話をし、二人の昼休みは終わる。

 アレクセイは名残惜しそうに、琉生斗から身を離した。
「ーーつらい」

「また、夜を楽しみにしてる」

「ルート……」

 いますぐにめちゃくちゃに抱きたい、と思ったアレクセイだが、ふと、何かに気づいた。

「それは誰からの入れ知恵だ?」
 目が細められる。

 やりすぎたか、琉生斗は視線を横に動かした。

「例の会か?」
「これは、マイマリ会だな」

 メンバーは、琉生斗とルッタマイヤとマリアと、ヒッタルナにイリアだ。

 よくわからないのだが、こういう事をしてみて下さい、と言われたりする。

 ろくな会がない、アレクセイは薄く笑った。

「ルートは色々巻き込まれるな」
「そうかも。平和で結構だよー」



 










 アレクセイが魔法騎士団の将軍室に向かうと言うので、琉生斗も一緒に行くことにした。

「ルッタマイヤさんに用事があるんだ」

「彼女と仲が良すぎるな」

「尊敬はしてるよ。あの化け物集団を女性の身で束ねてるんだから。他にいないだろ?近衛兵にしろ、歩兵、軽騎兵、警備隊もトップは男だけだ」

 アレクセイは頷いた。

「実力は認めよう。だが、あまりきみに近づくようなら、私は考えねばならないな」

 琉生斗は頭を掻いた。あっ、髪飾り忘れてきた。

「まー、そう怒んなって」

 腕を組みながら歩いていると、すれ違う人達から、微笑ましい笑顔でお辞儀をされる。

「こんにちは」
 琉生斗も笑ってお辞儀を返す。

「ルート……」
「ん?何だよ?」
「愛している」
「あ、ああ。ありがとう」

 大丈夫なのか、最近どんどんおかしくなってきてないか?、と琉生斗は不安でならない。

 だが、人間には突然冷める、という現象がある。

 アレクセイもいちおう人間なのだから、ありえないことではないだろう。

 急に冷められたら、本当にどうしよう。

 琉生斗はひそかに悩む。
 









「そうですかーー。ありがとうございました。ネルも、不妊を苦にしていまして……」

 琉生斗はルッタマイヤから、ネルの不妊について相談されていたのだ。

 ネルは若くして王弟に嫁いだが、子宝に恵まれずに十年経ってしまった。幸いにも夫婦仲は良好で、アスターには側室もいない。

 兄弟でこうも違うとはねー、と琉生斗は呆れる。

「いや、そうだよな。欲しい人ができないなんて、本当かわいそうだよ」

 簡単にできて、捨てようとした人間もいるのにーー。

 この話題になると、避けては通れなくなる自分の出生が、琉生斗は悲しくもある。

「神農じいちゃんの薬が効くといいんだけどなー。でも、できたとして病弱だと出産に耐えられるのかな?」 

 琉生斗の言葉に、ルッタマイヤはくすりと笑う。

「ん?」
「すみません。聖女様はいちおう男の方ですのに、親身になってくださって」

 琉生斗は鼻をかいた。

 いずれ自分もそうなるから、調べまくってるとは言えない。

 それにしても、本当にーー。

 いちおう・・・・、男になってきたなー、おれ。

 頭を抱えたい事実だ。

「姉はパラダイス島ですかー。姉らしいといえば、姉らしい場所ですわ」
「兄弟多いんだね」
「母親が違いますから、普通でしょう」

 ルッタマイヤは、何でもないことのように言った。

 そうだよな、側室の子がいるのが普通なんだよなー、琉生斗はたまに考える。

 
 アレクにもできたらどうしようー。あいつ結構うっかりさんだからなーー。酔った勢いでできちゃいました、って意外にありそうだ……。


 こっちの子供はドラゴンだし、人でも正体は明かせないし、完全に正妻の座は譲らなきゃならないよなーー。


 いやいや、そうなったら絶対離婚してやるんだけどーー。


 いまとなっては、そう簡単に踏ん切りがつくとは思えない、琉生斗の胸の内。



「いまもそこにいるかはわからないんだけど、どこに行ったかはわかるかな」
「聖女様、姉に会いに行かれますの?」
「うん」

 あらー、という顔をルッタマイヤはした。

「殿下もご一緒ですわよね?」
「ああ、聞いてみるよ」
「聖女様、催促して申し訳ないのですが、次の会はいつにします?」

 皆、楽しみにしておりますの。

「あー、えっとねーー」

 マイマリ会の次の日程を決めて、琉生斗はルッタマイヤと別れた。
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