ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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日常編

第38話 ウエディングフォト 1

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「ーーねえ、アリョーシャー。聞いてもいいー?」
 ラルジュナが当たり前のように、アレクセイの執務室に置いてあるソファに寝そべっていた。空中に書類を固定して、目を通しながら話を続ける。

「何だ?」
「ルートとしたのって、どのぐらい付き合ってからー?」
 アレクセイは目を丸くした。少し考えるように上に目が動く。


「最後までは、半年後ー」
「ホントにー!冗談でしょー!」
 ラルジュナが飛びあがって驚きを表現した。
「君はホントに辛抱強いねー」
「ルートの心の方が大切だからな」

 ーーロマンチスト過ぎるよー。

「何だ、振られたのか?」
「そうだよー!何でー?」

 ふてくされながらも宙に散らけた書類を整理する。

「あのときはヒョウマの精神状態が不安定だったからだ。普段ならそうだろうな」

 美しい瞳を書類から離し、アレクセイは親友を見た。

「不安定ー?」



 アレクセイが説明をすると、ラルジュナは形の良い眉を顰めた。

「なるほどー。なかなか重たい話だねー。恋愛に興味がないのもそういう事かー。ねえ、気になってたんだけど、君の机に飴の缶があるのは何でなのー?」

 食べないよねー?

「ルートのだ」
「それはそうかー。いいねー、幸せそうでー」
「ああ」
「ふふふっー、じゃあーまたねー」
「アスラーンの所か?」
「そうー。ひどい扱いだよー。ボクに宿代分働けって言うんだよー。もう百年分ぐらい稼いだのにねー」

 彼の場合、大袈裟に言っている訳でもないのだろうーー、アレクセイは薄く笑った。
「では」
「うんー」
 


 もうすぐ先王の一年祭だ。

 それが終わればーー。
 アレクセイはにこやかに、書類を片付けた。

 

 










 晴れて十二月二十四日ーー。
 前日に、先王の一年祭はつつがなく行われた。

 今日はアレクセイの二十一歳の誕生日であり、婚礼衣装の撮影日だ。

 魔法により雪は消され、白い花が咲き誇る王宮の中庭では、写真家達が並んで二人の登場を待っていた。

 今日の事はあまり言わなかったにも関わらず、中庭にはひと目みようと大勢の人々が詰めかけていた。

 皆、まだかまだかとその瞬間を楽しみにしている。

「あっ、来た!」
 東堂が嬉しそうな声を出した。


「「「きゃあぁぁぁぁぁー!」」」
 女性陣が悲鳴を上げるほどのアレクセイの格好良さだ。白のタキシードは、純白の刺繍が美しく映えていた。細身の身体にピッタリと寄りそうような衣装が、彼の佳麗さを引き立てる。
 
 隣りで手を引かれる琉生斗は、その格好良さから目が離せないのか、アレクセイをずっと見上げている。
 こちらは純白の衣装で、頭にはレースのヴェールとまとめた髪のまわりに花が飾られている。
 銀色の花の刺繍が愛らしいドレス風の上着(あくまでドレス風らしい)。スカートの膨らみこそ抑えてはいるが、幾重にも垂らされた飾りレースは、どう考えてもーー。

「ドレスだな」

「キレイだね!」
 東堂は頷き、モロフは手を叩いて喜んだ。

 ーーまあ、今日は本人、殿下の爆イケメンぶりにやられて、女装だ何だとは何も考えられねえなー。

 いい事だ。
 ここでごねられると面倒くさい。

 琉生斗の首元には、ラルジュナが作った真珠のチョーカーが優雅に存在をアピールしていた。

「あら、ルッタマイヤ様、あれは何の宝石かしら?」
「ねえ?わたくしもはじめてみるわ」
 ベルガモットとルッタマイヤが真珠に反応する。
「あれは、真珠、と言って最近アジャハンで見つかった宝石らしいですわ」

 ラズベリーが溜め息をつきながら二人に教えた。ミントの婚約式でジュリアム王妃が贈ってくれる約束をしたが、それからまったく話がでない。

 すぐに、と言ってくださったのにーー、とラズベリーは嘆くが仕方のない話である。
 
 なぜなら、アジャハン国王太子アスラーンはバッカイア国に真珠を卸すのではなく、ラルジュナと個人的なやり取りをする書類を交わしたからだ。

 これにはジュリアムは慌てたが、ラルジュナは飄々と答えたものだ。
「商品の展示会をしますから、そこで購入してください」

 ジュリアムは歯噛みする思いでいるだろう。
 
 ラルジュナは宝石職人がいなくても、自分でデザインからエンハンスメント(加工処理)までできるので、困ることが無いのだ。


 写真家達が連続でシャッターを切る。用意した魔導カメラをどんどん交換していく。

「はい!陛下、入ってください!」
 兵馬は他の場所の準備があるからか、この場を仕切るのは美花だ。

「ーーアレクセイ、何と美しいーー」
「父上……」
 なんか違う、それはーー。クリステイルは手で頭を押さえた。

「ーーセイラが生きていれば、喜んだだろうなーー」
 アダマスが涙を見せた。

「ーーそうでしょうか……。母が生きていれば、私はここにいなかったと思いますがーー」
「こんなに似てたら誰かは気づくぞ」

 冷静な息子の肩を叩き、アダマスは写真におさまった。クリステイルや、ラズベリーも加わる。

 ミントとセージは来なかった。

 撮りたい者は誰でも入れたので、東堂や魔法騎士達が琉生斗の隣りに立った。

「聖女様ー、美しいですなー。殿下が、なんと嬉しそうにーー」

 アンダーソニーは、涙で目がぐずぐずだった。ヤヘルもずっと鼻をかんでいる。それを見たアレクセイが、薄く微笑んだ。

 殿下ー、とアンダーソニー達はさらに泣き出した。

「おい、腕組まねえのか?」
「ほえー」
「アホ聖女、しっかりしろよ!」
 東堂に背中を押され、琉生斗はアレクセイに抱きついた。アレクセイが抱きしめ返してくれる。


「いいですねー!そのままキスしてくださいーー!」
 写真家の要望にアレクセイは応えーー。







「はい!変態殿下!そこまでです!みんな引いてます!」

「アレクセイ!やめんかぁー!!!」
 アダマスは息子夫婦のディープキスを必死でとめた。












「遅かったね」
 マグナス大神殿の前で兵馬や、ラルジュナ、アスラーン達が待っていた。
「あ、ああ……」
「ルート、口紅直すよ」
 兵馬が琉生斗の化粧を直した。
「おまえ、何でできるの?」
「くずれてると思ったから、勉強しといたの」

 ふーん。何でだろーー。

 琉生斗は首を傾げた。
「殿下、口拭く?」
「兵馬、甘やかしちゃダメよ!ホント!変態なんだから!」
 美花のまるでゾウリムリを見るような目に、ラルジュナが笑いをとめられない。

「まあ、いいじゃない。将来は黒歴史になるか、今から結果が楽しみだよ」

「ーー賭けの対象にするなよ」
 絶対賭けてるよなー。


「ヒョウマのお姉さんだねー?」
「あっ、はい!美花です!弟がお世話になってます!」
「よろしくー。ラルジュナでーすー」
 美花とラルジュナが挨拶をするのを、離れたところにいる兵馬は気になるのか横目で見ていた。


「はい。ルートは下から上見る感じね。殿下は上にいて、はい、そうそう。姉さん!ちょっと風吹かせて」
神の息吹ゴッドブレス?」
「ーーやりすぎだよ。ヴェールがなびけばいいから!」


「おっ、絵になるな。神殿に飾ってもよいか」
 アスラーンが感心して頷いた。
「いいよ」
 兵馬が返事をする。

 神殿の大階段での写真撮影には、アジャハンの国民達から喜びの声があがった。

「今度から私達でも撮ってもらえるみたいよー」
「すごーい!」
「キレイねー」
 主に女性の観客が多かった。




 






「あのー、そろそろ休憩をー」

 アジャハンのあちこちの観光名所で写真を撮られ、琉生斗はお疲れ気味だ。

 兵馬がゲロ甘飴玉を取り出す。

「はい!次はソラリス大神殿!ミハエルさんが待ってるよ!その後は、ライトアップしたマーリン浜ね。オランジー大公と作ったんだ。シルビア岬から花火をあげてもらうようにもお願いしたからー」

「おまえ、オランジー大公とも知り合いか?」
「大公の正妃は、ジュナの一番上のお姉さんだよ」
「あらまー」


 ジュナだって、ジュナだってーー。琉生斗と美花はこそこそと話しをする。


「おまえ、おれを商売の道具にしてねえか?」
 琉生斗が親友を睨んだ。
「え?だめだった?」
 兵馬が悲しそうに眉を下げた。
「い、いや。がんばるよ、おれ」
「はい、じゃあ行くよ」


 そんな二人をラルジュナは爆笑して見ていたらしい。
 
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