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バッカイア・ラプソディー編 (長編)

第34話 バッカイア帝国の王太子問題

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 人混みを抜けて走ってきた兵馬は、ラルジュナの前に立った。

「何で結界なの!防御って言ったのに!!」
 兵馬は視線をある方角に向けた。
「殿下!二時の方向二人組!町子、結界と治癒!」 

「ーーああ」
「了解~」
 
 突如あらわれた息子と自国の魔導師を見て、アダマスは目を丸くした。

 ーーこの二人の凄いところは、その場の状況を即座に理解し、動いてくれるとこだよね。

 兵馬は安堵する。


 広場にはいま衛兵達しかいない。
 ただ、様子がおかしい、と兵馬は眉をしかめた。

「何これー、い、痛いー」
 ラルジュナが顔をしかめている。町子はそこに手をかざし、光を放つ。
「はいはい~。避けたのはすごいですよ~」
 町子がラルジュナの肩を治癒した。

「兵馬君~、これって~」
 町子は手を握りながら兵馬の方を向く。

「後で説明するよ。あっ、捕まえたみたいだね」
 
 アレクセイがヒューリとフォンカベルを連れてあらわれた。
 二人は拘束されている。

「ーーヒューに、フォリカンー、なぜー?」
 ヒューリとフォンカベルは目を伏せている。
「友達なの?」
「ヒューベルは元帥の息子だしー、フォリカンは弟の乳兄弟だよー」

 あっ、思い出したーー。どちらも名門貴族だ。
 兵馬は舌打ちしたい気分だ。











「ーーあら、しくじったのーー」
 階段の上からジュリアムが言った。
「できるって言ったのにねー」


「お母様ーー」
 ラルジュナが目を細めた。







「ーー父上。愚妹は何故、婚約者が怪我をしたのに寄りもしないのですか?」
 ミントはラズベリーを守るように立っていた。
 それは悪くはないがーー。アレクセイの問いに、頬を引きつらせながらアダマスは答えた。

「婚約は解消した」
  アレクセイは眉を顰めた。

「一番の理由は?」
「ミントが弟君に一目惚れしおった」
 父の言葉にミントは両手で顔を覆った。
「ほぅ、我が家のお家芸ですか……」
「うまいこと言うな!」

「だから言ったでしょ。直感で愛せないものは、時間をかけてもどうにもならないと」

 目を細めたアレクセイがアダマスに言う。

「あれでわかるか!馬鹿息子!」
 アレクセイは憮然とした表情をしたが、すぐに剣を構える。
「父上。王妃とミントを連れて早く国へ」

 邪魔をした者は、斬るーー、アレクセイはその意志をまわりに放つ。

「ーーわかった。おまえも気をつけろ……」
 アダマス達が転移魔法で消えた。


 アレクセイは視線を動かした。町子が兵馬をかばいながら杖を構えている。
「ラルジュナ……」
「何ー?」
「どうやら国の者に愛されていないようだなー」

 衛兵達が長い筒を構えて、こちらに先を向けている。

「そうみたいだねー。何なの?あれ、おもちゃの銃ー?」
「ーーごめん、ヒントをあげてしまったみたいだ」
 兵馬が顔を曇らせた。

「あー、あれがヒョウマの世界の武器なんだねー」

 結界が効かなかったーー。

「おもちゃも強度をあげれば武器になるのかー」
 ラルジュナが息を吐いた。

「ーー怖いねー。魔法と違って感知できないんだー」
「そうだな」
 アレクセイも頷いた。
「殺気は隠せなかったようだがーー」


「ジュリアムーー」
 アルジュナが泣きながら姿を見せた。後ろには元帥ヒュースがいる。

「なぜだ?」
「なぜ?ですって?」
 ジュリアムは肩を怒らせた。


「あなたがいつまで経っても、お姉様の事ばかり言うからよ!」
 ヒステリックに叫ばれ、アルジュナは身を竦めた。
「それが、なぜ駄目なのだ!」
「いつまでもいつまでも!わたくしを見ずに!あんな子供を押し付けて、よその女の所ばかり通って!」
「ジュリアム……」


「陛下、我々もシャラジュナ様を王太子になさるべきだと思います」
「ヒュース!」
 自国の元帥にまで諭され、アルジュナは顔の色をなくしていく。

「ラルジュナ様の母上はいらっしゃらないのですから、現王妃の御子を立てるべきかと」
「ヒュース……」
 アルジュナは悲しげにラルジュナを見た。

「ラルジュナ……。ユリアム………」

「パパー……」
 ラルジュナは表情もなく首を振った。


「ヒョウマ、あれに弱点は?」
「潰せない?」
「強い保存魔法をかけてあるな」
「攻撃魔法なら、相殺できるはず。弾が入っててそれを飛ばすんだけど、スピードがものすごく速い。たぶん思っているより速いよ。けど、一回撃てば次に撃つまで時間がかかるはず……。あっちではそうなんだけどーー」

 初期のものだしーー。

 兵馬は自分がいたから撃たなかったのかも、とも思ったが、そんな事もないかと考えを打ち消した。

「ふうんー」
 ラルジュナが眉根を寄せた。
「構造は案外単純なんだ。適当な太さの筒に、その片側が塞がれていて、塞がれている方の側面に小さい穴が開いているモノ」

「「なるほどーー」」
 アレクセイとラルジュナは頷いた。

「今のでわかるんだ~」
 町子が目を丸くした。
「ルートと武器の話はしないように言ってたんだけど、射的のピストルから真似てつくったみたいなんだよね」

 やられた、と兵馬が眉をしかめた。

 ヒューリはそのために屋台の手伝いをしたのだ。射的にこだわったのもこの為だったのかーー。

「フォルカンとニコルナに僕を悪く言わせて近づいたわけだ」

 まんまと騙されたなー、と兵馬はヒューリを睨んだ。列車の車庫内にニコルナを手引きしたのも、ヒューリだったのだろう。あそこまでやられるほど、恨まれる覚えはないのだがー。

「ーーああ、いいもん教えてもらったよ。魔法が弱いヤツでも、軍の役に立つ」
「ーー軍に残りたい理由は……」

「元帥の息子が魔力の弱いポンコツじゃ、どうにもならねぇだろ……」

 ヒューベルは苦しそうな顔で下を向いた。

「ラルジュナ様は魔力が強いから、我々の気持ちなどわからない」
 フォンカベルではなく、フォリカンも項垂れた。


「貴方、出来すぎなのよ」
 ジュリアムが笑った。
「出来ないぐらいが、王にはちょうどいいわ」

 王妃の言葉を聞きながら、ラルジュナは目を閉じる。


「今日からバッカイア帝国の王太子は、シャラジュナです」
 ジュリアムの宣言に衛兵達が賛同の声をあげた。

 その声の大きさ、強さに、アレクセイは眉を顰める。
 
 ーーかける言葉もないがー……。


「ラ、ラルジュナをどうする気だ!」

 アルジュナが喚く。

「もちろん、国には置いてあげます。ヒョウマ、あなたもこの国に住みなさい。ラルジュナと共にバッカイア帝国の繁栄のために尽くしなさい」
 




 

 
「なんで?」
 兵馬は首を傾げた。

 
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