23 / 235
バッカイア・ラプソディー編 (長編)
第22話 嫉妬された兵馬。
しおりを挟む
「兵馬!晩メシ行くぞ!」
「もうちょっと待って!」
列車の中の魔石を点検し、兵馬は息をついた。
「あー、何とかなったかなー」
課題は山積みだが、思っていたより苦情は少なく兵馬は安堵した。魔石が入った動力機に鍵をして、列車から降りる。
黒が美しい列車を見ながら帰ろうとして、兵馬は足をとめた。
『調子にのるな、クソチビ!』
黒い車体に白い文字が浮かんでいた。
「いつの間にーー?」
確認前はなかったはずだーー。
突然、背後に気配がした。
「ーーヒョウマ!しゃがめ!」
琉生斗の焦った声が響いた。
「えっ……」
振り返る間もなく兵馬は後頭部に痛みを感じた。
ーー殴られた?と思いながら、兵馬の意識が薄れていく。
「兵馬ぁ!!待てぇ!おまえぇ!!」
「聖女様!わたくしが参ります!」
地面に倒れた兵馬に駆け寄り、暗闇に逃げる人影に琉生斗は叫んだ。
犯人を捕まえる為に、ルッタマイヤは走りだす。
「お願い!ーーおい、兵馬!無事かぁ!あー、どっちにしろおれは役立たずだぁ!ごめんよ!兵馬ぁー!じいちゃんー!ヘルプー!」
兵馬の後頭部からは血が流れていく。琉生斗は焦りながら教皇ミハエルを呼んだ。
「兵馬ぁ!!」
「大学の同級生でしたわ。個人的な恨みだそうです」
ルッタマイヤの言葉に、琉生斗は顔を歪めた。兵馬はミハエルに治癒聖魔法をかけてもらい、命に別状はない。
「クソッ、またいじめられてんのか。ーーバッカイアのヤツが犯人の場合は?」
「向こうの警備隊に引き渡します」
「ーー刑が甘そうだな」
「おっしゃるとおりでーー」
神殿の私室で眠る兵馬を見ながら、琉生斗は悲しそうに言った。
「どうせ嫉妬だろうな。みんなこいつに敵わないから、すぐに嫌がらせするんだよ」
「そうですかーー。ヒョウマも苦労が多いですね。聖女様、席を外しますが、着替えはよろしいでしょうか?」
琉生斗の白銀色の胡服は、兵馬の血で胸から下が血で染まっていた。
「ああ。後始末とかあるのに、ごめんな」
「とんでもございませんわ」
ルッタマイヤは微笑んで出て行く。
琉生斗は本で埋め尽くされている部屋を見て溜め息をついた。
「がんばってるのになーー」
「殿下……」
魔法騎士団軍将ルッタマイヤが、会食中のアレクセイに声をかけた。
とはいえ、アレクセイはほぼ食事に手を付けていないのだがーー。
「どうした?」
「お耳を……」
ルッタマイヤの言葉にアレクセイは眉を顰めた。
「ーーヒョウマが?」
軍将は目を丸くした。アレクセイが敢えて兵馬の名を口にしたように感じたからだ。
「クリス、後は頼む」
「兄上。どうかしましたか?」
「失礼致します」
アレクセイは素早く場から退出した。
「何だ?アレクセイは?魔蝕か?」
アダマスが尋ねる。
「いえーー、ヒョウマ殿の名前がでてましたけど……」
クリステイルが首を傾げた。
カチャンー。
「あら、珍しいこと」
ジュリアムが目を見開いた。
「ーーすみませんー」
ラルジュナはフォークを落とした。
「アレクーー」
琉生斗は黒地に銀の刺繍が映えるウエストコートを着た旦那様の正装を見て、よだれを垂らした。
「カッコいいー。おまえはなんでそんなにカッコいいんだ。ああ、アレク、あなたはどうしてアレクなの?」
「…………」
アレクセイは何と返していいかわからず沈黙した。
「おっ、正解。ここはロミオは口を挟まない。隠れて見ていて、ひたすらジュリエットの独白が続くんだ」
「そうかーー。ヒョウマは?」
アレクセイは琉生斗の身体を確認し、服を魔法で交換した。
「じいちゃんに治癒してもらったから大丈夫」
「酷かったのか?」
「あっ、後頭部をトンカチみたいな物で殴られたんで、ちょっと出血が多くて、おれパニックになっちゃったんだよ」
そうか、とアレクセイは安堵したように言い、琉生斗にキスをした。抱きしめると、琉生斗が嬉しそうにキスを返した。
「んっ」
アレクセイの舌が口の中に入り、琉生斗は吸いながら甘噛みをする。舌を絡め合いながら夢中になってキスをして、琉生斗はふと視線に気付いた。
「ーっ!、兵馬!大丈夫か!」
「もう……。僕の部屋で何やってんのさ……」
「キスだけど」
「堂々としすぎで怖いよ……」
「ヒョウマ、痛みは?」
「全然ないよー。殴られたんだよね?」
教皇ミハエルの治癒聖魔法だ、痛みも残らないのだろう。
「ああ、トンカチみたいな物だってーー」
「ーー誰に?」
「ニコルナ、って女性知ってるか?」
琉生斗の答えに兵馬は俯いた。
「そう……」
「おまえ、またいじめられてんのか?おれが行ってぶん殴ってーー」
「ルート!いい加減にしなよ!十九歳にもなって、まだ僕が君がいないと何にもできないとでも思ってるの!」
「違う!そんなんじゃねえ!おまえは勉強したくて大学に通ってるんだ、よけいな問題は考えなくてもいいように取り除きたいだけだ!」
「そのぐらい、自分でできるよ!」
「けど、ーーまた襲われたらどうすんだよ!」
「油断しないよ、これからは」
兵馬ーー、と琉生斗は悲しそうに下を向いた。
「もうちょっと待って!」
列車の中の魔石を点検し、兵馬は息をついた。
「あー、何とかなったかなー」
課題は山積みだが、思っていたより苦情は少なく兵馬は安堵した。魔石が入った動力機に鍵をして、列車から降りる。
黒が美しい列車を見ながら帰ろうとして、兵馬は足をとめた。
『調子にのるな、クソチビ!』
黒い車体に白い文字が浮かんでいた。
「いつの間にーー?」
確認前はなかったはずだーー。
突然、背後に気配がした。
「ーーヒョウマ!しゃがめ!」
琉生斗の焦った声が響いた。
「えっ……」
振り返る間もなく兵馬は後頭部に痛みを感じた。
ーー殴られた?と思いながら、兵馬の意識が薄れていく。
「兵馬ぁ!!待てぇ!おまえぇ!!」
「聖女様!わたくしが参ります!」
地面に倒れた兵馬に駆け寄り、暗闇に逃げる人影に琉生斗は叫んだ。
犯人を捕まえる為に、ルッタマイヤは走りだす。
「お願い!ーーおい、兵馬!無事かぁ!あー、どっちにしろおれは役立たずだぁ!ごめんよ!兵馬ぁー!じいちゃんー!ヘルプー!」
兵馬の後頭部からは血が流れていく。琉生斗は焦りながら教皇ミハエルを呼んだ。
「兵馬ぁ!!」
「大学の同級生でしたわ。個人的な恨みだそうです」
ルッタマイヤの言葉に、琉生斗は顔を歪めた。兵馬はミハエルに治癒聖魔法をかけてもらい、命に別状はない。
「クソッ、またいじめられてんのか。ーーバッカイアのヤツが犯人の場合は?」
「向こうの警備隊に引き渡します」
「ーー刑が甘そうだな」
「おっしゃるとおりでーー」
神殿の私室で眠る兵馬を見ながら、琉生斗は悲しそうに言った。
「どうせ嫉妬だろうな。みんなこいつに敵わないから、すぐに嫌がらせするんだよ」
「そうですかーー。ヒョウマも苦労が多いですね。聖女様、席を外しますが、着替えはよろしいでしょうか?」
琉生斗の白銀色の胡服は、兵馬の血で胸から下が血で染まっていた。
「ああ。後始末とかあるのに、ごめんな」
「とんでもございませんわ」
ルッタマイヤは微笑んで出て行く。
琉生斗は本で埋め尽くされている部屋を見て溜め息をついた。
「がんばってるのになーー」
「殿下……」
魔法騎士団軍将ルッタマイヤが、会食中のアレクセイに声をかけた。
とはいえ、アレクセイはほぼ食事に手を付けていないのだがーー。
「どうした?」
「お耳を……」
ルッタマイヤの言葉にアレクセイは眉を顰めた。
「ーーヒョウマが?」
軍将は目を丸くした。アレクセイが敢えて兵馬の名を口にしたように感じたからだ。
「クリス、後は頼む」
「兄上。どうかしましたか?」
「失礼致します」
アレクセイは素早く場から退出した。
「何だ?アレクセイは?魔蝕か?」
アダマスが尋ねる。
「いえーー、ヒョウマ殿の名前がでてましたけど……」
クリステイルが首を傾げた。
カチャンー。
「あら、珍しいこと」
ジュリアムが目を見開いた。
「ーーすみませんー」
ラルジュナはフォークを落とした。
「アレクーー」
琉生斗は黒地に銀の刺繍が映えるウエストコートを着た旦那様の正装を見て、よだれを垂らした。
「カッコいいー。おまえはなんでそんなにカッコいいんだ。ああ、アレク、あなたはどうしてアレクなの?」
「…………」
アレクセイは何と返していいかわからず沈黙した。
「おっ、正解。ここはロミオは口を挟まない。隠れて見ていて、ひたすらジュリエットの独白が続くんだ」
「そうかーー。ヒョウマは?」
アレクセイは琉生斗の身体を確認し、服を魔法で交換した。
「じいちゃんに治癒してもらったから大丈夫」
「酷かったのか?」
「あっ、後頭部をトンカチみたいな物で殴られたんで、ちょっと出血が多くて、おれパニックになっちゃったんだよ」
そうか、とアレクセイは安堵したように言い、琉生斗にキスをした。抱きしめると、琉生斗が嬉しそうにキスを返した。
「んっ」
アレクセイの舌が口の中に入り、琉生斗は吸いながら甘噛みをする。舌を絡め合いながら夢中になってキスをして、琉生斗はふと視線に気付いた。
「ーっ!、兵馬!大丈夫か!」
「もう……。僕の部屋で何やってんのさ……」
「キスだけど」
「堂々としすぎで怖いよ……」
「ヒョウマ、痛みは?」
「全然ないよー。殴られたんだよね?」
教皇ミハエルの治癒聖魔法だ、痛みも残らないのだろう。
「ああ、トンカチみたいな物だってーー」
「ーー誰に?」
「ニコルナ、って女性知ってるか?」
琉生斗の答えに兵馬は俯いた。
「そう……」
「おまえ、またいじめられてんのか?おれが行ってぶん殴ってーー」
「ルート!いい加減にしなよ!十九歳にもなって、まだ僕が君がいないと何にもできないとでも思ってるの!」
「違う!そんなんじゃねえ!おまえは勉強したくて大学に通ってるんだ、よけいな問題は考えなくてもいいように取り除きたいだけだ!」
「そのぐらい、自分でできるよ!」
「けど、ーーまた襲われたらどうすんだよ!」
「油断しないよ、これからは」
兵馬ーー、と琉生斗は悲しそうに下を向いた。
97
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます
八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」
ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。
でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!
一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる