ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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バッカイア・ラプソディー編 (長編)

第21話 やっぱりクリステイル。

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「ルート、晩餐会の準備は?」
「でない」
「え?でないの?」
「ああ」

 ーーそれ、大丈夫なのかな?

「うん。今日はいいの」
 と、琉生斗は答えた。
 しかし、実際のところアレクセイ妃殿下が他国を招いた晩餐会に出席しないのは大問題な事だ。

 だが、琉生斗はアレクセイに告げた。
「おれが出席しない事がどういう意味か、わからない人じゃないだろう?」
 アレクセイは溜め息をついた。

 琉生斗は王子の嫁という立場が一番ではない。魔蝕という災害に、唯一立ち向かう事ができる聖女という立場の方が上である。


「ーールート、私の側にいて欲しい」
「シンデレラはドレスがないから、お城の舞踏会に出ることができないんだ」

 アレクセイはひとりで出席する事にした。



「ルート、僕は車庫をチェックしに行くから」
「おう、おれも行くって」
 いいのに、複雑な顔で兵馬は琉生斗を見る。
「心配しなくても僕は平気だって」
「いいじゃねえか。最近一緒にいないんだし、ゆっくり話そうぜ」

 ふふっ、と兵馬は笑った。

「……婚約者かー」
「気になるよな。後で見に行くか?」
「そんなほいほい見に行くような場所じゃないでしょ」
 呆れた兵馬に琉生斗が言う。

「ワガママだって言っていいんだ。おれは大抵な事なら叶えてやれる」
 明るい声で兵馬は笑いだした。
「たしかに!ルートのスペックなら、スパダリってヤツだよね!」
「だろ?おれもそう思うわー」



「あっ!ヒョウマ!車内の掃除、終わったから!」
 列車の中からヒューリや清掃員達が出てくる。
「ありがとうございます!」
 兵馬は降りてくる人達に頭を下げた。

「隣りにいるのって、まさかーー」
 立ち止まったヒューリが、驚いた目で琉生斗を見た。気づけば琉生斗の側には、ルッタマイヤが立っている。

「親友のルートです」
「あっ、そうですか……」
 どういう反応をすればいいのかわからなかったのか、ヒューリは他の清掃員達のところへ走って行った。

「何、あいつ?おれのポジション狙ってるのか?」
「狙えないでしょ」
 兵馬は呆れた。
「いや、おまえの親友の座を奪う気だ」 
 
 琉生斗は危機感を覚えた。

「ーーヒョウマ、彼は軍人ですか?」
「うん?大学生だけど……」

「あちらは、十五歳から十八歳まで兵役がありますものねー」
 ルッタマイヤはつぶやいた。

「ヒューリ、軍人ぽいの?」
「ええ、常に重心を親指の付け根に移す歩き方でしたわ。歩幅も正確です。今日は警備の仕事ですか?」
「ううん。乗客の案内や、清掃だけどーー」
「そうですかーー」
 ルッタマイヤは首を傾げた。

 さすがは魔法騎士団の軍将ルッタマイヤだな、見るところが違う、と二人は頷きあった。

 









 その頃ーー。

 アレクセイは状況に固まっていた。隣りに立つ弟のクリステイルは聞いていたのだろう、特に表情も変えずに澄ました顔でいる。


「アダマス!礼を言う!打診し続けたかいがあると言うもの!」
「はんっ!おまえがしつこいからな!」
 豪奢な装飾品も美しい大広間で、二つの王族は顔を合わせていた。両国の近衛兵が並ぶ姿も圧巻だ。

 アダマスと、バッカイア国の国王アルジュナは同じ歳でとても仲が良い。

 その息子も同じ歳とは偶然もあるものだな、とアレクセイは思った。もっともアルジュナは結婚が早く、ラルジュナには三人の姉がいる。

「ラルジュナよかったなー。親友の妹なら何の問題もないだろう!」
 息子同様派手な容姿でアルジュナは言った。ラルジュナはいつもより装飾品が控えめな為、臙脂えんじ色のジャケットの金の刺繍が際立って美しい。
「そうだねー。今日はありがとうー。王女ー」

「は、はい……」
 パステルカラーの薄いピンクのふわりとしたドレスを着たミントが、カチンコチンになりながら首を振った。ラズベリーが納得していない顔でアダマスを見ている。

 今日、ミントはラズベリーと共に途中の駅からラルジュナ達のいる車両に乗車した。
 
 人生初のお見合いだったのだが、緊張しすぎて何を話したのかも覚えていない。

「クリス」
「はい?」
「知っていたのか?」
「ミントは縁談の打診だけなら大量にありましたからねー」
 兄と弟はヒソヒソと話した。

「いい話ですよね。同盟国ですし」

 そう、年齢も身分も何の問題がない婚姻だ。
 親友は見た目は軽薄そうだが、実際はそうでもなく、むしろ誠実で浮気などしない男だろう。

 ただ、ーー。

 ラルジュナがヒョウマを側室にした場合、そちらが本命だとすれば、冷遇されるのがミントの方だーー。
 アダマスやラズベリーの耳にそれが入れば両国の関係にヒビが入るのではないだろうかーー。
 
「ーーアレクセイ……」
 アレクセイは黙っていた。
「兄上、父上が……」

 弟につつかれ、アレクセイは顔をあげた。アダマスが苦い顔でこちらを見ている。
「アレクセイ、妃はどうした?」

 やはり尋ねてきたかーー。 

「はい。公式の場で着る服がないとーー」
 ラズベリーが吹きだした。バッカイア国の王妃ジュリアムが目を丸くする。

「もう、ドレスを着せなさい」
 普通に似合うなーー、アダマスは想像して頷いた。
「強要はできません」
 言い切ったアレクセイを、クリステイルは不思議そうな顔で見た。

 兄は着て欲しいのではなかったのだろうかーー。

「おまえの妻だ。言い聞かせなさい」
「お言葉ですが、父上ーー」
「何だ?」
「公式の場に、スズ様はでられた事がありません。大叔父上からも、聖女に関しては王族公務の強要はできない、と聞いております」

 アダマスは目を細めた。痛いところを突かれる。

「それはそれ、だ。父上は許されたが、あれは母とスズ様の間に誤解が生じていたからであろう?」
「そこでお祖母様を庇うとは、さすがは父上。聖女の国の王である事など、頭の中にはなさそうだ。ーーそういえば妹も、妻との間に誤解が生じるような事をしましたが……、嫌がらせと言う名の誤解ですが……」


 うわぁ、最低だ!


 クリステイルは驚愕した顔で兄を見た。
 
 な、なんで兄上、妹の縁談ぶち壊そうとしているの!

 アダマスも頭を押さえた。ミントは真っ青になって下を向いている。アルジュナが瞳をくるりと動かした。

「おやおや、どうやらアレクセイ殿下はこの話、反対のようだな」
 嘆息するようにアルジュナに言われ、アレクセイは目を細めた。

「嫌ではありませんよ。ただ我が愚妹では、その男の横には立てない。それは思います」
 
 その言葉にジュリアム王妃は扇で顔を隠した。思うところがあるのだろう。

「嫌だなー、アレクセイー、そんな睨まないでよー。ミント王女もかわいいし、ボク大事にするよー」

 も、とはなーー。

「ーーヒョウ……」
 アレクセイが言いかけた言葉に、ラルジュナは眉をしかめた。
「ーー面上は大事にするのだろう?」

「ーー嫌なヤツー!ぶぅー」
 ラルジュナが頬をふくらませ、後ろに控えていた近衛兵ジュドーは笑いを堪えた。
「アレクセイ!」
「父上。苦言を申せばいささか性急過ぎると私は思います」
 首を傾げたアダマスは、眉根を寄せたまま息子に問うた。

「何がだ?」
 
「ミントーー。おまえにその男を愛し、バッカイア国の国母となる覚悟はあるのか?」

 アレクセイの問いに、ミントは目を見開き、俯いてしまった。


 張りつめた緊張感か、王女の身体はいつもより小さく見える。

「ーーミントはまだ十五歳だ。そこまで考えずともよい」
 アダマスが助け舟を出す。アレクセイは父の言葉を流し、ラルジュナの母を見た。
 
「ジュリアム王妃は本当によろしいのですか?」
 王妃は優雅に笑みを浮かべた。

「ーーもちろんですわ。両国にとって、とても有意義な婚姻となるでしょう。アレクセイ殿下は、何を心配しておられますの?」

「ーーいえ、本当にそう思われておられるのでしたら、何も言う事はありません。ーーときに、昔ラルジュナの部屋でいただいたクッキーは、ジュリアム王妃のお手製だと聞きましたがーー」
 笑みはそのままに、ラルジュナは視線を外した。

「ええ。今でもよく、作りますの」
 ジュリアムの声が低くなった。
「お口に合いましたか?」

「大変、珍しい味でしたねー」
「アレクセイ!」
 アダマスが息子を叱る。
「いい加減にせんか!何が言いたいのだ!」
「…………」

 緊張感が走り硬直する場に、この男は動いた。


「アレクセイー。今日はよくしゃべるねー。めっずらしいー!」
 楽しそうにラルジュナが笑い声をあげる。ジュドーも忍び笑いをする。
 つられた近衛兵達も笑ってしまい、場の空気が一気に和んだ。


「ほほほっ。まあまあ皆様奥へどうぞ」
 ラズベリーがにこやかに皆を促した。


 ラルジュナの様子を見てクリステイルは舌を巻く思いだ。どんな状況下に置かれても、柔軟に対処ができる精神力。

「たしかに、兄上の親友なだけはありますねー」
 感心したように兄に言う。
「ミントの相手ではないな」
「力不足は仕方ないとして、これからじゃないですか?」

「おまえは完全に負けているな」
「ーーひどい……」
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