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バッカイア・ラプソディー編 (長編)
第20話 琉生斗と兵馬の恋バナ
しおりを挟むアダマスのテープカットにより、魔導列車は本運転を開始する。
「何度見ても凄いな!」
子供のようにアダマスがはしゃぎ、それを見たラズベリーが優雅に笑った。
この日、はじめて列車を見たセージは、友達と一緒に口をポカンと開けたまま固まっていた。
「すげぇー」
一言もらす。
乗車したい人が多すぎて抽選になったのだが、警備も増えた為、調整が必要になった。
兵馬は駅の片隅に座り、最後の最後まで計算しながらノートに今後の課題を書き込んでいく。
「これをアレクセイ殿下がつくったのですかーー」
「発案は聖女様だそうだ。魔法が使えない私達のような者への移動手段を気にされていて」
「慈悲深いねー」
自国の者はただ驚きに目を張り、陽気なバッカイア国の民は、はしゃいで騒いで大賑わいだったらしい。
「すごい!」
「速いねーー!」
魔法の使えない人達のために作った鉄道だが、いろんな人達の注目を集めた。
「バッカイアのバスラ駅からは、アルジュナ国王夫妻と、ラルジュナ王太子が乗車されるみたいよ」
神聖ロードリンゲン国行きの列車が、バスラ駅から走っているだろう。
夜はロードリンゲン王宮で晩餐会になるそうだ。
電車のスペックは新幹線並みにしているが、それでも片道三時間半はかかる。本数を増やすのもそうだが、すれ違いの線路も増設が必要だ。
アレクセイは一度作れば次からは早い、と言ってくれたが、材料が揃わなかったりで、まだ八両しかない。
「課題が多いなー」
こんな素人によく王子様が付き合ってくれるよねーー、本当にアレクセイという人は凄い人だ。
「兵馬!お疲れ様!お腹空いてないか!」
琉生斗が走ってきた。
「何とかやってるよ」
目の前にゲロ甘飴玉を出され、兵馬は苦笑いだ。
「確かにこれの力を借りるときがきたね」
勇者のような台詞を吐き、兵馬は飴を口に入れてえずいた。
「ーールート、もうちょっと甘さ控えめにしないと……」
「え?そう?」
「売れないよ」
「えー、もう軍の備蓄用にかなり作ったぞ」
「もう殿下はー」
すぐにルートの言う事を聞くんだからーー。
「しかし、すげえ事やったな。兵馬!」
「うん!まだまだこれからだけどねー。物を一から作るって、途方もない事だねーー」
ほぼ、殿下だけどーー。
「夕方にはあっちの陛下とタレ目が来るんだろ?」
兵馬と魔導列車専用の魔通信室にこもりながら、琉生斗は尋ねた。他の職員の邪魔をしないように小声で話をする。
「タレ目、って……。いうほど垂れてるかなー」
「やらしい顔してるじゃねえか」
「君にやらしいと言われてもねー」
「うるせー!そうだ、神殿の少年合唱団、いま『第九』の練習してんだぜ!」
「えぇ!凄いね!」
「だろ?」
他愛の話で盛り上がり、ときおり入る魔通信の対応を見る。
「ドーラさん、今日はありがとう。ベテランのあなたが付いてくれたおかげで助かったよ」
王宮魔通信室の副室長は、丸い顔でにっこりとした。
「最近は聖女様のおかげで暇なんで、ちょうどよかったです」
琉生斗は頭を掻いた。
ドーラや他の職員を休憩に行かせ、魔通信室は琉生斗と兵馬だけになった。
「殿下は?」
「晩餐会の準備だ」
「それはそうだよねーー」
「久々の正装だからなーー。よだれだけですむかな」
琉生斗は真剣に言った。
「鼻血もでしょ?」
「アウトなのが、イッちまうことだな」
ははははっ、と琉生斗が笑う。
兵馬は苦笑いだ。
「ーーなあなあ、おまえ、実際どうだったんだよ?」
「な、何が?」
「どうやってやられたんだ?」
「言わないよ!」
「言えよ!こんな話おまえとできる日が来るなんてなぁ」
にやにやした琉生斗を叩きながら、兵馬は眉根を寄せた。
「ーー横になってただけ……」
「え?」
琉生斗は目を丸くした。
「ーー向こうが、全部……」
してくれたから。
「ーーそ、そうか……」
あれ?
もしかしてそういうもんなのか?いや、まあ、おれは自分がしてあげたいから手本を見せてって言ったんだしなーー。
舐める、上に乗る、犬みたいな体勢になる、なかなか忙しかったけどなぁーー。
「で、気持ちよかったのか?」
琉生斗が直球で聞くと軽いパンチが飛んできた。
「猫パンチだな」
「本気で殴ってるんだよ!なんでそんな事聞くかな!」
「おまえ、おれとアレクの覗いてるから平気かなー、と」
「誰が覗いてるんだよ!ずっとやってて入る隙がないんだろ!気付いてるなら、やめてよ!」
「途中でやめられないんだよ~」
にやけた琉生斗に、兵馬は引きつる。
「ーー二人とも盛りがついた高校生よりひどいもんね」
「盛れる間は盛っとかないとな」
真面目な顔で琉生斗は頷いた。
「花の盛りは短いから……」
「ーーほんとにそんな事思ってる?」
「あのなー。おれだって、捨てられねえかな、って考えるよ。そういうのって、きっといつまでも消えないもんなんだよ」
「ルートが?」
兵馬は目を丸くした…。
「そりゃ、人だからねー。あれだー、アレクが言ってた、触れるから好かれてる、っておれが思うかもってあたってるよなー」
絶対最初にそれ言われてたら、どうせそうなんでしょ?って言いそうだよな、おれーー。
「それは、わかるね」
「遊びまくられてるのも嫌だけど、触れるから愛されてるのも、どうかって話だよな」
「だから、そうじゃないって言ってたよね?」
「うん、そうだな。おれの悪いクセだよ。ーー逆にさ、あっちは百戦錬磨っぽいよなー」
「ーーだよね」
それも複雑だよ、と兵馬はつぶやいた。
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