ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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バッカイア・ラプソディー編 (長編)

第20話 琉生斗と兵馬の恋バナ

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 アダマスのテープカットにより、魔導列車は本運転を開始する。

「何度見ても凄いな!」
 子供のようにアダマスがはしゃぎ、それを見たラズベリーが優雅に笑った。

 この日、はじめて列車を見たセージは、友達と一緒に口をポカンと開けたまま固まっていた。

「すげぇー」
 一言もらす。

 乗車したい人が多すぎて抽選になったのだが、警備も増えた為、調整が必要になった。
 兵馬は駅の片隅に座り、最後の最後まで計算しながらノートに今後の課題を書き込んでいく。

「これをアレクセイ殿下がつくったのですかーー」
「発案は聖女様だそうだ。魔法が使えない私達のような者への移動手段を気にされていて」
「慈悲深いねー」

 自国の者はただ驚きに目を張り、陽気なバッカイア国の民は、はしゃいで騒いで大賑わいだったらしい。

「すごい!」
「速いねーー!」
 魔法の使えない人達のために作った鉄道だが、いろんな人達の注目を集めた。
 
「バッカイアのバスラ駅からは、アルジュナ国王夫妻と、ラルジュナ王太子が乗車されるみたいよ」

 神聖ロードリンゲン国行きの列車が、バスラ駅から走っているだろう。
 夜はロードリンゲン王宮で晩餐会になるそうだ。
 
 電車のスペックは新幹線並みにしているが、それでも片道三時間半はかかる。本数を増やすのもそうだが、すれ違いの線路も増設が必要だ。  

 アレクセイは一度作れば次からは早い、と言ってくれたが、材料が揃わなかったりで、まだ八両しかない。

「課題が多いなー」

 こんな素人によく王子様が付き合ってくれるよねーー、本当にアレクセイという人は凄い人だ。

「兵馬!お疲れ様!お腹空いてないか!」
 琉生斗が走ってきた。
「何とかやってるよ」

 目の前にゲロ甘飴玉を出され、兵馬は苦笑いだ。

「確かにこれの力を借りるときがきたね」
 勇者のような台詞を吐き、兵馬は飴を口に入れてえずいた。

「ーールート、もうちょっと甘さ控えめにしないと……」
「え?そう?」
「売れないよ」
「えー、もう軍の備蓄用にかなり作ったぞ」
「もう殿下はー」

 すぐにルートの言う事を聞くんだからーー。

「しかし、すげえ事やったな。兵馬!」
「うん!まだまだこれからだけどねー。物を一から作るって、途方もない事だねーー」

 ほぼ、殿下だけどーー。





「夕方にはあっちの陛下とタレ目が来るんだろ?」
 兵馬と魔導列車専用の魔通信室にこもりながら、琉生斗は尋ねた。他の職員の邪魔をしないように小声で話をする。

「タレ目、って……。いうほど垂れてるかなー」
「やらしい顔してるじゃねえか」
「君にやらしいと言われてもねー」
「うるせー!そうだ、神殿の少年合唱団、いま『第九』の練習してんだぜ!」
「えぇ!凄いね!」
「だろ?」

 他愛の話で盛り上がり、ときおり入る魔通信の対応を見る。

「ドーラさん、今日はありがとう。ベテランのあなたが付いてくれたおかげで助かったよ」
 王宮魔通信室の副室長は、丸い顔でにっこりとした。
「最近は聖女様のおかげで暇なんで、ちょうどよかったです」
 琉生斗は頭を掻いた。

 ドーラや他の職員を休憩に行かせ、魔通信室は琉生斗と兵馬だけになった。
「殿下は?」
「晩餐会の準備だ」 
「それはそうだよねーー」
「久々の正装だからなーー。よだれだけですむかな」
 琉生斗は真剣に言った。
「鼻血もでしょ?」
「アウトなのが、イッちまうことだな」

 ははははっ、と琉生斗が笑う。
 
 兵馬は苦笑いだ。

「ーーなあなあ、おまえ、実際どうだったんだよ?」
「な、何が?」
「どうやってやられたんだ?」
「言わないよ!」
「言えよ!こんな話おまえとできる日が来るなんてなぁ」

 にやにやした琉生斗を叩きながら、兵馬は眉根を寄せた。 

「ーー横になってただけ……」
「え?」
 琉生斗は目を丸くした。

「ーー向こうが、全部……」

 してくれたから。

「ーーそ、そうか……」

 あれ?

 もしかしてそういうもんなのか?いや、まあ、おれは自分がしてあげたいから手本を見せてって言ったんだしなーー。


 舐める、上に乗る、犬みたいな体勢になる、なかなか忙しかったけどなぁーー。


「で、気持ちよかったのか?」

 琉生斗が直球で聞くと軽いパンチが飛んできた。
「猫パンチだな」
「本気で殴ってるんだよ!なんでそんな事聞くかな!」
「おまえ、おれとアレクの覗いてるから平気かなー、と」
「誰が覗いてるんだよ!ずっとやってて入る隙がないんだろ!気付いてるなら、やめてよ!」
「途中でやめられないんだよ~」
 にやけた琉生斗に、兵馬は引きつる。

「ーー二人とも盛りがついた高校生よりひどいもんね」
「盛れる間は盛っとかないとな」

 真面目な顔で琉生斗は頷いた。

「花の盛りは短いから……」

「ーーほんとにそんな事思ってる?」

「あのなー。おれだって、捨てられねえかな、って考えるよ。そういうのって、きっといつまでも消えないもんなんだよ」

「ルートが?」
 兵馬は目を丸くした…。

「そりゃ、人だからねー。あれだー、アレクが言ってた、触れるから好かれてる、っておれが思うかもってあたってるよなー」


 絶対最初にそれ言われてたら、どうせそうなんでしょ?って言いそうだよな、おれーー。


「それは、わかるね」

「遊びまくられてるのも嫌だけど、触れるから愛されてるのも、どうかって話だよな」

「だから、そうじゃないって言ってたよね?」

「うん、そうだな。おれの悪いクセだよ。ーー逆にさ、あっちは百戦錬磨っぽいよなー」

「ーーだよね」
 
 それも複雑だよ、と兵馬はつぶやいた。




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