ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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列車は走るよ。何乗せて?編

第13話 列車は走るよ。何乗せて? 4

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「ちょっと殿下ー。もうすぐ駅だよ」

 呆れた声の兵馬と、笑い顔のラルジュナ。
 アスラーンははじめて見たのか、目をパチクリしている。

「まったく、一日何回すれば気がすむのさ」
「亡霊城のときもすごかったよねー」

 ラルジュナが、面白そうにアレクセイの肩を叩いた。

「はあー、アレクセイがなー」

 アスラーンが不思議なものを見る目で、アレクセイと琉生斗を見た。

「キス、できたのか」

 アスラーンの言葉に、アレクセイが無言で友を睨んだ。琉生斗は続きが聞きたくて仕方ないが、列車は停まってしまった。






「失礼致します!」

 魔法騎士達が乗り込んできた。

「殿下!ありがとうございます!」
 東堂が嬉しそうに頭を下げる。
「SLとは渋いなー」
 あちこち見て、楽しそうだ。
「すごい!すごい!」

 美花もファウラに説明しながら、目を輝かせている。そんな彼女を見て、琉生斗は複雑な思いだ。


 花蓮もだが、あいつも結婚式するんだろうなーー。自分の事も考えておれに薦めてくるんだろうー?、と少し意地が悪い事を琉生斗は思った。


 いや、美花には感謝しかないーー。

 彼女も今、騎士の訓練と並行して、貴族名鑑を暗記したり、ナビエラ公爵夫人と出かけたり、必死で花嫁修行中だ。

 正直、琉生斗の事にかまっている暇はないはずなのにーー。

「でも、列車っていい思い出ばかりじゃないわね」
 美花が言った。

「あんた、花蓮に痴漢したおっさんに、殴りかかったわよね」
 琉生斗は鼻で笑った。

「あったなー、そういう事もー」
「なかなかワイルドな奥方だな」

 アスラーンが驚いている。その隣りにいた東堂が笑う。

「聖女なのに戦闘向きなんすよ」

「そういう犯罪が起きないようにできないのかしら?」

 姉の言葉に、兵馬は首を捻った。

「んー、疑うのもよくないしねー」

 ラルジュナが相槌を打つ。

 みんなが、あーでもない、こうでもない、と話し合う中、琉生斗は大河を走る列車を見たくて、窓から身を乗り出した。


「おぉー、すっげー!」


 神聖ロードリンゲン国とバッカイア国の国境、シュル大河を四キロの橋で繋いでいる。

「なっげー!世界一だなー!」

 アレクセイが琉生斗を支えている。

「もちろん。三九一一メートルより大きくしました!」

 兵馬のこだわりが見える。

「ルートも痴漢には苦労したねー」
「いらんこと言うな」
「どんな目にあったんだ?」

 アレクセイが声を尖らせた。

「ーーたいしたことねえよ。ケツ触られて、女と勘違いした、って言われたんで、どっちもよくねえわ!って顎に一発」

 あー、兵馬のばかたれーー。余計な事思い出したなーー。

「停学になったよね」
「なんでおれが悪いんだよな?」
「停学中に旅行に行くしー」
「じいちゃんの介護で付き添っただけだし」

 魔導列車はバッカイア国に入った。木や建物の雰囲気が変わっていく。

「亡霊城はどっちなんだろ?」
 東堂が尋ねるとラルジュナが答える。

「もっと西の方だよー」

 きらきらと眩しい男だな、と東堂は思った。



 小六のときの担任、あいつなー、いいヤツだったんだけど、卒業式であんな事言われるとはなーー、琉生斗は風を受けながら考える。



「ルート、子供が真似するから、もうやめなよ」
「あぁ、そうだな」

 わりーわりー、と琉生斗は席に座った。

「飲み物持って来ようか?」
「えっ?いや、大丈夫だ」

「顔色悪いよー。ルート乗り物酔いしやすい方だろ?」

「そういえば、そうだったな。全然揺れないから大丈夫だ」
「ならよかった」

 兵馬とアレクセイは頷き合った。





『先生ー、用事って何だよー』

 担任に呼ばれて卒業式の後、音楽室に顔を出す。ピアノ弾きの先生とは仲がよかった。

『加賀、先生なー。お願いがあるんだー』

 音大出身の三年目の教師だった。はじめて六年生を担当して、卒業式では名前を噛みまくっていた。

『何だよー』
『これ、着てくれないかー』

 先生が取り出したのは、女子用のスクール水着だった。呆然とする琉生斗に、彼は言った。

『よく似合うと思うんだ。後ミニスカートもいいなぁ。なぁ、加賀、頼むよ。絶対に誰にも秘密だからなー』

 琉生斗は先生の手を跳ね除けた。

『加賀。先生の事好きだろ?先生もな、おまえがこれ着てくれたらー』

 突き飛ばして、走って逃げた。

 その教師は二年後、逮捕された。



 女装を強要されたとの、生徒からの告発があったからだ。自分があのとき言っていれば、他の被害者が出なかったのにーー。






「ルート、もうじき終点だよー」
「ーーおぉ。バスラパークに寄るんだったっけ?」
「うん。僕は列車の調整をするけど、殿下と行ってきたら?」

 働き者だなー、と琉生斗は感心した。
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