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列車は走るよ。何乗せて?編
第10話 列車は走るよ。何乗せて? 1
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別日に設けた海水浴も、大賑わいだった。
国王夫妻も参加し、パボンも子供連れでやって来て、しっかりとお父さんしていた。
良い父親だな、と琉生斗は感心する。まぁ、自分の父親と比べると誰でも良い父親なのだろうがーー。
東堂は魔法騎士候補生を引率し、始終危険のないように目を光らせていた。
海水浴の次は納涼会である。
こちらも屋台の出店や、企画などで忙しい琉生斗であったのだが、それとは別にあることに頭を悩ませていた。
「仮縫いは終わったから、次からは本縫いね」
「はい!本当に、なんてお綺麗なんでしょうー」
「ちょっとずつしか出来ないけど、殿下の誕生日には間に合わせないとーー」
美花とマーサが、自分を見てうっとりしている。いや、自分ではない。自分達が作る純白の衣装にだ。
純白の衣装は、琉生斗に合わせたウエディングドレスだ。襟は立襟だがレース素材で、肩や腕もレースだ。胸からは切り替えられているが、純白の生地に銀の刺繍が入るらしい。
ズボンは履かせてもらえるが、上着は後ろ裾がふんわり膨らみ、腰から幾重にも布を重ねていく。
「ーー完全にスカートだろー」
もう、やめようやーー、と心底嫌そうな顔をするが、二人には通じない。
もう一着マネキンが着ている衣装は、漢服のアレンジだ。まあ、あっちならなんとかーー。
「絶対にやんない」
服を脱ごうとした琉生斗に美花が言う。
「写真だけは撮りなさいよ」
きつく言われる。
「何でだ?」
「あんた、結婚は一回きりなんでしょ?向こうだってそうなら、殿下は結婚式できないのよ」
そんなのかわいそうじゃない、と美花は続けた。
「あんただって我慢してる事あるでしょうけど、きっと向こうだって、言いたい事言えずに我慢してるわよ。これから弟も結婚するのよ。羨ましい、って思ったりするわ」
だからせめて、と美花は強く語った。
琉生斗は下を向いた。
アレクは結婚式したかったのかなーー、気にした事なかったけどーー。
「ルート。明日はヒョウマと一緒に鉄道を見に行くがルートはどうする?」
「場所は?」
「バッカイアのバスラ領にある車庫だ」
琉生斗は固まった。妻の様子にアレクセイが目を細める。
「ーーそれって、向こうの王太子さんは、来るの?」
アレクセイは首を振った。
「明日は来ないそうだ。試運転の日は何があっても行くと言っていたが」
「そ、そうか」
顔を合わせるの気まずいだろうなーー、と琉生斗が考えていると、アレクセイの美しい瞳がすぐ近くにあった。
「やはり、何かあったのだなー?」
視線が厳しい。
「あー、やー、うー?」
琉生斗は視線を横にしたが、頬を押さえられる。
「うー、まあ、おまえには言っといた方がいいかーー」
実はなーー、
「兵馬、ラルジュナさんと、やっちゃったんだって」
アレクセイは目を開いたまま、沈黙した。
「あいつも、両親、特に父親からの拒絶がこたえたんだろうなー。しょげちゃって、ラルジュナさんのとこ行ったそうなんだよ。ほら、あの人励ますのとかうまそうじゃん」
楽しく騒いじゃおー、みたいな。
「ーー襲ったのか」
「違うみたい。合意の上だって」
「ーーつい最近の打ち合わせではそんな感じはなかったが」
「一回きりだって。遊びでもなくて、後は普通にしましょう、なんだと」
ほんとあのタレ目、と琉生斗は肩を怒らせた。
「ーーそうか……」
「言い方悪いけど、弱ってる人間に優しくすりゃ、大抵は落ちるよな。あの人そういう人か?」
アレクセイは首を振る。
「ああ見えて真面目な男だ」
危ないのはむしろアスラーンの方なのだがーー。
「そうなんだーー。試運転の日はおれも行くから、明日は兵馬よろしくな」
「わかった」
話が終わり琉生斗からキスをする。抱き抱えてソファに横たえられ、強く深く唇でつながる。
「なあーー」
「どうした?」
「もし、だけどーー、おれが女だったらどうだった?」
アレクセイは琉生斗の顔をまじまじと見る。返事に困ったような彼の顔を見て、琉生斗は質問を取り消した。
「あぁ、やっぱりなし。変な事聞いて、ごめん!」
琉生斗はアレクセイの服を脱がしながら、首すじにキスをした。肩の傷にも念入りに唇を這わせる。
「ーー何か悩みが?」
「ーーないよ」
大事にしよう、と琉生斗は思った。
おれの大事なアレクを、大切にしよう、と琉生斗は誓った。
国王夫妻も参加し、パボンも子供連れでやって来て、しっかりとお父さんしていた。
良い父親だな、と琉生斗は感心する。まぁ、自分の父親と比べると誰でも良い父親なのだろうがーー。
東堂は魔法騎士候補生を引率し、始終危険のないように目を光らせていた。
海水浴の次は納涼会である。
こちらも屋台の出店や、企画などで忙しい琉生斗であったのだが、それとは別にあることに頭を悩ませていた。
「仮縫いは終わったから、次からは本縫いね」
「はい!本当に、なんてお綺麗なんでしょうー」
「ちょっとずつしか出来ないけど、殿下の誕生日には間に合わせないとーー」
美花とマーサが、自分を見てうっとりしている。いや、自分ではない。自分達が作る純白の衣装にだ。
純白の衣装は、琉生斗に合わせたウエディングドレスだ。襟は立襟だがレース素材で、肩や腕もレースだ。胸からは切り替えられているが、純白の生地に銀の刺繍が入るらしい。
ズボンは履かせてもらえるが、上着は後ろ裾がふんわり膨らみ、腰から幾重にも布を重ねていく。
「ーー完全にスカートだろー」
もう、やめようやーー、と心底嫌そうな顔をするが、二人には通じない。
もう一着マネキンが着ている衣装は、漢服のアレンジだ。まあ、あっちならなんとかーー。
「絶対にやんない」
服を脱ごうとした琉生斗に美花が言う。
「写真だけは撮りなさいよ」
きつく言われる。
「何でだ?」
「あんた、結婚は一回きりなんでしょ?向こうだってそうなら、殿下は結婚式できないのよ」
そんなのかわいそうじゃない、と美花は続けた。
「あんただって我慢してる事あるでしょうけど、きっと向こうだって、言いたい事言えずに我慢してるわよ。これから弟も結婚するのよ。羨ましい、って思ったりするわ」
だからせめて、と美花は強く語った。
琉生斗は下を向いた。
アレクは結婚式したかったのかなーー、気にした事なかったけどーー。
「ルート。明日はヒョウマと一緒に鉄道を見に行くがルートはどうする?」
「場所は?」
「バッカイアのバスラ領にある車庫だ」
琉生斗は固まった。妻の様子にアレクセイが目を細める。
「ーーそれって、向こうの王太子さんは、来るの?」
アレクセイは首を振った。
「明日は来ないそうだ。試運転の日は何があっても行くと言っていたが」
「そ、そうか」
顔を合わせるの気まずいだろうなーー、と琉生斗が考えていると、アレクセイの美しい瞳がすぐ近くにあった。
「やはり、何かあったのだなー?」
視線が厳しい。
「あー、やー、うー?」
琉生斗は視線を横にしたが、頬を押さえられる。
「うー、まあ、おまえには言っといた方がいいかーー」
実はなーー、
「兵馬、ラルジュナさんと、やっちゃったんだって」
アレクセイは目を開いたまま、沈黙した。
「あいつも、両親、特に父親からの拒絶がこたえたんだろうなー。しょげちゃって、ラルジュナさんのとこ行ったそうなんだよ。ほら、あの人励ますのとかうまそうじゃん」
楽しく騒いじゃおー、みたいな。
「ーー襲ったのか」
「違うみたい。合意の上だって」
「ーーつい最近の打ち合わせではそんな感じはなかったが」
「一回きりだって。遊びでもなくて、後は普通にしましょう、なんだと」
ほんとあのタレ目、と琉生斗は肩を怒らせた。
「ーーそうか……」
「言い方悪いけど、弱ってる人間に優しくすりゃ、大抵は落ちるよな。あの人そういう人か?」
アレクセイは首を振る。
「ああ見えて真面目な男だ」
危ないのはむしろアスラーンの方なのだがーー。
「そうなんだーー。試運転の日はおれも行くから、明日は兵馬よろしくな」
「わかった」
話が終わり琉生斗からキスをする。抱き抱えてソファに横たえられ、強く深く唇でつながる。
「なあーー」
「どうした?」
「もし、だけどーー、おれが女だったらどうだった?」
アレクセイは琉生斗の顔をまじまじと見る。返事に困ったような彼の顔を見て、琉生斗は質問を取り消した。
「あぁ、やっぱりなし。変な事聞いて、ごめん!」
琉生斗はアレクセイの服を脱がしながら、首すじにキスをした。肩の傷にも念入りに唇を這わせる。
「ーー何か悩みが?」
「ーーないよ」
大事にしよう、と琉生斗は思った。
おれの大事なアレクを、大切にしよう、と琉生斗は誓った。
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