ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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海水浴に行きましょう。編

第9話 海水浴に行きました。終☆

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「あー、カレン。聖女様を逃がしましたね!」

「あら、ごめんなさい。クリスくん」

「いやいや、いいんですよ。兄上が捕まえますから」

 チョロいなー、王太子殿下。

 近衛兵達は笑いを噛み殺した。

「そうだな」
 アレクセイは溜め息をついた。

「痴話喧嘩ですか?」
 クリステイルが尋ねた。

「あぁ。昨日のことでな……」

 その後の行為も、怒りを倍増させることになったのだがーー。

「はははっ。仲が良すぎるのも喧嘩になるんですね」
 弟の言葉に、アレクセイは頷いた。

「ああ」

 噂で、『公開セックスしたらしい』、と聞いた近衛兵達は、仲が良すぎるどころではないだろう、と笑いをこらえるのに必死だ。



「アレクセイ、クリステイル。こんなところでどうしたのだ?」

 二人の父親である国王アダマスが、近衛兵を統括するパボンと歩いてきた。

「カレンと一緒かー」

 近衛兵達が一斉に跪いた。

「よい」
 アダマスは近衛兵を立たせた。

「はい。御義父様、ごきげんよろしくて?」
「うん。すごくいい」

 アダマスは花蓮にめろめろだ。

「セージはどうでしたか?」
 クリステイルが苦笑いで尋ねる。

 セージは昨日海水浴から帰って来ると、すぐにアジャハンに戻ると言い出した。

 今日、アダマスとラズベリーで、あちらの宿舎に送るついでに、観光でもしてきたのだろう。パボンが袋をたくさん下げている。

 ラズベリーがいないところを見ると、彼女だけ息子が心配で、どこかのホテルにでも泊まっているのかもしれない。

「すっかり拗ねておる。アレクセイ、本当におまえは大人気ないなぁ。セージの前で公開セックスとはー、何を考えているのだーー」

 アダマスの呆れた声に近衛兵達が吹いた。

「父上ー、父上こそ、セージにお酒のこと言ったでしょう?」 

「いやいや、あれはだなー。セージにアレクセイの弱点はないかと聞かれてな。弱点は知らないが、お酒だけは絶対に飲ませるな、と言ったんだ」

「まったく、よけいな事をいっちゃってーー」
「すまない、すまない」
 アダマスは苦笑した。

「セージが持ち出すとはなー。美味かったか?私の大事なカルヴァドス……」
 かなりがっかりした顔で、アダマスは尋ねた。

「美味しかったような気はします」

 覚えていませんが。

「うん。おまえはもう絶対に飲むな。そうだ、クリステイル……」

 アダマスはクリステイルの耳に口を寄せた。

「どうだった?ルートの反応は?見たんだろ?」

「ーー父上ー……」
 クリステイルは力なく、項垂れた。

「兄上に聞こえてますよ」
 アレクセイは剣身を軽く持ち上げていた。

「わかった!冗談だ!そりゃ、気にはなっている!おまえがそこまで入れ込んでるんだ!ちょっと、どんな具合かな~と」

 アレクセイに足を踏まれ、アダマスは、絶叫した。パボンは頭を抱える。

「もう、殿下ったら……」
「父上ーー……」

 お元気で何よりですね、とクリステイルは疲れた顔をした。

「クリスくん、大丈夫?」
「大丈夫ですよー。ねぇ、カレン、次はいつ会えます?」
「明日、ダンスの練習で来るけどー」
「お茶しましょう!」

 季節は夏だが、人生は春だ。

 クリステイルは春の女神様のような花蓮に、ドキドキしっぱなしであった。









「ここだ!こんな素晴らしい場所があるとは!」
 琉生斗はダイアモンド公園内にある小高い丘にあがり、王都を一望できる場所にテントを張った。

 ランタンに火をつけ、気分が盛り上がる。

「おっ、月が見えるねぇー。星はまだかいな~♪」

 機嫌がなおった琉生斗は、スキレットを取り出し、火の準備をした。

 ドボルザークの『家路』をハミングしながら、火を起こす。

 兵馬も、東堂も、葛城にしろ町子だって、魔法で、ピット火がでるのになーー。

 最近、兵馬は魔法の上達が目覚ましいようだ。先生がアレクセイでよくやってるよな、と琉生斗は感心するーー。絶対に教え方は下手くそだろう。

 あまった豚の薄切り肉を塩コショウで炒めて、そこに卵を落とした。ゆっくりと弱火で焼く。

「あー、先にパン焼けばよかったなー」

 琉生斗はスキレットを安全なところに置いて、パンをじかに火で炙ってみた。

「あっち!あっついなー!箸があったらなー。火を弱めるのも消えちゃうと嫌だしなー」

 もう少し炙ろうと、琉生斗はパンを火の中にーー。

 そのとき、風が吹いた。突風が火を連れさり、火はテントにぶつかる。

「あー!」

 火がついたテントは、勢いよく燃えだした。

「えー!防火テントって書いてたのに!うわー!どうしよう!水!あー、危ないよな!もう!」

 琉生斗は大声をあげた。


「アレクー!助けて!」

 瞬間、アレクセイはあらわれ、テントを見て溜め息をつきながら、指を鳴らして火を結界に閉じ込めるように空気を遮断した。

 すぐに火は消えた。

「あ、ありがとうー」
 視線が泳ぐ。

「危険だな」
「いやー、風が吹いてさー」
「こんな美しい人がここで野宿とはー。危険でしかない」


 アレクセイは琉生斗を抱き上げて、荷物ごと離宮に転移した。

「あっ!」

 ソファの上に置かれるや、琉生斗は深いキスを受ける。強引に入ってきた舌に、ピクリと身が震えた。

 首を振るが、がっちりと押さえ込まれていて、身動きができない。

「ルート……。ルートが足りないー」
 アレクセイが、耳元で囁く。

「充分、だろ……」

 真っ赤になったまま、琉生斗は目を閉じた。
 耳を噛むアレクセイの息が、熱すぎてーー。


 


「やっぱりこうなるのか!」
 翌日、ベッドの上で琉生斗は叫んだ。

「ルート……。もう一回…」
 甘えるようにアレクセイに言われた琉生斗は、怒鳴ろうと思っていた牙を抜かれた。

「え、えっとー、あ、ああ、うん」  



 いいよー。







「けどさ、今日の夜は星がみたいな」

 昨日もきっと綺麗だっただろうー。
 ロマンチックに、ふたりで星を見ながら散歩したりーー、いいよなー。

「わかった。星が見えるところがいいんだな?」

「いや、わかってねえ。誰が星が見えるところで、したい、って言ってんだよー」

 もう、泣くしかない。

「ルートだな」

 はいはい、もうしばらくはそれでかまいませんよ。

 琉生斗は諦めた。

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