ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
10 / 250
海水浴に行きましょう。編

第9話 海水浴に行きました。終☆

しおりを挟む
「あー、カレン。聖女様を逃がしましたね!」

「あら、ごめんなさい。クリスくん」

「いやいや、いいんですよ。兄上が捕まえますから」

 チョロいなー、王太子殿下。

 近衛兵達は笑いを噛み殺した。

「そうだな」
 アレクセイは溜め息をついた。

「痴話喧嘩ですか?」
 クリステイルが尋ねた。

「あぁ。昨日のことでな……」

 その後の行為も、怒りを倍増させることになったのだがーー。

「はははっ。仲が良すぎるのも喧嘩になるんですね」
 弟の言葉に、アレクセイは頷いた。

「ああ」

 噂で、『公開セックスしたらしい』、と聞いた近衛兵達は、仲が良すぎるどころではないだろう、と笑いをこらえるのに必死だ。



「アレクセイ、クリステイル。こんなところでどうしたのだ?」

 二人の父親である国王アダマスが、近衛兵を統括するパボンと歩いてきた。

「カレンと一緒かー」

 近衛兵達が一斉に跪いた。

「よい」
 アダマスは近衛兵を立たせた。

「はい。御義父様、ごきげんよろしくて?」
「うん。すごくいい」

 アダマスは花蓮にめろめろだ。

「セージはどうでしたか?」
 クリステイルが苦笑いで尋ねる。

 セージは昨日海水浴から帰って来ると、すぐにアジャハンに戻ると言い出した。

 今日、アダマスとラズベリーで、あちらの宿舎に送るついでに、観光でもしてきたのだろう。パボンが袋をたくさん下げている。

 ラズベリーがいないところを見ると、彼女だけ息子が心配で、どこかのホテルにでも泊まっているのかもしれない。

「すっかり拗ねておる。アレクセイ、本当におまえは大人気ないなぁ。セージの前で公開セックスとはー、何を考えているのだーー」

 アダマスの呆れた声に近衛兵達が吹いた。

「父上ー、父上こそ、セージにお酒のこと言ったでしょう?」 

「いやいや、あれはだなー。セージにアレクセイの弱点はないかと聞かれてな。弱点は知らないが、お酒だけは絶対に飲ませるな、と言ったんだ」

「まったく、よけいな事をいっちゃってーー」
「すまない、すまない」
 アダマスは苦笑した。

「セージが持ち出すとはなー。美味かったか?私の大事なカルヴァドス……」
 かなりがっかりした顔で、アダマスは尋ねた。

「美味しかったような気はします」

 覚えていませんが。

「うん。おまえはもう絶対に飲むな。そうだ、クリステイル……」

 アダマスはクリステイルの耳に口を寄せた。

「どうだった?ルートの反応は?見たんだろ?」

「ーー父上ー……」
 クリステイルは力なく、項垂れた。

「兄上に聞こえてますよ」
 アレクセイは剣身を軽く持ち上げていた。

「わかった!冗談だ!そりゃ、気にはなっている!おまえがそこまで入れ込んでるんだ!ちょっと、どんな具合かな~と」

 アレクセイに足を踏まれ、アダマスは、絶叫した。パボンは頭を抱える。

「もう、殿下ったら……」
「父上ーー……」

 お元気で何よりですね、とクリステイルは疲れた顔をした。

「クリスくん、大丈夫?」
「大丈夫ですよー。ねぇ、カレン、次はいつ会えます?」
「明日、ダンスの練習で来るけどー」
「お茶しましょう!」

 季節は夏だが、人生は春だ。

 クリステイルは春の女神様のような花蓮に、ドキドキしっぱなしであった。









「ここだ!こんな素晴らしい場所があるとは!」
 琉生斗はダイアモンド公園内にある小高い丘にあがり、王都を一望できる場所にテントを張った。

 ランタンに火をつけ、気分が盛り上がる。

「おっ、月が見えるねぇー。星はまだかいな~♪」

 機嫌がなおった琉生斗は、スキレットを取り出し、火の準備をした。

 ドボルザークの『家路』をハミングしながら、火を起こす。

 兵馬も、東堂も、葛城にしろ町子だって、魔法で、ピット火がでるのになーー。

 最近、兵馬は魔法の上達が目覚ましいようだ。先生がアレクセイでよくやってるよな、と琉生斗は感心するーー。絶対に教え方は下手くそだろう。

 あまった豚の薄切り肉を塩コショウで炒めて、そこに卵を落とした。ゆっくりと弱火で焼く。

「あー、先にパン焼けばよかったなー」

 琉生斗はスキレットを安全なところに置いて、パンをじかに火で炙ってみた。

「あっち!あっついなー!箸があったらなー。火を弱めるのも消えちゃうと嫌だしなー」

 もう少し炙ろうと、琉生斗はパンを火の中にーー。

 そのとき、風が吹いた。突風が火を連れさり、火はテントにぶつかる。

「あー!」

 火がついたテントは、勢いよく燃えだした。

「えー!防火テントって書いてたのに!うわー!どうしよう!水!あー、危ないよな!もう!」

 琉生斗は大声をあげた。


「アレクー!助けて!」

 瞬間、アレクセイはあらわれ、テントを見て溜め息をつきながら、指を鳴らして火を結界に閉じ込めるように空気を遮断した。

 すぐに火は消えた。

「あ、ありがとうー」
 視線が泳ぐ。

「危険だな」
「いやー、風が吹いてさー」
「こんな美しい人がここで野宿とはー。危険でしかない」


 アレクセイは琉生斗を抱き上げて、荷物ごと離宮に転移した。

「あっ!」

 ソファの上に置かれるや、琉生斗は深いキスを受ける。強引に入ってきた舌に、ピクリと身が震えた。

 首を振るが、がっちりと押さえ込まれていて、身動きができない。

「ルート……。ルートが足りないー」
 アレクセイが、耳元で囁く。

「充分、だろ……」

 真っ赤になったまま、琉生斗は目を閉じた。
 耳を噛むアレクセイの息が、熱すぎてーー。


 


「やっぱりこうなるのか!」
 翌日、ベッドの上で琉生斗は叫んだ。

「ルート……。もう一回…」
 甘えるようにアレクセイに言われた琉生斗は、怒鳴ろうと思っていた牙を抜かれた。

「え、えっとー、あ、ああ、うん」  



 いいよー。







「けどさ、今日の夜は星がみたいな」

 昨日もきっと綺麗だっただろうー。
 ロマンチックに、ふたりで星を見ながら散歩したりーー、いいよなー。

「わかった。星が見えるところがいいんだな?」

「いや、わかってねえ。誰が星が見えるところで、したい、って言ってんだよー」

 もう、泣くしかない。

「ルートだな」

 はいはい、もうしばらくはそれでかまいませんよ。

 琉生斗は諦めた。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】モノトーン

ナカハラ
BL
彼の目は色を写すことが無かった。 だから、彼の描く絵は常に黒と白と灰色ばかり。 そんな彼の事を憎らしいと思っていた。 彼が夢を追い続ける限り、自分の自由なんて何も手に入らないのだから、恨むのも当然だろう?

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

【完結】逆神伝・番外

邦幸恵紀
ファンタジー
『逆神伝』の番外・小話集です。『逆神伝』先読み推奨です。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

処理中です...