ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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海水浴に行きましょう。編

第8話 海水浴に行きました。2

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「ソニーさん達、いる?」

 東堂とトルイストにお好み焼きを運ばせ、琉生斗は将軍室の扉を叩いた。

「聖女様!いいところに来て下さいました!」
 ヤヘルが喜んで迎えてくれる。

 瞬間、琉生斗は悟った。アレクセイの匂いがする。

「殿下があまり機嫌がよくないのですー」
「ーーすみませんね」

 機嫌で仕事をするなよな、まったく子供なんだからーー。

「ソニーさん達、昨日はホントありがとう」
「これは聖女様。よくいらして下さいました。おや、なんだかとてもいい匂いがしますなー」

「あっちの料理でお好み焼き、って言うんだー」

 アレクセイの視線が突き刺さる中、琉生斗は気にしないようにした。

「あら、美味しいですわね」

 ルッタマイヤが目を丸くした。
 かわいいなぁ、と東堂は照れる。

「よかったー」
「ほんとに美味いですぜ!」
「ええ、殿下もどうですか?」

 アンダーソニーとヤヘルが、気を使ってちらちらとアレクセイを見ているのを、琉生斗は気の毒に思った。

「東堂もトルさんもあんまり食べてないだろ?ここで食べてったら?」

「やったぁ!混ざっていいっすか!」
「いいぞ」
「では、失礼します。殿下はー」
「いいよ。外連れてくから、ゆっくり食べてー」

 琉生斗はアレクセイを引っ張って、外に連れ出した。




 人気のないところまで来ると、アレクセイが口を開いた。

「家出先は見つかったのか?」

 尋ねられ、琉生斗は眉を顰めた。

「あのな、これだけは言っとく。自分の機嫌で仕事をするな」

 琉生斗の言葉に、アレクセイは目を細めた。

「わかっている……」
「ならいいよ」

 琉生斗はキスをねだった。アレクセイが琉生斗を抱きしめてキスをする。




「あらー、アレクセイ殿下と聖女様、またキスしてますね」
「仲良しねー。掃除は後にしましょう」

 家まで我慢せんか、美花は引きつった。カルディやレノラは、微笑ましく見守っているが、どれだけいちゃいちゃしたら気がすむのか。

「あたしがファウラ様とあんなんだったらどうします?」

 美花が尋ねると、カルディが答えた。

「いいと思うわよ」
「えー!頭おかしくないですか?」
「ミハナーー」

 カルディは頭を押さえた。

「ふふっ。あんなお互いしか目に入らない時期って、すごく貴重な時期よ。長く楽しんでいただきたいわ」

 レノラが言うと、そんなものなのか、と美花は感じた。

 たしかに、新婚だものねーー。

「それにしても、殿下は本当に聖女様を愛しているわね」
 レノラが感心したように言った。
「そうですよね。愛が深い変態ですよねー」
「ミハナーー……」



 
 結局、東堂よりもアンダーソニー達の猛反対にあい、琉生斗は男子宿舎には立ち入れなくなった。

「ちぇー。時間を無駄にした」
「諦めたらどうだ?」

 アレクセイが琉生斗を後ろから抱きしめる。手を握られると、琉生斗の心臓が早鐘を打つ。

「いや、今日は絶対に家出する!おっ!」

 琉生斗は王城の入口に向かう、花蓮とクリステイルを目にとめた。

「おーい!花蓮!」
 花蓮は琉生斗の声に、にこりと微笑んだ。
「ルートくん。ルートくんもデート?」

 デートだったのかー。近衛兵付きで大変だなーー。

 花蓮達の近くに寄ろうとすると、アレクセイが琉生斗を抱き上げて、彼らの前まで運んだ。

「クリス。昨日は片付けもしないで悪かったな」

 アレクセイの腕からおりると、琉生斗は海水浴でのお礼を述べた。

「いえいえ、ほぼ魔法騎士の皆さんが片付けて下さいましたから」

 クリステイルは行儀よくお辞儀をした。近衛兵達も、琉生斗に頭を下げている。

「花蓮、いま帰りか?」
「うん。クリスくんが神殿まで行きたいって」

 花蓮の言葉に、琉生斗はにやにやがとまらない。

「おまえもあれだ、そのうちところ構わずキスされんぞ」
「まあ、そうなの?クリスくん」

 大きなお目々をさらに開いて、花蓮が問う。

「わ、私はしませんよー!」
 クリステイルは大袈裟に手を振った。

「いや、そのうちやるな」
「なんでですかー!」

 顔を赤らめて恥ずかしがるクリステイル。

「おまえはアレクの弟だからだ」

 きっぱりと言い切られ、クリステイルは呆然と兄を見た。兄は当然といった眼差しを、自分に向けている。

「えっ、私大丈夫ですか?」

 後ろの近衛兵長ヒョードルに確認すると、彼はやや視線を外した。

「ヒョードル?」
「一概には言えませんが、最近その傾向がでてきております」

 他の近衛兵も深く頷いた。

「デレデレなところが、やばいかと」
 近衛副兵長ラミアンが真っ直ぐな目をして進言する。

「デート前の、楽しみで仕方ないって顔は、まじできついです」

 近衛兵ルッコラにまで言われ、クリステイルは項垂れた。

「よかったな。クリス」
 アレクセイは面白そうに、薄く笑った。
「いやいや、気をつけますよ」

 いや、だが、しかし。兄も聖女様がくるまでは、こんな人ではなかった。


「そうかー、恋って怖いですねー、兄上」

 アレクセイは頷いた。
「ああ。だが、怖くとも近づいてしまうのが、恋というやつだ」
 
 通じ合う兄弟をよそ目に、琉生斗はこっそり花蓮と王城の門をくぐった。

 琉生斗は立場上、一人では門をくぐることができないのだ。

「じゃあな、花蓮」
「うん。またね」

 琉生斗は走る。とにかく走る。

 さあ、どこに行こうかなーー。
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