ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
4 / 236
海水浴に行きましょう。編

第3話 海水浴に行きましょう。3

しおりを挟む
「失礼しまーす。アレクいる?」

 この世で唯一、兄をとめる事ができる人物が食堂室に入ってきた。扉がない事に首を傾げ、部屋の惨状に目を丸くする。

「何してんの?」

 アレクセイは無言だった。琉生斗が気にせずに口を開いた。

「セージ、海なんだけどさー。東堂に話したら、モロフやソニーさん達も行きたいって言うんだ」 
「えっ?」
「百人ぐらいになるけど、陛下、いい?」

 琉生斗の問いに、アダマスがしっかりと頷いた。

「好きに使え」
「サンキュー。じゃ、セージ、明後日な。ダチ呼べよ。クリスも花蓮が来るから、都合が合えばーー」
「行きます!ぜひ!」

 クリステイルは元気が出た。

「ミントも、ナス達誘ってやれよー」
「え!いいんですの!」

 ミントがはしゃぎ、長兄の視線に気付いて口を閉じる。

「大勢が嫌じゃなけりゃな。ほれ、アレク、ナルディアに行くぞ」

 琉生斗がアレクセイを引っ張った。

「テントとか椅子はソニーさん達、飲み物は東堂達、バーベキュー食材はおれらで調達するから、セージは氷菓子を用意してくれ」

 セージはその言葉に、首を捻った。

「オレが?」

 あーあ、とクリステイルが肩を竦める。
 
 我らが聖女様は、人の為に動かない奴が大嫌いなのだ。

「無理ならいいよ。陛下、ビーチ貸してくれてありがとう」

 頭を下げて食堂室から出て行く妻に続き、アレクセイは扉を直し、アダマスに頭を下げた。

「食事中に失礼致しました」

「ーーたまにはおまえ達も来い」

 剣は無しでな、とアダマスは苦笑いだ。

「二人で楽しみたいのでーー」
 アレクセイの涼し気な目が、勝ち誇ったようにセージを見た。

「うわぁ、陰険野郎ー」

 セージが舌を出した。

「兄上、氷菓子は私が用意しますので」
 クリステイルの言葉に、アレクセイは軽く溜め息をついて頷いた。

「あぁ」
 








「ホント何してたんだ?」

 呆れた琉生斗の唇にキスがくる。

 廊下で頭を下げているメイド達が、きゃあきゃあ言っているので、見られているんだろう、と琉生斗は思った。

 アレクセイが歩きながら、魔法で衣服をいつも着ている簡素な騎士服へと変える。

「あー!もうちょい着とけよー」

 カッコよかったのにー。できたらそれで襲って欲しいーー。

「そういえば、王族の正装のときは、魔法で着替えないんだな」
「あれは、着せる仕事の者がいるからな」 

 なるほどー、と琉生斗は納得した。仕事は取っちゃ駄目だな。

「ナルディアで肉と野菜買って、オランジーで海鮮買おう。大量に買わなきゃー。すぐ冷凍できるだろ?」

「あぁ」
 アレクセイが薄く笑う。

 いつの間にか人が増え、魔法騎士団のトップ達も進んで手を貸すーー。

「明後日、当番なんかで行けない人もいるから、そういう人にも別日設定しようぜ」
「そうだな」

 ルートは本当にーー。女神様より女神様だーー。

 アレクセイの心の声が、偶然耳に入った時空竜の女神様は、おおいに苦笑なされたそうだ。












 海水浴当日ーー、絶好の海日和である。

 転移魔法でアダマスのプライベートビーチにきた琉生斗は、すでに張られたテントに案内される。奥には宿泊用に別荘が建てられていた。
 
 プライベートビーチならではの建物だろう。 

「早いなー」
 テント、もう立てたのかーー。

「魔法で立てますから」
 トルイストが言う。Tシャツにサーフパンツという姿に、琉生斗は吹き出した。

「お、おまえ、泳ぐんだー」
「泳ぎますよー。妻は泳ぎませんがーー」

 優雅にお辞儀をしたベルガモットは、首元まである白いワンピースだ。

「きょ、今日も美しいなー」
 東堂が顔を赤らめた。こっちはTシャツも無しだ。

「いやー、もう女性陣の水着が楽しみで寝られなかったぜ。ルッタマイヤ軍将、どんなかなー」

 わくわくしている東堂には申し訳ないがーー。

「おまたせー」
「おはよ~」

 美花と町子があらわれる。東堂は振り返り、吹き出す。

「なんだよ、おまえら。田植えでも行くのか?」
 全身黒のラッシュガードに、白黒ボーダーのTシャツとステテコを着た二人に、東堂は大受けだ。

「ーー東堂」
 琉生斗が東堂の肩を叩いた。

「なんだよー」
 東堂は琉生斗の指差した方向を見た。

 愕然とするーー。

 ルッタマイヤをはじめ、レノラ、ミント達でさえ、全身黒のラッシュガードにボーダーのTシャツとステテコなのだ。

「なんでだーー!」
 東堂は膝から崩れ落ちた。

「淑女の国だからなー」

「ノオォォォーー!」
 雄叫びに、トルイストが溜め息をついた。

「トードォは何を言っているんだ。早く飲み物を準備するぞ。ベル、喉は渇いていないか?」

「ふふっ、大丈夫ですわ」

「ーー東堂、オランジーやバッカイアの普通のビーチなら、ビキニの姉ちゃんもいるぞ」

 え?と東堂は復活した。

「うちはそもそも海がないから、水着が流行らねえんだよ」

 魔法使えなきゃ、移動に時間がかかるしーー。誰も海水浴の為に、長時間移動なんかしない。

「鉄道はどうなってんだ!」
「いま、試運転中だよ」

 兵馬が答えた。

「僕、遊んでる場合じゃないんだけどーー」
「おまえ、海に来ても遊ばないだろ」

「ーー悪かったね。殿下も、来月の開通式に間に合うように、急いで欲しい事もあるのにー」

 兵馬がぶつくさ言いながら、書類を広げている。

「ホント、奥さんに甘いよねー」
 じろりと兵馬に睨まれ、アレクセイは薄く笑う。

「あぁ」

 うん。ゲロ甘飴玉より甘いんだよね。

「殿下、泳ぎます?」
「おれ行くぞ!」
  琉生斗もバッチリ淑女水着である。

 東堂は盛大に吹き出した。
「もう、昔のおまえが見たら、泣くなーー」 

 笑い死ぬ、と東堂は涙目だ。

「慣れれば何ともない」

 準備運動をしながら琉生斗がアレクセイに声をかける。

「どうすんだ?」
「泳ぐ」
 こちらは黒の全身ラッシュガードに白いTシャツとサーフパンツだ。クリステイルからのプレゼントらしい。

「白も似合うな」
 琉生斗がうっとりとした表情で夫を見つめる。

 今日は襟元まで服がないので、首すじに付いたキスマークが見えるが、アレクセイは気にもしない。

「ーーおまえもかなり、やべーヤツだな」
 牽制しまくってんなー、と東堂は呆れる。
「自分でもそう思う」

 琉生斗も自覚はあるので、深く頷いた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された僕は過保護な王太子殿下とドS級冒険者に溺愛されながら召喚士としての新しい人生を歩みます

八神紫音
BL
「嫌ですわ、こんななよなよした男が夫になるなんて。お父様、わたくしこの男とは婚約破棄致しますわ」  ハプソン男爵家の養子である僕、ルカは、エトワール伯爵家のアンネリーゼお嬢様から婚約破棄を言い渡される。更に自分の屋敷に戻った僕に待っていたのは、ハプソン家からの追放だった。  でも、何もかもから捨てられてしまったと言う事は、自由になったと言うこと。僕、解放されたんだ!  一旦かつて育った孤児院に戻ってゆっくり考える事にするのだけれど、その孤児院で王太子殿下から僕の本当の出生を聞かされて、ドSなS級冒険者を護衛に付けて、僕は城下町を旅立った。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...