4 / 249
海水浴に行きましょう。編
第3話 海水浴に行きましょう。3
しおりを挟む
「失礼しまーす。アレクいる?」
この世で唯一、兄をとめる事ができる人物が食堂室に入ってきた。扉がない事に首を傾げ、部屋の惨状に目を丸くする。
「何してんの?」
アレクセイは無言だった。琉生斗が気にせずに口を開いた。
「セージ、海なんだけどさー。東堂に話したら、モロフやソニーさん達も行きたいって言うんだ」
「えっ?」
「百人ぐらいになるけど、陛下、いい?」
琉生斗の問いに、アダマスがしっかりと頷いた。
「好きに使え」
「サンキュー。じゃ、セージ、明後日な。ダチ呼べよ。クリスも花蓮が来るから、都合が合えばーー」
「行きます!ぜひ!」
クリステイルは元気が出た。
「ミントも、ナス達誘ってやれよー」
「え!いいんですの!」
ミントがはしゃぎ、長兄の視線に気付いて口を閉じる。
「大勢が嫌じゃなけりゃな。ほれ、アレク、ナルディアに行くぞ」
琉生斗がアレクセイを引っ張った。
「テントとか椅子はソニーさん達、飲み物は東堂達、バーベキュー食材はおれらで調達するから、セージは氷菓子を用意してくれ」
セージはその言葉に、首を捻った。
「オレが?」
あーあ、とクリステイルが肩を竦める。
我らが聖女様は、人の為に動かない奴が大嫌いなのだ。
「無理ならいいよ。陛下、ビーチ貸してくれてありがとう」
頭を下げて食堂室から出て行く妻に続き、アレクセイは扉を直し、アダマスに頭を下げた。
「食事中に失礼致しました」
「ーーたまにはおまえ達も来い」
剣は無しでな、とアダマスは苦笑いだ。
「二人で楽しみたいのでーー」
アレクセイの涼し気な目が、勝ち誇ったようにセージを見た。
「うわぁ、陰険野郎ー」
セージが舌を出した。
「兄上、氷菓子は私が用意しますので」
クリステイルの言葉に、アレクセイは軽く溜め息をついて頷いた。
「あぁ」
「ホント何してたんだ?」
呆れた琉生斗の唇にキスがくる。
廊下で頭を下げているメイド達が、きゃあきゃあ言っているので、見られているんだろう、と琉生斗は思った。
アレクセイが歩きながら、魔法で衣服をいつも着ている簡素な騎士服へと変える。
「あー!もうちょい着とけよー」
カッコよかったのにー。できたらそれで襲って欲しいーー。
「そういえば、王族の正装のときは、魔法で着替えないんだな」
「あれは、着せる仕事の者がいるからな」
なるほどー、と琉生斗は納得した。仕事は取っちゃ駄目だな。
「ナルディアで肉と野菜買って、オランジーで海鮮買おう。大量に買わなきゃー。すぐ冷凍できるだろ?」
「あぁ」
アレクセイが薄く笑う。
いつの間にか人が増え、魔法騎士団のトップ達も進んで手を貸すーー。
「明後日、当番なんかで行けない人もいるから、そういう人にも別日設定しようぜ」
「そうだな」
ルートは本当にーー。女神様より女神様だーー。
アレクセイの心の声が、偶然耳に入った時空竜の女神様は、おおいに苦笑なされたそうだ。
海水浴当日ーー、絶好の海日和である。
転移魔法でアダマスのプライベートビーチにきた琉生斗は、すでに張られたテントに案内される。奥には宿泊用に別荘が建てられていた。
プライベートビーチならではの建物だろう。
「早いなー」
テント、もう立てたのかーー。
「魔法で立てますから」
トルイストが言う。Tシャツにサーフパンツという姿に、琉生斗は吹き出した。
「お、おまえ、泳ぐんだー」
「泳ぎますよー。妻は泳ぎませんがーー」
優雅にお辞儀をしたベルガモットは、首元まである白いワンピースだ。
「きょ、今日も美しいなー」
東堂が顔を赤らめた。こっちはTシャツも無しだ。
「いやー、もう女性陣の水着が楽しみで寝られなかったぜ。ルッタマイヤ軍将、どんなかなー」
わくわくしている東堂には申し訳ないがーー。
「おまたせー」
「おはよ~」
美花と町子があらわれる。東堂は振り返り、吹き出す。
「なんだよ、おまえら。田植えでも行くのか?」
全身黒のラッシュガードに、白黒ボーダーのTシャツとステテコを着た二人に、東堂は大受けだ。
「ーー東堂」
琉生斗が東堂の肩を叩いた。
「なんだよー」
東堂は琉生斗の指差した方向を見た。
愕然とするーー。
ルッタマイヤをはじめ、レノラ、ミント達でさえ、全身黒のラッシュガードにボーダーのTシャツとステテコなのだ。
「なんでだーー!」
東堂は膝から崩れ落ちた。
「淑女の国だからなー」
「ノオォォォーー!」
雄叫びに、トルイストが溜め息をついた。
「トードォは何を言っているんだ。早く飲み物を準備するぞ。ベル、喉は渇いていないか?」
「ふふっ、大丈夫ですわ」
「ーー東堂、オランジーやバッカイアの普通のビーチなら、ビキニの姉ちゃんもいるぞ」
え?と東堂は復活した。
「うちはそもそも海がないから、水着が流行らねえんだよ」
魔法使えなきゃ、移動に時間がかかるしーー。誰も海水浴の為に、長時間移動なんかしない。
「鉄道はどうなってんだ!」
「いま、試運転中だよ」
兵馬が答えた。
「僕、遊んでる場合じゃないんだけどーー」
「おまえ、海に来ても遊ばないだろ」
「ーー悪かったね。殿下も、来月の開通式に間に合うように、急いで欲しい事もあるのにー」
兵馬がぶつくさ言いながら、書類を広げている。
「ホント、奥さんに甘いよねー」
じろりと兵馬に睨まれ、アレクセイは薄く笑う。
「あぁ」
うん。ゲロ甘飴玉より甘いんだよね。
「殿下、泳ぎます?」
「おれ行くぞ!」
琉生斗もバッチリ淑女水着である。
東堂は盛大に吹き出した。
「もう、昔のおまえが見たら、泣くなーー」
笑い死ぬ、と東堂は涙目だ。
「慣れれば何ともない」
準備運動をしながら琉生斗がアレクセイに声をかける。
「どうすんだ?」
「泳ぐ」
こちらは黒の全身ラッシュガードに白いTシャツとサーフパンツだ。クリステイルからのプレゼントらしい。
「白も似合うな」
琉生斗がうっとりとした表情で夫を見つめる。
今日は襟元まで服がないので、首すじに付いたキスマークが見えるが、アレクセイは気にもしない。
「ーーおまえもかなり、やべーヤツだな」
牽制しまくってんなー、と東堂は呆れる。
「自分でもそう思う」
琉生斗も自覚はあるので、深く頷いた。
この世で唯一、兄をとめる事ができる人物が食堂室に入ってきた。扉がない事に首を傾げ、部屋の惨状に目を丸くする。
「何してんの?」
アレクセイは無言だった。琉生斗が気にせずに口を開いた。
「セージ、海なんだけどさー。東堂に話したら、モロフやソニーさん達も行きたいって言うんだ」
「えっ?」
「百人ぐらいになるけど、陛下、いい?」
琉生斗の問いに、アダマスがしっかりと頷いた。
「好きに使え」
「サンキュー。じゃ、セージ、明後日な。ダチ呼べよ。クリスも花蓮が来るから、都合が合えばーー」
「行きます!ぜひ!」
クリステイルは元気が出た。
「ミントも、ナス達誘ってやれよー」
「え!いいんですの!」
ミントがはしゃぎ、長兄の視線に気付いて口を閉じる。
「大勢が嫌じゃなけりゃな。ほれ、アレク、ナルディアに行くぞ」
琉生斗がアレクセイを引っ張った。
「テントとか椅子はソニーさん達、飲み物は東堂達、バーベキュー食材はおれらで調達するから、セージは氷菓子を用意してくれ」
セージはその言葉に、首を捻った。
「オレが?」
あーあ、とクリステイルが肩を竦める。
我らが聖女様は、人の為に動かない奴が大嫌いなのだ。
「無理ならいいよ。陛下、ビーチ貸してくれてありがとう」
頭を下げて食堂室から出て行く妻に続き、アレクセイは扉を直し、アダマスに頭を下げた。
「食事中に失礼致しました」
「ーーたまにはおまえ達も来い」
剣は無しでな、とアダマスは苦笑いだ。
「二人で楽しみたいのでーー」
アレクセイの涼し気な目が、勝ち誇ったようにセージを見た。
「うわぁ、陰険野郎ー」
セージが舌を出した。
「兄上、氷菓子は私が用意しますので」
クリステイルの言葉に、アレクセイは軽く溜め息をついて頷いた。
「あぁ」
「ホント何してたんだ?」
呆れた琉生斗の唇にキスがくる。
廊下で頭を下げているメイド達が、きゃあきゃあ言っているので、見られているんだろう、と琉生斗は思った。
アレクセイが歩きながら、魔法で衣服をいつも着ている簡素な騎士服へと変える。
「あー!もうちょい着とけよー」
カッコよかったのにー。できたらそれで襲って欲しいーー。
「そういえば、王族の正装のときは、魔法で着替えないんだな」
「あれは、着せる仕事の者がいるからな」
なるほどー、と琉生斗は納得した。仕事は取っちゃ駄目だな。
「ナルディアで肉と野菜買って、オランジーで海鮮買おう。大量に買わなきゃー。すぐ冷凍できるだろ?」
「あぁ」
アレクセイが薄く笑う。
いつの間にか人が増え、魔法騎士団のトップ達も進んで手を貸すーー。
「明後日、当番なんかで行けない人もいるから、そういう人にも別日設定しようぜ」
「そうだな」
ルートは本当にーー。女神様より女神様だーー。
アレクセイの心の声が、偶然耳に入った時空竜の女神様は、おおいに苦笑なされたそうだ。
海水浴当日ーー、絶好の海日和である。
転移魔法でアダマスのプライベートビーチにきた琉生斗は、すでに張られたテントに案内される。奥には宿泊用に別荘が建てられていた。
プライベートビーチならではの建物だろう。
「早いなー」
テント、もう立てたのかーー。
「魔法で立てますから」
トルイストが言う。Tシャツにサーフパンツという姿に、琉生斗は吹き出した。
「お、おまえ、泳ぐんだー」
「泳ぎますよー。妻は泳ぎませんがーー」
優雅にお辞儀をしたベルガモットは、首元まである白いワンピースだ。
「きょ、今日も美しいなー」
東堂が顔を赤らめた。こっちはTシャツも無しだ。
「いやー、もう女性陣の水着が楽しみで寝られなかったぜ。ルッタマイヤ軍将、どんなかなー」
わくわくしている東堂には申し訳ないがーー。
「おまたせー」
「おはよ~」
美花と町子があらわれる。東堂は振り返り、吹き出す。
「なんだよ、おまえら。田植えでも行くのか?」
全身黒のラッシュガードに、白黒ボーダーのTシャツとステテコを着た二人に、東堂は大受けだ。
「ーー東堂」
琉生斗が東堂の肩を叩いた。
「なんだよー」
東堂は琉生斗の指差した方向を見た。
愕然とするーー。
ルッタマイヤをはじめ、レノラ、ミント達でさえ、全身黒のラッシュガードにボーダーのTシャツとステテコなのだ。
「なんでだーー!」
東堂は膝から崩れ落ちた。
「淑女の国だからなー」
「ノオォォォーー!」
雄叫びに、トルイストが溜め息をついた。
「トードォは何を言っているんだ。早く飲み物を準備するぞ。ベル、喉は渇いていないか?」
「ふふっ、大丈夫ですわ」
「ーー東堂、オランジーやバッカイアの普通のビーチなら、ビキニの姉ちゃんもいるぞ」
え?と東堂は復活した。
「うちはそもそも海がないから、水着が流行らねえんだよ」
魔法使えなきゃ、移動に時間がかかるしーー。誰も海水浴の為に、長時間移動なんかしない。
「鉄道はどうなってんだ!」
「いま、試運転中だよ」
兵馬が答えた。
「僕、遊んでる場合じゃないんだけどーー」
「おまえ、海に来ても遊ばないだろ」
「ーー悪かったね。殿下も、来月の開通式に間に合うように、急いで欲しい事もあるのにー」
兵馬がぶつくさ言いながら、書類を広げている。
「ホント、奥さんに甘いよねー」
じろりと兵馬に睨まれ、アレクセイは薄く笑う。
「あぁ」
うん。ゲロ甘飴玉より甘いんだよね。
「殿下、泳ぎます?」
「おれ行くぞ!」
琉生斗もバッチリ淑女水着である。
東堂は盛大に吹き出した。
「もう、昔のおまえが見たら、泣くなーー」
笑い死ぬ、と東堂は涙目だ。
「慣れれば何ともない」
準備運動をしながら琉生斗がアレクセイに声をかける。
「どうすんだ?」
「泳ぐ」
こちらは黒の全身ラッシュガードに白いTシャツとサーフパンツだ。クリステイルからのプレゼントらしい。
「白も似合うな」
琉生斗がうっとりとした表情で夫を見つめる。
今日は襟元まで服がないので、首すじに付いたキスマークが見えるが、アレクセイは気にもしない。
「ーーおまえもかなり、やべーヤツだな」
牽制しまくってんなー、と東堂は呆れる。
「自分でもそう思う」
琉生斗も自覚はあるので、深く頷いた。
116
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】薄倖文官は嘘をつく
七咲陸
BL
コリン=イェルリンは恋人のシルヴァ=コールフィールドの管理癖にいい加減辟易としていた。
そんなコリンはついに辺境から王都へ逃げ出す決意をするのだが…
□薄幸文官、浮薄文官の続編です。本編と言うよりはおまけ程度だと思ってください。
□時系列的には浮薄の番外編コリン&シルヴァの後くらいです。エメはまだ結婚していません。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる