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第6話 気まずい空気の中、食べるしかできないー。

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 なんてこったいーー。あんなカッコ悪いところをお見せした相手とお見合いとはーー。

「いくちゃんは、とっても料理上手なんですよ~」
「まあ、いいわね!」
「とは言っても、わたしがヘタなだけかも!」
「あははははははっ!」

 母と長塚が盛り上がる中、郁海はひたすら目の前の料理を食べていた。ホテルの料理なんかめったに食べられるものじゃない。食べないと損だ。

 どうせ、断られるだろうしーー。
 
 こっそりと相手の顔を盗み見る。
 ハンサムな顔だ。華があるわけではないが、キリッとした男らしい目をしている。
 ただ、こちらに関心がないのはわかった。視線が料理にしかいっていない。

 早く食べて帰ろうーー。
 
「いくちゃん、食べてばかりいないでお話したら?」

(どんな鉄の心臓や。)

「私達は、別のテーブルにうつるからね」

(帰らないのね。)

 母と長塚が離れた席に案内されている。
 
 せっかくコース料理を頼んだのだ、途中では帰れないという気持ちはわかる。
 なら、最後まで一緒にいて欲しいものだ。


 ふたりの間に気まずい空気が流れる。落ち着いたクラシック音楽が流れているだけましだが。


 
「え、あの。こんな偶然があるんですね……」
 沈黙に耐えきれず、郁海は会話を試みた。

「本当に、あのときはありがとうございました」
 
 武琉が瞬きをした。こちらを見ずに、首を振る。
「いえ、たいした事もできませんでしたし……」

 黙ってしまった。

(あら~、印象が悪いんだろうな。別れもきれいにできないばか女だと思われているかも。)

 デザートを食べて食事は終わった。
 妙子のほうを見ると、立ちあがって手を振られた。
「ちょっ!」
 言いかけたが、妙子と長塚はそそくさと行ってしまう。

(うそーー!)

 郁海は呆然と後ろ姿を見送った。

「あの……」

「ふわい!」
 驚いて変な返事になる。

「出ましょうか」
 何事もなかったように武琉が言った。

(あー、つまらなさそう……)

 こちらも何も言えなかった。

 武琉が立ちあがって、郁海の椅子の後ろにまわる。
「え?」

(まさか、椅子を引いてくれるの?)

 驚いて振り返ると、緊張した表情の武琉と目が合った。
「あっ、ウェイターさんに……」
「自分がすると伝えています」

(ひゃあーーー!)

 椅子を引いてもらって立ちあがった。
「ありがとうございます!」
 元気すぎるお礼になってしまう。

「いえ」
 
(言葉は少ないけど、良いひとだわ。ペラペラ嘘つきなあいつとはえらい違いーー)

 嘘も最初は嘘だと思わなかった。

 一流商社の係長だなんて、外資系でもないのに簡単に騙されてーー、よっぽど男に飢えてると思われていただろう。



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