5 / 13
第5話 お見合いします。
しおりを挟む
夕食のときに、妙子が言った。
「服装はスーツでいいって」
「何が?」
「淡いグレーのスーツがあったでしょ?あれがいいわね」
「あれ、ウエストが入らないわよ」
「なおしておくわ」
「お母さん、全部ゴムにするじゃない~」
「楽ちんでいいわよ」
「絶対さわらないでよ!」
「じゃあ、痩せな!」
「っていうか、お見合いなんか行きません!しばらくひとりで生きてくの!」
「しばらくが一生になるわよ」
「うるさい!」
言い合う母娘を気にせずに、照夫は食事を楽しんだ。
「大根美味いな~。幸せ~」
妙子に引っ張られながら、郁海はホテルのレストランに連れて来られた。
「冗談でしょ!」
「本気です。いくちゃんは男を見る目がないもの」
「ーーそれは否定しないけど……」
「あっ、長塚さん~!」
「ああ、武者小路さん!」
レストランのお客が何人か振り返った。頼むから人前で呼ばないで、と郁海は思う。
何なんだろう、武者小路って。武者小路実篤とは一切関係ないけど。
こんな名字だから早く結婚したいのもある。
「あらら、娘さん。地味なスーツ着て」
小太りの身体をスーツに押し込んだ長塚が、郁海を上から下までじっと見た。値踏みするような視線がすごく不愉快だ。
さっと視線を走らせると、相手の男性が郁海を背にして座っていた。
妙子が先に顔を見て、まっ!、と言った。
「上杉さん、こちらが武者小路郁海さん」
頼むからフルネームはやめて!
男性がゆっくりと立ちあがる。
えっーー!
郁海は目を丸くして、食い入るように男性を見た。
「ーー上杉武琉です。今日は来てくださって、ありがとうございます」
たくみから助けてくれた男性が、そこには立っていた。
「服装はスーツでいいって」
「何が?」
「淡いグレーのスーツがあったでしょ?あれがいいわね」
「あれ、ウエストが入らないわよ」
「なおしておくわ」
「お母さん、全部ゴムにするじゃない~」
「楽ちんでいいわよ」
「絶対さわらないでよ!」
「じゃあ、痩せな!」
「っていうか、お見合いなんか行きません!しばらくひとりで生きてくの!」
「しばらくが一生になるわよ」
「うるさい!」
言い合う母娘を気にせずに、照夫は食事を楽しんだ。
「大根美味いな~。幸せ~」
妙子に引っ張られながら、郁海はホテルのレストランに連れて来られた。
「冗談でしょ!」
「本気です。いくちゃんは男を見る目がないもの」
「ーーそれは否定しないけど……」
「あっ、長塚さん~!」
「ああ、武者小路さん!」
レストランのお客が何人か振り返った。頼むから人前で呼ばないで、と郁海は思う。
何なんだろう、武者小路って。武者小路実篤とは一切関係ないけど。
こんな名字だから早く結婚したいのもある。
「あらら、娘さん。地味なスーツ着て」
小太りの身体をスーツに押し込んだ長塚が、郁海を上から下までじっと見た。値踏みするような視線がすごく不愉快だ。
さっと視線を走らせると、相手の男性が郁海を背にして座っていた。
妙子が先に顔を見て、まっ!、と言った。
「上杉さん、こちらが武者小路郁海さん」
頼むからフルネームはやめて!
男性がゆっくりと立ちあがる。
えっーー!
郁海は目を丸くして、食い入るように男性を見た。
「ーー上杉武琉です。今日は来てくださって、ありがとうございます」
たくみから助けてくれた男性が、そこには立っていた。
20
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。


地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

男と女の初夜
緑谷めい
恋愛
キクナー王国との戦にあっさり敗れたコヅクーエ王国。
終戦条約の約款により、コヅクーエ王国の王女クリスティーヌは、"高圧的で粗暴"という評判のキクナー王国の国王フェリクスに嫁ぐこととなった。
しかし、クリスティーヌもまた”傲慢で我が儘”と噂される王女であった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる