上 下
3 / 8

第3話 しつこいし最悪な元カレ

しおりを挟む
 郁海は住み慣れたマンションをでて、実家に帰ることにした。

 決めたのは、たくみがうざかったからだ。

「頼む!許してくれ!おまえしかダメなんだ!」
「そうでしょうね」
「わかるだろ?」

 たくみが顔を輝かせた。

「ええ、ただでこき使える家政婦が欲しいんですよね?あたしも何にも言わなくても、あたしの望みを進んで叶えてくれるスパダリが欲しいわ~」

「身のほどをしれよ」
 たくみの表情がひどい。

「あっ、ここ従兄弟のつとむ君が住むから。ちょうど彼女と同棲するとこさがしてたんだって」
「はあ!オレはどうするんだ!」
 強く詰め寄られたが、たくみにどうこう言われる筋合いはない。
「自分のご実家にでも帰れば?お金がなくてもなんとかなるわよ」
「おまえ!」

 パンッ!

 たくみが頬を叩いた。
「ーーっ!」
「男に生意気な口聞いたらな、ぶたれたってしょうがないんだよ!」

 思いのほか頬が痛かった。
 睨みつけたいのに、また叩かれると思うと何も言えなくなる。

「言う事聞けや……」
 たくみが顔を近づけてきた。ドアを閉めたいのに、身体が動かない。
 郁海はギュッと手を握り、口を開いた。

「ーー帰って……」
「はあ?従兄弟に断りいれろ!」
 怒鳴られて身体が震えた。

 ーーどうしよう。お兄ちゃん……。





「ーー失礼……」
 急に郁海の側にひとが立った。
 スーツを着た若い男性だ。

「どんな事情かは知りませんが、近所迷惑になります。警察に連絡してもよろしいですか?」
「はっ!ただの痴話喧嘩だよ!ほっといてくれ!」
「助けてください!」
 郁海は男性の腕にしがみついた。スマホをもつ反対側の腕だ。

 男性が頷いた。
「警察ですか。やはり来てください」
 たくみが逃げだした。
 弱い男のくせに、自分より弱いものにはああいう態度になるのだ。

(そういえば、お店でもえらそうにしてたわーー)


 郁海は男性を見あげた。背が高い。落ち着いた雰囲気のハンサムな男性だ。 

「ありがとうございました。助かりました」
 ドアにもたれたまま、礼を言う。足がいまさら震えてきた。

「いえーー。痴話喧嘩か、迷ったのですが……」
「そうですよねーー。別れ話がこじれました」
「ーーそうですか」

 なんとも言い難い表情を男性が浮かべる。それはそうだ、何を言っているんだ自分は。

「ご近所の方ですか?ご迷惑をおかけしました」
「いえ、近所ではないのですが……」
「はあ」
「あやしいものでもないです」
 普通自分では言わない。

「ーーその、下のコンビニで、彼と若い女性が、ここに来ると相談していたのですが、ほめられた内容ではなかったのでーー」
「あー、ひどい事言ってたんですね!自分が浮気したくせに!」
「浮気……」

「お~い!いくみ~!」
「あっ、つとむ君とかりんちゃん!」
 階段の方から従兄弟が声をかけてきた。

「ーーそれではこれで」

「あー!すみません!ほんとうにありがとうございました!」
 
 助かった。

 本当にたくみのばか。
 あんなのと付き合ってた自分はもっとばかだ!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...