ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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東堂の恋わずらい編

第1話 最近の琉生斗達

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悪阻による気持ち悪さもおさまると、琉生斗は食欲がとまらなくなってきた。

 だが、あたると怖いという理由で牡蠣を食べさせてもらえなくなり、かなり落ち込む。

「あんまりだーー」
「万が一があるからね」
「あぶー」
 兵馬がユーリをあやしながら琉生斗の面倒もみる。彼は彼で忙しいはずなのに、琉生斗の側で体調管理をしてくれていた。
 
 アダマスやクリステイルも兵馬が生きていたことをしると、驚きよりも喜びのほうが強かった。

 だが、先の戦いでは兵馬がいなくなったことで、アスラーンやラルジュナが全面的に国の防衛に協力してくれたこともあり、結果的によかったとアダマスは思っている。
 本当に適当な王様だ。あれが旦那の父親かと思うと、琉生斗は先を案じるしかない。

 現在、アレクセイも兵馬がいるからと、安心して公務をこなすことができる。パパになるんだから、と内心ウキウキなアレクセイだ。


 ラルジュナと兵馬はいまもアジャハン城の離れにある屋敷で暮らしていた。バッカイア国からは再三帰国命令がでているそうだが、ユーリが物事がわかるようになるまでは帰るつもりがないそうだ。

 ジュドーはふたりの邪魔をしないように、先に国へ帰り、ラルジュナがバッカイア国に用事があるときは近衛兵として側についている。


「やりたい事、まだまだあるしねー」
 多才すぎる旦那様をもち、兵馬は忙しい身である。なのに、自分の相手をしながら育児までーー。朝、兵馬を神殿に送りに来るラルジュナの目には殺意がこもっているが、琉生斗はスルーしている。


「おっ、ユーリ。笑ってくれるのか」
 2ヶ月になる赤ん坊は愛らしい笑い声をあげるようになってきた。
「カワイイなー。うちの神竜と友達になってくれるかな」
「もう、神竜ってわかってるの?」
「うーん。たぶんーー」
 ハオルとの戦いの中、ミハエルが自分を隠すときに、「アレクセイ殿下も承知している」、といった事からそういう事なのだろう。

「ラルさんはどうだ?」
「何が?」
「わかってるだろ?いちゃこらだよ」
「ーー普通です」
「嘘つけ。絶対、しつこそう」
「君の変態よりはマシだよ」
「ーーうちの変態もいまは我慢してんだよ。可哀想にーー」
 無理のない体位ではしているが、思いっきりというのはない(あたり前だよ。by兵馬)。

「あー、今年は魔蝕が少ないのに遊びにいけないなんてーー」
 海で泳ぎたいなーー。

「全然お腹はでてこないね。ルート、わりと筋肉があるから」
「あー、見た目には変わらないよな」
 脱ぐと腹回りがでてきているのがわかる。

「でも、法衣もスカート風にしとかないとね」
「そうだな、いきなり変えるより徐々に変えとかないと。こうなるとあの漢服アレンジの服はありがたい」
「そうだね」

 神聖ロードリンゲン国も悪魔の城の事件の後は、平和そのものだ。

「けど、兵馬。これから仕事するようになったら、ユーリどうするんだ?目立つだろ」
「うんー。ジュナも向こうには知られたくないみたい」
「見た目でわかるからな」
「僕みたいに地味に生まれてくればよかったのにね」

 父親に似て派手顔、派手髪の赤ん坊がうとうとと眠たそうだ。


「だいたい、アス王太子がプレゼントばっかり持ってくるんだよ。よけい目立つよね」
 今日のライオンの着ぐるみ服もプレゼントらしい。

「早く東堂をなんとかしないと」
 ひとりっ子ならこんなにいらない、と兵馬が現実的な事を言う。
「毎日通ってんだろ?もう、恋人じゃん」
 ベビー服いるんだろうか?琉生斗は眉をひそめた。

「いやー、あいつが王妃になったら笑えるぞ」
 想像で琉生斗は吹いた。
「名前はハルカだから、いいと思うよ」
「たしかに、おれらよりいい」


 はははははははははっ!



「ーーおい」
 

「ぎゃあああぁぁぁーー!」
 突然の声に琉生斗は飛びあがる。

「好き勝手なこと言うんじゃねえーー」
「東堂どうしたの?」
 扉にもたれて東堂がこちらを睨んでいた。



「花蓮がヒョロ太子と参拝中、その警護」
「そうか。花蓮の近衛兵も兼ねてるのか」
「給料アゲアゲだぜ」
 近衛兵のほうが給料がいいらしい。

「あの国の王妃なら、欲しいもの全部手に入るよ」
 言われて東堂が悩む。

 自分の欲しいもの、それは、

 モフモフ動物園を自分のものにーー!
 

「ーーバカ、ーーんなことならねえよ」
 揺れそうになる気持ちを奮い立たせ、東堂は気持ちを強くもった。

 あちー、と近衛兵服の襟を緩める。魔法騎士の服よりも見た目重視で堅苦しそうだ。
「クリーム色で汚れが丸わかりなんだよ、これ。汗もかけねえ」
「ベビーパウダー塗っとく?」
 兵馬が鞄から取り出す。
「ばあちゃんの知恵袋みたいだな」




「毎日行ってんだろ?王太子様の寝室に」
「…………」
「もう、隠しようもないよね」
「…………」
「おれ、陛下に聞かれたけど。婚約はいつだってーー」
「陛下としては、アス王太子につながる線ができて大喜びだね」
「いざってときに国を守ってもらえるもんな。セージはまだその辺のやりとりが弱いから、東堂ならバッチリだな」

 好き勝手言うふたりを鋭く睨みながら東堂がため息をつく。
「ーーあのな。そんなわけないだろ」


「えっ?まだ魔力器官のため?」

「…………」
 気まずそうに東堂は口を閉じて下を向いた。
「なら、もうそろそろやめたら?これだけ噂が立つと、婚約者になるひとが可哀想だよ」
 兵馬のもっともな意見に、東堂が固まる。

「ーーーー、だな……」
「でしょ?僕なら無理だよ。身体だけの関係を続ける気なら、噂が立たないようにしたほうがよかったよね」
「ーーそうだな」


「ふあぁ」
 真剣なふたりの隣りで、琉生斗は大きな欠伸をした。
「ルート、ユーリと寝る?」
 ついに赤ん坊扱いになった琉生斗だ。

「ありがと。なんでこんな眠いんだ?」
「ホルモンバランスがくずれてるからでしょ」
「女子じゃないのにーー……」


 すやすやと眠る琉生斗とユーリを眺めながら、兵馬はにこにこしている。







「ーー親父のよー」
「うん」
「手紙なんだけどよ」
「うん」
 兵馬は静かに相槌をうつ。

「ーーなんかさ、子供の頃から杉田のおじさんが好きだった事が書いてたんだよ」

「うんうん」

「けど、親父の年代なんか、よけいに言いにくいよな」
「そうだよね……」
「そうこうするうちに、杉田のおじさんは結婚したらしいわーー」
「……」

「だから、親父のやつなーー…………」



 友の表情をうかがうように東堂は視線を走らせる。だが、兵馬の表情は変わらない。動揺のひとつも見られない。

「親父もイカれてるよなーー」
 頭を押さえた自分を見て、兵馬が言う。



「ーー東堂、生まれは関係ないよ」
 何かを実感するような声だ。

「そういうけどさーー」
「そんなんで、幸せを諦めちゃだめだよ。結果的にふたりはいま、一緒に暮らしているんでしょ?」

 目を細めて、向こうの家族を想う。

「ああーー。杉田のおじさんと車椅子の会社やってんだってーー」
 長年の恋が実ったのかはわからないがーー。

「ふふっ。東堂も覚悟を決めたら?」
「何をだよ」


「アス王太子を好きだって認める覚悟だよ」






「ーーいや、俺は……」
 

「うん。怖いよね」
 腐ってるけど大大国の王太子だ。その上、次世代のリーダー的存在でもある。

 支える人間は想像を絶するほどの重圧が伸し掛かってくるだろう。



「ちげえよ。俺はーー」

「僕達はルートと殿下とは違うもんね。裏切られたり、逆に裏切ったりもあるだろうし」
 兵馬の言葉には真実がある。けして夢見がちなことは言わない。

「ーー逆におまえはなんでふん切れたんだ……?」
「うん?う~ん~~。わかんない?」
「まさか、ひとめぼれか!」
 おまえもイケメン無罪の攻撃をくらってたのか!

「それはない。最初は興味なかったし」

 ーーだよな。
 
 東堂は頷いた。



「なら、なんでだ?」







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 最後まで読んでいただきありがとうございます🥹
 第四部のはじまりで~す。
 楽しんでいただけるとありがたいです☺️
 
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