ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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僕らのいた国編

第149話 抱える不安

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 ふにゃふにゃと、ユーリがミルクを飲んでいる。

「はい、上手に飲めたねー」
「すっかり母親だな」
「ルートも練習しとく?」
 ゲップをさせるのに縦に起こす。琉生斗から見るとかなり怖い。アレクセイはなんとか触ろうするが、やはり怖いらしい。

「愛らしい生き物だな」
 感想がポンコツだ。
「うちは最初から肉食かもしれないからいいよーー」

「ふふっ」
 満足そうに、けぷっ、とユーリがゲップをする。そのまま幸せそうにうとうとするユーリを見ながら、兵馬が言った。
 
「ーーねえ」
「ん?」


「ーー僕、戻っても大丈夫?」
 心配そうに下から見る目に、不安が混じっている。
「ーー何いってんだよ」
 琉生斗は鋭い目つきで睨んだ。
「いやー、ーー邪魔じゃない?」


 9ヶ月離れていただけーー。けれど自分は死んだことになっている。向こうの状況だって変わっているかもしれないーー。



 兵馬の内情を考えれば、そう思うのは当然のことだ。

「あのな、兵馬ーー」
 口を開いた琉生斗を、アレクセイがとめる。
 
「ーー自分の目で確かめればいい。無理だと思うならこちらに送ろう」
 強く告げたアレクセイに、兵馬が苦笑した。

「ーー殿下も無敵になってきたね。もう、神竜がいなくても聖女連れて来れるんじゃない?」
「おれの次だけいけても意味ないだろ」
「なるほど。ルートらしい考えだーー」
 兵馬は薄く笑った。






 ガチャッ。
「ーーただいま!兵馬ーー!」
 
「ああ、久しぶり」
「母親にいう台詞じゃないな」

 スーツ姿で彩奈が走る。
「まあ!!!なんつうイケメン!!顔面が人間国宝!!!」
 アレクセイを間近で見て、彩奈がはしゃいだ。
「ごめんね、こんな母親でーー」
「ちょっと葛城っぽいよな」
「寝ててもイケメンだったけど、ホント同じ性別に見えないわね」

「比べられても」
「なあ……」
 琉生斗と兵馬は落ち込んだ。

「ーー世話になっています」
 アレクセイが頭を下げる。
「きゃあ!しゃべってもイケメン!いいのよ!気にしないでね!何でも言って!!」
  恥ずかしそうに兵馬が顔を伏せた。

「あっ。また仕事で出るわ!兵馬これまとめといて」
「はいはい」
 USBメモリーを受け取り兵馬がため息をつく。
「そうだ。琉生亜からいつ会える、って連絡がきてたわよ」
「ーールート、どうする?」
「兄貴、来てくれるのか?」

 アレクセイを連れてウロウロはしたくないしーー。

「わかった。連れてくるわ♡」
「母さん!いい加減にーー」

「仕方ないわよ。琉生亜、本命にフラレたんだもん。慰めてあげなくちゃ!」
「母さん!!!」

「あいかわらずだな。レイジのほうは?」
 もう、苦笑するしかない。
「知らないわよ。もう、書類上だけの関係だしーー。ああいう職業だからバツはつけたくないんでしょ」
「母さんが悪いんでしょ?」
 吹っきれたような顔で兵馬は言う。

「違うもん~。断れなかったんだもん」
「生々しいからやめなよ」
「何、父親が誰かわかったのか?」
「まあね。じゃあ、母さん連絡よろしくね」
「は~い」
 急いで彩奈が出ていった。


「ーーおばさん、明るくなったな」
「悩みがなくなったから、よかったそうだよ」
「ああ……。やっぱり隠し通すって、無理があるんだろうな」
 眠くなってきた琉生斗は、そのままアレクセイにもたれながら眠りについた。


 気持ち悪いし、眠いし、大変だよなーー。お腹にいても働いてるひとマジ尊敬するわーー。
















 そのひとがいるだけで場の空気が変わる。

 けして、良い方にじゃないーー。

「よぉ、チビト」
「ーーああ」

 色魔の兄、琉生亜が入ってくるなりアレクセイを見て笑顔を見せた。
「めっちゃいい。欲しい」
「やるか!」
「うわぁ、うらやましい。オレも聖女やりたい」
 アレクセイの顔を舐めるようにみつめる。

「国を滅ぼしそうな聖女だな」
 警戒するアレクセイに微笑むと、暴力的な美貌の主は琉生斗の前に1枚の写真を置いた。

「まあ、いいや。これ、おまえの母親の写真」
「ええ!!!」
「親父の書斎からパクってきた」
 40歳ぐらいのきれいな女性だ。

 アレクセイがその写真を見て目を瞬いた。
「ネットで見たな」
「えっ!?」

「そう、女優の有馬ありまミヤ。おまえ腹にいるときにでっかい仕事があって、おろしたかったそうだが、ジサマが産んだらいい仕事まわすって説得したそうだ。その後は海外で女優やってる」

「ーーへぇ」
「会いたいか?」
「いいよ。元気でやってるなら」
 見てもなんの愛着もわかない。
「そうだな、賞もとってるらしいぜ」

「そうかーー。理由があったんなら仕方ないよな……」
「ルート……」
 アレクセイが琉生斗を後ろから抱きしめる。

「何、マジらぶらぶかよー。引くわ」
「なんで引くんだよ。ヤベーぐらいらぶらぶだぜ」
 身体を預けるとアレクセイが首すじにキスをした。それはやりすぎだ、ここはロードリンゲンじゃないーー。

 その様子を面白そうに眺めながら琉生亜が話す。
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