ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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悪魔が来たりて嘘をつく編

第142話 お姉ちゃん、がんばる!

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 上空から聞こえた猛烈な音と、嵐のような風。

「ーー来ましたか」
 教皇ミハエルが銀色に光る錫杖をふる。
「聖女様、くれぐれも……」
「わかってるよ」

 聖女の正装を着た琉生斗は、空を見あげた。アレクセイの魔法で、悪魔達が飛ばされていく。

「ーーじいちゃん……」
「ええ。奴が入りましたねーー」
 離れていても感じる嫌な気だ。
「城の方からかーー、ラルさんの言った通りなら牢屋から出てくるんだな」

 琉生斗が言ったと同時に、城の方角から激しい音が聞こえてきた。

「ーーはじまったんだ」
「水鏡の間に隠れていなさい」
 あそこならば、時空竜の女神様が必ず守ってくださるーー……。


「やなこった。あいつぶん殴るまで、おれは戦う」
「ーー何ができるわけでもないのに」
「最強の光属性だぜ」
 悪魔には有効だ。


「ーー申し訳ありません。聖女様」
「えっ?」
 銀色の錫杖をミハエルが琉生斗に向ける。先端が身体にあたり、ビリッと身体に痺れが走った。

「あっ、ーーじ、ーー」 
 倒れる前に、イワンとドミトリーに支えられ、棺のような箱に横たえられる。

 ーーおいっ!

「女神様が呼んでおられますーー、アレクセイ殿下も承知の上です」


 ーーまてよ!ーーちくしょう!


 暴れたいのに身体はまったく動かなかった。



 ーーアレク!覚エテロ!!!


 琉生斗は水鏡の間に入れられ、出られぬように鍵をかけられる。

「ーーあなたを失うわけにはいきませんからね……」
 ミハエルがため息をついて、その場を離れた。

「教皇様ーー」
「ーーさあ、我々も行きますよ」
「はい!」
 













 戦いの場をクリシュナ領地に移し、アレクセイとハオルは激突を繰り返していた。

 ハオルの姿はもはや悪魔だ。野獣の肉体を移植したのだろうか。以前のひ弱そうな身体ではない。その上背中からは触手のような手が蠢いている。

「ーーアレクセイがとらえられないなんて……」
 ラルジュナが魔法の援護を続けながら、ハオルの隙を探す。

「ーー魔法を撃つ前に、目が光ってます!」
「ーーなるほど、目で魔力を練っているのか」
 それがわかれば大天使ミカエルの盾をだすタイミングもつかみやすい。美花はハオルの目をじっと見る。

 黒い目が、ギラリと揺れてーー。

大天使ミカエルの盾!」

『魔神雷』


 アレクセイの前にふたつの盾が出現する。ハオルの魔法よりも疾かった。
「アレクセイ!」
 ラルジュナの声にアレクセイが姿を消す。

 四方向から凶霊キャロラインの槍が、ハオルに高速で突き刺さる。

「連続!」
 さらにラルジュナは、四方向から凶霊キャロラインの槍を放ち、八方向からハオルをとらえた。

『オゴッ』
 ハオルが緑色の血を吐きながら、槍を吹き飛ばした。身体を再生させようと魔力を練ろうとするが、それより疾くアレクセイの剣がハオルの肩を斬り裂く。

 悪魔の身体が半分に斬れた。


 だが、ずり落ちた半身から無数の糸がでて、一瞬でハオルの身体を繋いでいく。

「ーーすごい再生力だな」
 アレクセイは息を吐いた。

『羨ましいか?私と同じにならないかー?獣人達の優性遺伝子と悪魔の優性遺伝子を組み合わせた究極の存在だーー』
「断る」
 斬撃をかわされ、アレクセイは眉根を寄せる。繰り出す攻撃は重いのに、素早く逃げられてしまう。

『悪魔ども!出てこい!』
 ハオルの身体から悪魔が出る。次々に数が増えていく。


「ーー失礼いたします」
 アジャハン魔法騎士団の大隊長達が悪魔と交戦する。最初に隕石メテオと落ちてきた悪魔達は、彼らによって倒されていた。

『ーー蝿がうるさい』
 舌打ちをしながらハオルが魔法を放つ。
『魔神雷』
 天を裂く雷が落ちる。

 しかし、それもラルジュナと美花の大天使ミカエルの盾にとめられた。次第にハオルは苛々した顔を隠すことができなくなり、まるでものにあたるように魔法を吐く。

『うざったらしい!私の邪魔ばかりしおって!』

 背中の触手が鞭のようにしなり、アレクセイに襲いかかる。魔法で焼き切り、ハオルの頭上に飛んで背後から剣を突き刺す。

『うぐっ』
 剣を刺した部分が膨れ上がり、突如爆発した。

 アレクセイの前にはラルジュナが張った結界があるため、爆発の影響はない。
 だが、ラルジュナよりも美花がいつまで戦えるのか、それをアレクセイは案じていた。
 
 いまはハオルの魔法をふたりの魔法で防いでいるのだ。美花が力尽きた場合、ラルジュナがすべてを請け負うことになっているそうだがーー。

 いくら彼でも大天使ミカエルの盾をふたつ出すことができるのかーー、いや、そうなれば自分も防御にまわって勝機を伺うしかないだろう。あれだけの魔法を撃っているのに、ハオルには疲れも見えないのだから。

『クソッ!なぜ、悪魔の磁場内で魔法が撃てるのだ?』
 ハオルが頭を掻きむしる。
「ーーそうか。もう、おまえの磁場内か……」

『そうだ!この中では私は魔法をいくらでも撃てるのだ!』
「それは奇遇だな。私も魔力が無限なのでな」
 アレクセイは指を鳴らした。

超新星スーパーノヴァ
 高密度のエネルギーをハオルに叩きつける。至近距離でまともに魔法を受け、悪魔の身体は塵も残らないぐらいに消し飛ぶ。

「えっ!倒した!」
 美花が驚きに目を見張る。
「ーー違う」
 空中にハオルの肉片が集まっていく。

「アレクセイ!威力が足りない!」
「ーーそうだな」   
 悔しそうにアレクセイが剣を構え、ハオルに突っ込む。
 身体の戻ったハオルが硬い腕で剣を受けた。

「ーー再生する度に強度があがるのか、厄介だな」
 ラルジュナの言葉を聞き、美花が声をあげた。
「ええっーー!」 

『悪魔達よ。出てこいーー』
 ハオルの呼び声に悪魔がでてくる。

「ーー消耗戦だな」



『そうだ。いつまでもつかなーー』

 ハオルが気味の悪い笑顔を見せた。




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