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きみを忘れることなかれ編
第128話 予想だにしなかったこと
しおりを挟む「ーー何があったんだ?」
稲妻が空を切り裂いたとき、琉生斗は神殿にいてベルガモットと話しをしていた。
ベルガモットが琉生斗を庇うように前に立ち、他の神官もすぐにこちらに走ってくる。
「聖女様!ご無事ですか!」
ミハエルが叫ぶ。
「おれは平気だ!何なんだ!王都の結界、破られてないか!」
「ーーええ。悪魔の気が充満しています」
「悪魔?この嫌な気が悪魔の気なのかーー」
「ベルガモット、魔導室室長に連絡を。王都の結界の張り直しを要請してください」
「わかりました!」
急くようにベルガモットは通信室まで走っていく。
「ーー聖女様、何が起こっても不思議ではない状態です。聖女の証を握って、もしものときは自力でアレクセイ殿下のもとに行きなさい」
「じいちゃん……」
琉生斗は目を見張る。
いや、建国からある王都の結界が破られたのだ。これは当然の指示だろう。
「教皇様!」
「イワン!何が原因です!」
「ダイヤモンド公園の裏の森に、雷が落ちたそうです!」
「ーーただの雷ではないでしょう」
イワンが頷いた。
「ーーひとが大勢こちらに避難して来ます!」
「受け入れなさい!」
「はい!」
神官達が総出で避難した人々を迎え入れる。
「すごい雷だったんだな……」
ひとの数が、まるで正月の参拝客のようだ。
「ーーすごい何てものじゃない!大きな穴があいてたんだぜ!」
琉生斗のつぶやきに町人が答えた。
「穴?雷で?」
「駆けつけた兵士が、魔法だって言ってたよ!下がるように言われたから詳しくは知らないが、穴の側にアレクセイ殿下がいたぜ!」
「!」
アレクセイが動くほどの何かなのだ。非常事態に琉生斗のところに来ずに、そちらに行くほどの何かなのだ!
「アレクセイ殿下、だけ?」
「んー、前にオレンジの髪のひとがいたな。えらいハンサムな」
ラルジュナだ。なぜ、彼がロードリンゲンにーー?
「ーー……」
言葉にできない不安が、琉生斗の胸を襲った。こめかみに指をあてる。
ーーアレク、イマドコダ?
ーールート、無事カ?
返事は早かった。
ーー何ガアッタ?
ーーーーシバラクココヲ動ケナイ。教皇ノ側二イテクレ。
「アレク……」
状況がわからないってこんなにも不安なんだなーー、かきむしられるような胸の内をおさめるため、琉生斗は聖女の証を強く握った。
何もなければいいと、ただ願う。
混乱が落ち着いたのは夜になってからだった。
神殿に入った連絡に、教皇ミハエルが真っ青な顔になり言葉をなくした。
「ーーじいちゃん?」
琉生斗の問いかけにも、ミハエルは何も言わなかった。力を失ったように、肩を落としている。
「何の連絡だったんだ?」
早く知りたい、でもなぜか、聞いてはいけない、と心のどこかが叫んでいる。
ミハエルはゆっくりと大神殿のほうに向かって行く。
「じいちゃん!」
時空竜の女神様の彫像の前に跪き、ミハエルは祈りを捧げた。神官達が側に寄り、それにならった。
琉生斗は見た。
イワンやドミトリー、クラリスやアニエス、他の神官達も、皆が泣いていた。
「ーー誰か、亡くなったの?」
琉生斗の声に誰も返事をしなかった。
「なあ、誰が亡くなったんだよ!」
胸に迫ってくる潰れそうな不安感。
ーーなぜ、いまあいつはここにいないんだろう。神殿に来ると言ったのにーー。何かあったら真っ先に自分のところに来てくれるはずなのにーー。
「ルートォ!」
夜を裂く声がした。
「東堂……」
「聞いたか!?」
「えっ?」
「トードォ!待ちなさい!」
ミハエルが鋭く制止した。
「兵馬が死んだってぇーー!!!!!!」
「は?」
琉生斗は目の前が真っ暗になった。
倒れる寸前のところをアレクセイが抱きあげる。
「ーールート……」
気を失ってしまったのか、琉生斗は目を閉じたまま動かなかった。
「ーー殿下、なんでこんなことに……」
東堂が、泣きながら頭をかきむしった。
「…………」
アレクセイも言葉がでない。
ラルジュナのことはアスラーンに託したが、後を追わせないようにする、と彼は言った。それほどまでに友の精神が危険な状態だ。鎮静の魔法も効かないかもしれないーー。
だが、もっと危険な状態になる人物が、アレクセイの腕の中にいる。
ーーハオルめ。
琉生斗にとってどこを攻めればいいのか調べていたのだろう。何という卑怯な真似だ。心を殺すような悪魔の所業に、アレクセイの胸の内も絶望しかない。
「ーーアレクセイ殿下!国王陛下がお呼びです!」
トルイストが、叫んだ。
「後にしろ」
「は、はい!お伝え致します!」
アレクセイの気に呑まれ、トルイストは身を震わせた。怒りが尋常ではない。
ーーこの日、建国以来破られることがなかった王都の結界は、ひとりの悪魔によって役目を終えることになった。
聖女の国、神聖ロードリンゲン国が攻められたのは、これがはじめての事だったというーー。
神に背く行為に諸外国は恐怖した。とりわけ、強国バルドの民は、神の怒りを恐れて、しばらくは寝られない日々が続いたというーー。
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