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きみを忘れることなかれ編
第123話 はじめからやり直せ
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「いやいやいや、何だよそれ!」
「ルートの気持ちがわかるかと」
「わからなくていいんだよ!何でそんな自分を安売りするんだよ!ラルさんが泣くぞ!」
「ルートも他人とやって罪悪感に悩まされてるんだ、僕も同じ立場になればいいかと」
「全然違うわ!バカタレ!アレクはアレクだからいいんだよ!」
「違うと思ってるんでしょ?」
「一緒だよ!記憶がなくてもアレクはアレクだよ!だから、だからーー」
兵馬に追いすがりながら琉生斗は涙する。
「ーーそうだよね……、悲しいよね。自分の事だけ覚えてないなんて……」
頭を撫でてくれる兵馬の手が、いつも優しいのに、より優しく感じられた。
「呪い、だってわかってるよ……。どっちみち、ラルさんがいなかったら、希望がゼロだった事も……」
涙がとまらない。
「そうだよね……」
ふたりは沈黙した。
絶望で胸がいっぱいの琉生斗を、兵馬は静かに見る。
ーー必ず、何とかする。
言葉のないふたりの前に、そのひとはあらわれた。
「ーーじゃあ、はじめからやり直そーかー」
場にふさわしくない陽気な声。
「えっ?」
見上げた目の前には、龍のぬいとりをつけた朱色の袞服(皇帝の服)を着たラルジュナが立っていた。
「いつ来るのかとソワソワしてたのにー」
兵馬に抱きついて頬にキスをする。
「ーーやばいぐらいカッコいい」
ラルジュナを見る兵馬の目が潤んだ。おまえってそんな顔するんだな、と琉生斗は複雑な心境で親友を見る。
「やっぱりー!姉さん、これもらってもいいー?」
「いいわよ。もう、皇帝陛下には着せられないし。何に使うの?」
「コスプレエッチだよー。後宮ごっこしよ~っとー」
兵馬が吹いた。
「ーー何?詳しく聞かせて?」
ミリアムの目の色が変わる。
「あのねー、いろんな職業の服を着てねー」
「ふむふむ……」
「ーーおまえ、結構マニアックだな」
「まだ、医者の白衣とパイロットしかしてないよ」
あっさり言われて琉生斗は顔を赤らめた。
「ーーネクタイが、ネクタイがーー」
兵馬が顔を隠す。
「縛られてんの?」
「…………」
ーーこいつ研究熱心だからな。なんでもやりそうだよな……。
「提案したらアス王太子が早速商品にしてたよ。いる?」
「ぱ、パイロット!アレクのパイロット服!ーー欲しすぎる!」
琉生斗は想像でやられた。
「ーーそれ、いいわね!遊女の服を用意してちょうだい!」
「姉さん、胸が足りないー」
「うるさい!昔のように毛虫をもって追いかけるわよ!」
「ゴリラー!」
「ーー葛城みたいだな」
「ジュナのお姉さんはみんなすごい良い方だよ」
「楽しそうな一族だ」
琉生斗の言葉に、ラルジュナとミリアムはお互いの目を見て、軽くため息をもらした。
「ん?」
「ふふっ、共通の敵がいると団結するのよ、きっと」
ラルジュナが嫌そうな顔をする。
「さっ、いつまでもこんなところにいないで帰ろうー」
「うん」
「貴妃様!」
そのとき、部屋に侍女が飛び込んできた。
「なあに、聖女様がおられるのに騒がしいですわよ」
「皇帝陛下がお越しに!」
侍女の言葉にラルジュナと兵馬が顔色を変える。
「ヒョウマ逃げるよー!」
「はい!」
琉生斗の手を引き兵馬が走りだす。
「えっ!やばいの!?」
「やばい、やばい!」
「めんどくさいー!」
「またいらしてね~」
のんきな貴妃ミリアムの声に見送られ、琉生斗達は慌ただしく朱雀宮を後にした。
「もっと、中を見たかったな」
残念、と琉生斗はこぼした。
「ルート、紫禁城やフエ王宮行ったんでしょ?」
「まあ、あれ流行る前な」
「あんな感じだよ」
「あれ、って?教えてくれた流行病ー?」
ラルジュナが尋ねる。
「うん、そう。世界的に大流行したからね」
「勉強熱心だな」
ふたりの話を聞きながら琉生斗は息をはいた。
「ーー帰って来ないのかな……」
アレクセイのいない離宮が、住み慣れた部屋に見えない。
「うん?殿下出ていったの?」
「しょうがねえよな。おれこんなんだしーー。けど、それでも好きなんだったらおれが納得するしかない。たぶん、おれがアレクの記憶をなくしたんなら、あいつは我慢できると思うからーー」
悲しいけど、はじめからやり直す、しかないかーー。
「そうだね。じゃあ、ルート、神殿に行こうよ」
「ん?」
琉生斗は目を瞬いた。
なぜか琉生斗は神殿に連れて行かれ、ミハエルに髪を切られた。
「ーーここまで淑女のようになられたのに……」
ミハエルが涙をのんだ。
「また、のばしますから」
明るく兵馬が言う。
「?」
琉生斗は頭がハテナだ。
「はい!これ着て!」
兵馬が学生服をだした。
「えっ?」
「殿下にはあのドームで寝てもらってるから」
琉生斗の顔に驚きが広がる。
「兵馬、まさかーー」
「そう、はじめからやり直す、んだよ」
確信を得たようないきいきとした表情を親友にされ、琉生斗は戸惑うばかりだ。
「なんで?」
「ジュナに言われて考えてみたんだけど、殿下が呪いを受けたのって、かなり前だよね?」
「いや、それは前の悪神だろ?」
「でも、あの短時間だから、ジュナもどの悪神の呪いとは設定できなかったんだよ。だから、悪神アルゴルの後と考えてみて、殿下がはじめてみた琉生斗は、いまとちょっと違うよね?」
「そりゃ、いまは完全に嫁ポジだからな」
「試してみよう」
真剣に自分を思う親友の強い目に、琉生斗は頷いた。
「ーーああ。これでだめなら、すっぱり諦める」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んでいただきありがとうございます。感謝です!
古い話ですが、「同棲はじめ アレクセイ視点」を外伝にアップしていますので、読んでいただけたらうれしいです😂
「ルートの気持ちがわかるかと」
「わからなくていいんだよ!何でそんな自分を安売りするんだよ!ラルさんが泣くぞ!」
「ルートも他人とやって罪悪感に悩まされてるんだ、僕も同じ立場になればいいかと」
「全然違うわ!バカタレ!アレクはアレクだからいいんだよ!」
「違うと思ってるんでしょ?」
「一緒だよ!記憶がなくてもアレクはアレクだよ!だから、だからーー」
兵馬に追いすがりながら琉生斗は涙する。
「ーーそうだよね……、悲しいよね。自分の事だけ覚えてないなんて……」
頭を撫でてくれる兵馬の手が、いつも優しいのに、より優しく感じられた。
「呪い、だってわかってるよ……。どっちみち、ラルさんがいなかったら、希望がゼロだった事も……」
涙がとまらない。
「そうだよね……」
ふたりは沈黙した。
絶望で胸がいっぱいの琉生斗を、兵馬は静かに見る。
ーー必ず、何とかする。
言葉のないふたりの前に、そのひとはあらわれた。
「ーーじゃあ、はじめからやり直そーかー」
場にふさわしくない陽気な声。
「えっ?」
見上げた目の前には、龍のぬいとりをつけた朱色の袞服(皇帝の服)を着たラルジュナが立っていた。
「いつ来るのかとソワソワしてたのにー」
兵馬に抱きついて頬にキスをする。
「ーーやばいぐらいカッコいい」
ラルジュナを見る兵馬の目が潤んだ。おまえってそんな顔するんだな、と琉生斗は複雑な心境で親友を見る。
「やっぱりー!姉さん、これもらってもいいー?」
「いいわよ。もう、皇帝陛下には着せられないし。何に使うの?」
「コスプレエッチだよー。後宮ごっこしよ~っとー」
兵馬が吹いた。
「ーー何?詳しく聞かせて?」
ミリアムの目の色が変わる。
「あのねー、いろんな職業の服を着てねー」
「ふむふむ……」
「ーーおまえ、結構マニアックだな」
「まだ、医者の白衣とパイロットしかしてないよ」
あっさり言われて琉生斗は顔を赤らめた。
「ーーネクタイが、ネクタイがーー」
兵馬が顔を隠す。
「縛られてんの?」
「…………」
ーーこいつ研究熱心だからな。なんでもやりそうだよな……。
「提案したらアス王太子が早速商品にしてたよ。いる?」
「ぱ、パイロット!アレクのパイロット服!ーー欲しすぎる!」
琉生斗は想像でやられた。
「ーーそれ、いいわね!遊女の服を用意してちょうだい!」
「姉さん、胸が足りないー」
「うるさい!昔のように毛虫をもって追いかけるわよ!」
「ゴリラー!」
「ーー葛城みたいだな」
「ジュナのお姉さんはみんなすごい良い方だよ」
「楽しそうな一族だ」
琉生斗の言葉に、ラルジュナとミリアムはお互いの目を見て、軽くため息をもらした。
「ん?」
「ふふっ、共通の敵がいると団結するのよ、きっと」
ラルジュナが嫌そうな顔をする。
「さっ、いつまでもこんなところにいないで帰ろうー」
「うん」
「貴妃様!」
そのとき、部屋に侍女が飛び込んできた。
「なあに、聖女様がおられるのに騒がしいですわよ」
「皇帝陛下がお越しに!」
侍女の言葉にラルジュナと兵馬が顔色を変える。
「ヒョウマ逃げるよー!」
「はい!」
琉生斗の手を引き兵馬が走りだす。
「えっ!やばいの!?」
「やばい、やばい!」
「めんどくさいー!」
「またいらしてね~」
のんきな貴妃ミリアムの声に見送られ、琉生斗達は慌ただしく朱雀宮を後にした。
「もっと、中を見たかったな」
残念、と琉生斗はこぼした。
「ルート、紫禁城やフエ王宮行ったんでしょ?」
「まあ、あれ流行る前な」
「あんな感じだよ」
「あれ、って?教えてくれた流行病ー?」
ラルジュナが尋ねる。
「うん、そう。世界的に大流行したからね」
「勉強熱心だな」
ふたりの話を聞きながら琉生斗は息をはいた。
「ーー帰って来ないのかな……」
アレクセイのいない離宮が、住み慣れた部屋に見えない。
「うん?殿下出ていったの?」
「しょうがねえよな。おれこんなんだしーー。けど、それでも好きなんだったらおれが納得するしかない。たぶん、おれがアレクの記憶をなくしたんなら、あいつは我慢できると思うからーー」
悲しいけど、はじめからやり直す、しかないかーー。
「そうだね。じゃあ、ルート、神殿に行こうよ」
「ん?」
琉生斗は目を瞬いた。
なぜか琉生斗は神殿に連れて行かれ、ミハエルに髪を切られた。
「ーーここまで淑女のようになられたのに……」
ミハエルが涙をのんだ。
「また、のばしますから」
明るく兵馬が言う。
「?」
琉生斗は頭がハテナだ。
「はい!これ着て!」
兵馬が学生服をだした。
「えっ?」
「殿下にはあのドームで寝てもらってるから」
琉生斗の顔に驚きが広がる。
「兵馬、まさかーー」
「そう、はじめからやり直す、んだよ」
確信を得たようないきいきとした表情を親友にされ、琉生斗は戸惑うばかりだ。
「なんで?」
「ジュナに言われて考えてみたんだけど、殿下が呪いを受けたのって、かなり前だよね?」
「いや、それは前の悪神だろ?」
「でも、あの短時間だから、ジュナもどの悪神の呪いとは設定できなかったんだよ。だから、悪神アルゴルの後と考えてみて、殿下がはじめてみた琉生斗は、いまとちょっと違うよね?」
「そりゃ、いまは完全に嫁ポジだからな」
「試してみよう」
真剣に自分を思う親友の強い目に、琉生斗は頷いた。
「ーーああ。これでだめなら、すっぱり諦める」
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