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きみを忘れることなかれ編
第122話 アレクセイはでていく
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「ーー今日から別で住もう」
「えっ?」
「ここは、ルートがつかってくれ」
淡々と言われ、琉生斗は慌てる。アレクセイの腕をつかんで顔を合わせた。
「ちょっと待てよ」
「どうした?」
「いや、どこ行くんだよ!」
「適当に過ごす」
強く言われ琉生斗はたじろぐ。
「少し離れよう。そのほうが思い出すかもしれない」
「アレク……」
「8月は魔蝕がない。アルカトラズもいいかもしれないな」
静かだが、内心は怒っている。
アレクセイの言動からそれがわかった。
「アレク……、おれはおまえの事が好きだ。世界一好きだ。記憶がなくてもおまえへの気持ちは変わらないーー」
「…………」
「だけど、おまえを好きだって認めてしまうのが怖いんだよ。もう、おれとの思い出がないまま、ずっとこのままなんだってーー」
「ルート……」
頭をポンポンと叩かれ、アレクセイは離宮を出て行く。
琉生斗はその背中を見送った。言葉もかけずに見送るしかなかった。
「ーー、ふっ……」
こらえていた涙があふれだす。
「だめだ、おれーー」
「………ルート…」
肩を叩かれる。
「ーー兵馬……」
心配が顔にはりついたような兵馬が、琉生斗を見ていた。
「大丈夫?ミハエルさんが、今日は休んでもいいって言ってたよーー」
「兵馬ーー。もう、おれはだめだ……」
泣きやむ事ができない。
「ーーうん。そうだよね。これから新しい思い出をつくれる、って言ったって違うよね」
「違うよ!全然違うんだから!」
「苦しいよね。殿下の事、大好きだもんね」
「うん、うん………」
「ふたりが幸せになるには、これからどうすればいいのかな?」
「ーーーおれが、我慢するしかない」
「無理なんでしょ?別れるの?」
「ひどいこと言うなぁ!」
琉生斗はクッションを兵馬にぶつけた。
「うん。それは違うよね。ーーよし、ルート出かけよう」
「行かねえ」
「行こうよ」
「行かねえ!」
「来来国に、良い占い師がいるんだ。占ってもらおうよ」
「へ?」
突然の話に、琉生斗は意表をつかれた。
「何かアドバイスをもらえるかも」
「ーーふ~ん」
興味にかられ琉生斗は出かける用意をした。
「ーー兵馬、さすがに無理じゃないのか?」
「大丈夫だよ。すみません!貴妃様にとりついでいただけませんか!?」
来来国、皇帝が住まう朱雀宮。広大な敷地に瓦葺きの赤い建物がシンメトリーに配置され、豪奢な高い建物が一番奥に見える。
その、威厳に満ちた赤い大門の前に琉生斗と兵馬はいた。
「はい。ヒョウマ殿、お通りください。転移魔法の許可書です」
門番が兵馬に書類を渡した。
「ええっ!」
ほんとに大丈夫なのか!
「ようこそいらっしゃいました。聖女様。まさかお会いできるなんて、もったいない話ですわ」
貴妃ミリアムがラルジュナに似た目元をほころばせて笑う。琉生斗が婚約お披露目会で着たような、優雅な漢服衣装をまとっている。こちらはこういう衣服なのだろう。
「えっ、ラルさんの?」
「3番目のお姉様」
「ほほっ、弟がお世話になっております。母は違うのですが、私と姉ふたりは母も同じですの」
「ラルさんは、実質はひとりっ子なんだろ?」
「ええ、ユリアム様は、ラルジュナを産んですぐに崩御なされましたからーー。可哀想な弟ですわ。わたくし、少し前に姫を産みましたが、あの子を置いていくなど考えたくもありませんもの……」
ほぅ、とミリアムが息をはいた。すべてにおいて所作が美しい。
「それで、わたくしに何を占ってほしいのです?」
ミリアムが箸のような棒がたくさん入った筒を用意した。
「え~と、旦那さんの記憶がなくなってる部分があって、そのせいで他人に思えてしまうので、今後をどう付き合えばいいのか悩んでいます、って感じです」
「ーーヒョウマ、あなた聖女様の母親みたいね」
笑われて兵馬が顔を赤くする。
琉生斗は項垂れて口を開いた。
「ーー受け入れられないんです。他人みたいで……」
「なるほど、今後の関係性かしらーー。この中からどれでもいい、一本お引きになってーー」
琉生斗は迷いながら、何本かよりながら、一本を引く。
「ふむ。はじめからやり直せ、ですって」
「はあ!全部なかったことにすんの!?」
逆上して琉生斗は大声をあげた。
「ルート!落ちついて!ここ、後宮だから!!!」
「落ちつけるかぁ!」
思い出は、おれだけ覚えていればいいのか!
違うだろ!
「何だよ!どうせ、おれだけ悩めばいいんだ!!!」
「ーールート、落ちついて。いや、何とかなるかも……」
兵馬が考え込むように顎に手をあてる。
「まあ、占いなんてただの気休めですわ。それよりヒョウマ、わかっていますわね?」
「ーーはい」
兵馬が頭を下げた。
「何だよ?」
眉を寄せながら親友を見る。
「ルート……」
言いにくそうに彼が口を開いた。
「占いのお礼をしてくるから」
「ああ、?貴妃様にするんじゃないのか?」
「うふっ、前から皇帝陛下がヒョウマを呼びたいと仰せられててーー」
「ん?」
ミリアムの目が細められた。目の色に嫉妬が滲みだす。
「僕も、他人とサクッとやってくるよ!」
兵馬が親指を立てた。
ガダンッ!
琉生斗は椅子から落ちた。
「えっ?」
「ここは、ルートがつかってくれ」
淡々と言われ、琉生斗は慌てる。アレクセイの腕をつかんで顔を合わせた。
「ちょっと待てよ」
「どうした?」
「いや、どこ行くんだよ!」
「適当に過ごす」
強く言われ琉生斗はたじろぐ。
「少し離れよう。そのほうが思い出すかもしれない」
「アレク……」
「8月は魔蝕がない。アルカトラズもいいかもしれないな」
静かだが、内心は怒っている。
アレクセイの言動からそれがわかった。
「アレク……、おれはおまえの事が好きだ。世界一好きだ。記憶がなくてもおまえへの気持ちは変わらないーー」
「…………」
「だけど、おまえを好きだって認めてしまうのが怖いんだよ。もう、おれとの思い出がないまま、ずっとこのままなんだってーー」
「ルート……」
頭をポンポンと叩かれ、アレクセイは離宮を出て行く。
琉生斗はその背中を見送った。言葉もかけずに見送るしかなかった。
「ーー、ふっ……」
こらえていた涙があふれだす。
「だめだ、おれーー」
「………ルート…」
肩を叩かれる。
「ーー兵馬……」
心配が顔にはりついたような兵馬が、琉生斗を見ていた。
「大丈夫?ミハエルさんが、今日は休んでもいいって言ってたよーー」
「兵馬ーー。もう、おれはだめだ……」
泣きやむ事ができない。
「ーーうん。そうだよね。これから新しい思い出をつくれる、って言ったって違うよね」
「違うよ!全然違うんだから!」
「苦しいよね。殿下の事、大好きだもんね」
「うん、うん………」
「ふたりが幸せになるには、これからどうすればいいのかな?」
「ーーーおれが、我慢するしかない」
「無理なんでしょ?別れるの?」
「ひどいこと言うなぁ!」
琉生斗はクッションを兵馬にぶつけた。
「うん。それは違うよね。ーーよし、ルート出かけよう」
「行かねえ」
「行こうよ」
「行かねえ!」
「来来国に、良い占い師がいるんだ。占ってもらおうよ」
「へ?」
突然の話に、琉生斗は意表をつかれた。
「何かアドバイスをもらえるかも」
「ーーふ~ん」
興味にかられ琉生斗は出かける用意をした。
「ーー兵馬、さすがに無理じゃないのか?」
「大丈夫だよ。すみません!貴妃様にとりついでいただけませんか!?」
来来国、皇帝が住まう朱雀宮。広大な敷地に瓦葺きの赤い建物がシンメトリーに配置され、豪奢な高い建物が一番奥に見える。
その、威厳に満ちた赤い大門の前に琉生斗と兵馬はいた。
「はい。ヒョウマ殿、お通りください。転移魔法の許可書です」
門番が兵馬に書類を渡した。
「ええっ!」
ほんとに大丈夫なのか!
「ようこそいらっしゃいました。聖女様。まさかお会いできるなんて、もったいない話ですわ」
貴妃ミリアムがラルジュナに似た目元をほころばせて笑う。琉生斗が婚約お披露目会で着たような、優雅な漢服衣装をまとっている。こちらはこういう衣服なのだろう。
「えっ、ラルさんの?」
「3番目のお姉様」
「ほほっ、弟がお世話になっております。母は違うのですが、私と姉ふたりは母も同じですの」
「ラルさんは、実質はひとりっ子なんだろ?」
「ええ、ユリアム様は、ラルジュナを産んですぐに崩御なされましたからーー。可哀想な弟ですわ。わたくし、少し前に姫を産みましたが、あの子を置いていくなど考えたくもありませんもの……」
ほぅ、とミリアムが息をはいた。すべてにおいて所作が美しい。
「それで、わたくしに何を占ってほしいのです?」
ミリアムが箸のような棒がたくさん入った筒を用意した。
「え~と、旦那さんの記憶がなくなってる部分があって、そのせいで他人に思えてしまうので、今後をどう付き合えばいいのか悩んでいます、って感じです」
「ーーヒョウマ、あなた聖女様の母親みたいね」
笑われて兵馬が顔を赤くする。
琉生斗は項垂れて口を開いた。
「ーー受け入れられないんです。他人みたいで……」
「なるほど、今後の関係性かしらーー。この中からどれでもいい、一本お引きになってーー」
琉生斗は迷いながら、何本かよりながら、一本を引く。
「ふむ。はじめからやり直せ、ですって」
「はあ!全部なかったことにすんの!?」
逆上して琉生斗は大声をあげた。
「ルート!落ちついて!ここ、後宮だから!!!」
「落ちつけるかぁ!」
思い出は、おれだけ覚えていればいいのか!
違うだろ!
「何だよ!どうせ、おれだけ悩めばいいんだ!!!」
「ーールート、落ちついて。いや、何とかなるかも……」
兵馬が考え込むように顎に手をあてる。
「まあ、占いなんてただの気休めですわ。それよりヒョウマ、わかっていますわね?」
「ーーはい」
兵馬が頭を下げた。
「何だよ?」
眉を寄せながら親友を見る。
「ルート……」
言いにくそうに彼が口を開いた。
「占いのお礼をしてくるから」
「ああ、?貴妃様にするんじゃないのか?」
「うふっ、前から皇帝陛下がヒョウマを呼びたいと仰せられててーー」
「ん?」
ミリアムの目が細められた。目の色に嫉妬が滲みだす。
「僕も、他人とサクッとやってくるよ!」
兵馬が親指を立てた。
ガダンッ!
琉生斗は椅子から落ちた。
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