ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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ゴッドスレイヤー編

第119話 あのひとは誰?

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「ーーちょっと、ルート!意地が悪いよー!」
 目を覚ましたラルジュナが、慌てて口を挟んだ。

「だって……。おれのアレクじゃない……」
 琉生斗は泣きくずれた。


「ルート、苦しいのですか?」
「アレクセイ、記憶の上書きできないの?複製コピーしといたでしょ?」

「?」
 何の話かわからないアレクセイが眉をしかめた。

「案外不器用だよねー。もう、ここでも簡単な魔法は使えるでしょ?」
「ここは暗黒大陸だな」
「そう。で、ボクらは悪神を斬ったので、一番大事なものの記憶を失くしました」

「ーーーーー」
「けど、それをラヴァから聞いたときに、ボクは先に準備しといた複製魔法を使いました」
「凄いな」
「そう、凄いでしょ。速攻で二人分の記憶を記憶媒体に突っ込みました。呪いが発動した後に、脳内に上書きできるようにして」

「え?じゃあ、ラルさん……」
「ーーヒョウマの記憶が失くなってたよ。すぐに戻したけど。呪いの発動は一度きりだね。何枚も複製を作ったけど大丈夫そうだ」

「あ、じゃあ……」
「アレクセイも上書きが終われば記憶は戻るよ。ちょっと難しいのかなー」

 凄いな、このひと。
 あの状況でよくそんな余裕があったよなーー。
 
 さすがは兵馬が惚れるだけある。
 琉生斗の中のラルジュナの株が爆上がり中だ。


「アレク、わりとうっかりさんだからーー」
 それに対してこのうっかりさんは。

「ラルジュナ、おまえがルートの結婚相手か?」
 アレクセイがラルジュナを睨んだ。

「話聞きなよー!脳の回路の中に記憶媒体を差してるから、確認して自分で開けてよねー」
「ありがとう、ラルさん……」

「やめてよー、気持ち悪いー。ねえ、ヒョウマは?」
 ラルジュナが重たげに立ちあがる。
「蛇羊神様のとこ行ったよ」
「勉強熱心だねー」

「違う、泣きに行ったんだよ」

 ラルジュナが目を丸くして琉生斗を見た。

「あー、なるほど。ちょっと離れるけど、ルート、アレクセイを責めないでよー。ボクが凄いだけだからねー」

「しないよ」
「ならいいけどー」

 ラルジュナがゆっくりと歩き出す。身体がつらそうだ。

「兵馬の事、ちゃんと愛してるんだな」
「ヒョウマ……。書記官のヒョウマか」
「兵馬とおれが、重ならないのか?どういう記憶なんだろ?」

「ルートは、誰と結婚しているのだ?」
「気になるの?」
「あたりまえだ」

 おまえなんだよーー!

 もう!


 いや、ラルジュナがいなかったら、永遠にこの状況だったのだ。それを思えば可能性があるだけましというもの。



「あのな、アレク。忘れてるみたいだけど、おれはおまえの妻なんだよ」
「え?」
「いまのおれの名前は、アレクセイ妃殿下ルート・ベキリーブルーガーネット・ロードリンゲン、なんです」


 長い間沈黙し、本当か?とアレクセイが一言いった。

「まあ、生命があっただけいいよな、……ん?」
 アレクセイが琉生斗の頬にこわごわと手を伸ばす。その手をつかみながら優しく言った。

「触れるよ。ほら」
 見慣れた胸の中に琉生斗は飛び込む。

 呆然とした顔で彼が自分を見た。


「おまえ、めちゃくちゃおれの事好きなんだぜ」

「ーーそうだろうな」
 真っ赤な顔をしたアレクセイが、琉生斗を抱きしめる。

 アレクなんだけど、アレクじゃないーー、変な感じ……。






 一週間、暗黒神殿で休息してから4人は船に戻ることにした。兵馬を気に入った蛇羊神が、なかなか返してくれなかったのだ。
 アレクセイとラルジュナは悪神の使用する魔法を教わったりしていたが、琉生斗は何もする気になれず、ただゴロゴロしていた。

『ヒョウマ、おまえわしの眷属けんぞくにならんか』
 蛇羊神が兵馬を引き止める。長い尻尾で身体を巻かれそうになり、ラルジュナがそれを解いていた。

「いやいや、恐れおおい」
『素質はあるぞ』
「わあ、僕すごい!つつしんで辞退します」
『なら、聖女はどうじゃ?』

 山羊の目が光るのが、琉生斗はやはり怖い。

「蛇羊神様の聖女?何をするの?」
『野ざらしになっとる死体の骨をもってきて、ここの祭壇に祀り供養するのだ』

「ーーーーー」
 兵馬が表情をなくし黙るのを見て、ラルジュナは口を押さえた。肩が震えているので、笑いをこらえているのだろう。

「ーーまたお茶を飲みに来てもいいですか?」
 話をはぐらかした兵馬に、残念そうな息を吐き蛇羊神が言う。

『三日に一度はおいで』
「ーーそれは無理です」
『約束の印をいれておこう』
「やめてくださ~い!!!」

 印はこりごりです!、と兵馬は心の中で叫んだ。

 結局、無理やりつけられていたがーー。



「ラルさん、連れて来ないといけないんじゃない?」
 船へ向かう道も、帰りは緊張をといて歩ける。来たときは、兵馬が真顔で「引き返そう」、というぐらい暗いものだったのだがーー。

「退屈はしないけどねー、書庫の文献読んでもいいって言うしー」
「あそこ、面白いよね!」

 やたらと距離が近い兵馬とラルジュナを見て、琉生斗はため息をついた。

 ーー絶対やってるな、あのふたり。

 と、いうやつだ。


 アレクセイには記憶が戻る気配がないしーー。

「どうなってるの?」

「ーーう~んー。また戻ってから調べるよー」
 そんなわけないんだけどーー、とラルジュナが首を傾げる。

 全員の無事に、船で待っていたヤヘルは号泣したーー。その横の酒瓶を慌ててレノラが片付けていく。
「ヤヘルさん。最近量が多くなってない?」
「ガハハハっ」
 兵馬に怒られ、ヤヘルは笑ってごまかした。

「もう、転移魔法で国に帰れるんだろ?」
「ルート、帰るなら先に帰りなよ。僕、船に乗ってたい」
 船の仕上がりに兵馬がはしゃぐ。行きはそんな精神じゃなかったので、いま実感しているのだろう。

「あの状態のアレクとふたりで帰るの?おまえ、無茶言うよな!」
 琉生斗は文句を言ったが、兵馬には相手にされなかった。

「ジュナ!タイタニックごっこしようよ!」
「何それー!やるー!」
 浮かれるふたりに琉生斗は叫んだ。

「くそっ!バカップルがぁ~~~~~!」


「ーー君にだけは言われたくないよ」












「アルゴル……」

 穏やかな顔でアレクセイは消えていく暗黒大陸を見つめる。


 たぶん、あなたの言う通りになった。
 ただ、自分が忘れただけ。


 自分を抱きしめてくれるあのひとは、誰だ?


 あのひとはーー。



 最愛の妻の記憶を失くし、アレクセイは国に帰還したーー。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!「ゴッドスレイヤー編」は終わりになります。
 いつも読んでいただき、ありがとうございます。少しでも気に入っていただけたら、お気に入り登録をお願いします☺️

 🙇新参者を温かく見守っていただき、感謝いたします✨
 

      濃子
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