ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
337 / 410
ゴッドスレイヤー編

第118話 それはもう彼じゃない

しおりを挟む



『ーー嘘だろ?オレサマが……。ーーーーーー仕方がないのか……。付与は神と悪魔の磁場内で魔法が使える事だ……。呪いは……』

 悪神が消えていく。

 声だけが、響いた。

『一番大事なものの記憶を失くす……。ざまーみろぉ!』
 笑い声とともにラヴァは消滅した。

 悪神ラヴァはひとに斬られたのだ。



 アレクセイが倒れた。ラルジュナも手にあった槍が消え、そのまま身体が倒れていく。





「アレク!」
「ジュナ!」

 ふたりは駆け寄った。

 気を失ったアレクセイとラルジュナを見て、ふたりは複雑な顔をした。

「魔カバンに入って治癒をしよう」
「あ、うん」





「ーー凄かったね」
「ああ……」
 今さらながらよく全員生きていたな、という感じだ。
「バンブーさんにお礼を言わないと」
「そうだな」


「ルート」
「何だよ……」
 兵馬は真っ青な顔色をした琉生斗を案じ、静かに話しかけた。
「殿下なら大丈夫だよ。記憶を失くしても、すぐに君の事を好きになると思うし……」
 親友を気づかいながら兵馬は言う。

「いや、それもう別人じゃん。おれのアレクじゃないだろ………」
 琉生斗が悲しげに目を伏せる。

「そうだね。でも、生きててくれたじゃない……」

 兵馬は慰めながら、顔を曇らせた。






 ラルジュナが自分を覚えていたら?

 それもまた複雑な話だよねーー、絶対覚えてそう。

 一番大事なもの、だ。
 何もひとに限った事ではない。もしかしたら国に関する記憶かもしれない。




「うっ」

「ジュナ!」
 ラルジュナのうめき声に兵馬が顔色を変える。
「大丈夫?どこか、痛い?」

「全身がーー」
 ラルジュナが兵馬を見た。

 一瞬、彼が目を瞬き、何かを考える顔をする。


「ーーヒョウマ達は大丈夫?」

 琉生斗は目を見開いた。前にいる親友の後ろ姿を、どんな目でみればいいのかわからない。

「ーー平気だよ。暗黒神殿まで戻ろう」

「うん。もう、普通の転移魔法が使えるよー」

 横になったまま、ラルジュナが手を振る。




 景色が変わった。暗黒神殿の大聖堂だ。

「早いな……」
「ジュナは凄いでしょ?」
 兵馬の声が少し震えている。

「蛇羊神様!おじゃまします!」




 祭壇の奥から石畳を這う音がした。

『やったか……』

「はい!」

『そうか……。まあ神といえど討たれるときは討たれるわな』
「つらいですか?」

『少しわな。知ってる奴が死ぬと、知らない奴よりかは何かを思うじゃろ?』
 兵馬が頷いた。

『そんなぐらいじゃ……』


 蛇羊神が好きに使えと言ってくれたので、大聖堂に布団を運び込んでアレクセイとラルジュナを寝かせる。
 安心したのかラルジュナもすぐに寝てしまった。

「ーー東堂、がんばってるかな……」
「あいつなら大丈夫だろ。アスラーンさんとはどうなんだろ」
「…………」

「何だよ」

「知らない振りできる?」
「え?何を?」
「絶対に東堂に言わない?」

「あっ、ああーー」

「あのふたり、身体の関係があるよ」








「はあ?」
 琉生斗は目を丸くして首を捻った。

「な、なんでそんな事にーー」

「何があるかわからないよね」
 兵馬が静かな声で言う。視線の先にラルジュナの顔があった。

「兵馬……」


「あっ、蛇羊神様に聞きたい事があるから、琉生斗見張りをお願い」
「ーーわかった」

 
 兵馬がいなくなり、琉生斗はしばらくの間アレクセイの顔を見ていた。部分的に焦げた髪は治癒では戻らないので、切るしかないだろう。

「すごいなぁ、アレク……」

 声に反応したのか、アレクセイの瞼が動いた。

「あ、アレク!大丈夫か!」


 アレクセイの目が開かれる。彼は警戒するようにまわりを見ていたが、最後に琉生斗の顔を見た。


「あ、、、」

 言葉が続けられない。

 まったくの他人を見る目だ。


 はじめて見たひとのような顔で、アレクセイが瞬きを繰り返した。

「えっと……、その……」
 喜んでいいのか、悲しむべきかーー。




「聖女様ですね?」
 アレクセイの言葉に、琉生斗は殴られたような衝撃を受ける。
「ーーあ、うん」

「私はアレクセイと申します。聖女様の護衛をさせていただく者です。聖女様のお名前は?」

「ーー加賀、琉生斗です……」

「ルートーー。素敵なお名前ですね」
 
 ーー何の茶番なんだよこれはーー。

 琉生斗は下を向いた。歯を食いしばる。



 どうすればいいんだよぉ!!!


「ーールート、いきなりこんな事を言うのもどうかと思うのですがーー」

「…………」

「私と結婚してください」

「…………」
 琉生斗は深くため息をついた。

「悪いけど……無理だ」

「ーーそうですか……。必ず、あなたに釣り合うような男になりますがーー」

「おれ、結婚してるの。既婚者だから」
 アレクセイが目を見張った。

「そう、なんですか……」
 声が沈む。


 琉生斗とアレクセイは沈黙した。アレクセイの表情に色が失くなっていきーー。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

処理中です...