ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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ゴッドスレイヤー編

第110話 ライト、父のところへ行く

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 どこまでも暗い空ーー。
 
 生気を感じられるものは何もないーー。

 ただ、神をやめた悪神がいる、冷たい大陸。



 暗黒大陸に、アレクセイは捨て置かれた。







 ーー母が亡くなったときに、妓館の主人が思い出したように言った。

「おまえ、あの国の王様に顔が似てる。だめもとで連れて行ってみるか」
 いい男娼になれるんだがその歳になるまで面倒をみるのは大変だからなーー、と主人が不満そうに言う。

 ライトは長い期間、馬車に乗せられた。
 足がどうにかなるのでは、と思うほどの期間を馬車で過ごす。

 魔法が使える事は隠しておくように、と母から言われていたので、使えないふりをした。

 その城に着き、門番の兵士に妓館の主人が事情を説明したが相手にされない。
 何度説明してもだめだった。

 だが、城に入ろうとした緑色の騎士服を着た品のいい青年が、ライトの側に寄ってきた。

「えっ?殿下?」
 ライトの顔をまじまじと見て驚きに目を見張る。


「ーー失礼。私はパボンと言います。この方は?」
「ああ。あんたの事は覚えているよ。この子の父親の付き添いだろう?」
 パボンが頭を押さえた。

 やはりそうか。あの妓女の子供だーー、と青年はつぶやきを漏らす。

「ーー謁見の間へどうぞ。あなたはーー」
「ベルインだ」
「アジャハンの、ですよね?」
「ああ。母親が亡くなったので、どうしようかと思ってな。認知は無理でも、将来を保証する金をやってほしい」
「それは、もちろん」

 パボンの転移魔法で禁止区域の手前まで移動する。

 ーーあまり上手くない、とライトは感じた。










「何だ?パボン、これからラズベリーと双子達と出かけるんだ。わかっているだろう?」
 王太子アダマスが面倒くさそうな顔をする。パボンは主に近寄り耳打ちをした。

「え!?セイラの?」
 アダマスが近づき、ライトの前髪をあげた。

「何と!美形すぎないか?」
「殿下よりハンサムになりそうですね」
「髪の色は、セイラに似たな」
「それ以外はよく似ておりますね」
「うん。私もハンサムだからな」

 アダマスがベルインに礼を言った。

「連れてきてくれてありがとう。この子は間違いなく私の子だ。いま、6才だろう?誕生日は?」
「12月24日だ」
「クリステイルと変わらんな」
「はあー、ばれたら恐ろしいですね」
「黙っている訳にはいかないし……」
 アダマスとパボンは顔を曇らせた。





 多額のお金を受け取り、ベルインがライトに別れを告げる。

「じゃあな。おまえは父親みたいになるなよ。そのまま育てばまわりの女がほっとかない。だが、それに流されるしょうもない生き方はするな」
「うん」
「もう、会うこともないだろう。母親の墓の地図は渡しておく」
「ありがとう」
「母親の形見はもっているな?」
「うん」
「ほんとに、愛想のないガキだーー」 

 ベルインが一度も振り返る事なく去っていった。


 












 与えられた部屋は広く豪華で、まったく落ち着かなかった。
 これから毎日ここにいるのだろうか。



 狭くとも、母の側にいたかった。それが幸せだったのに。
 アレクセイは胸にかけた古い首飾りを握る。Cの字のような形の丸いものがつけられたそれは、母のなくなった故郷にしかないものらしい。

「お母さん……」
 夜の仕事のため一緒に寝てくれた覚えはなく、日中もベッドの上から動かなかった母。それでも、自分を育ててくれた。

 ここにはきっと、自分のことを一番に思うひとなんていない。
 もう一生、そんなひとはいないだろう。




「アレクセイ、家族に紹介する」
 名前をライトからアレクセイへと変えられた。ただ、アレクセイ・ライト・ブルーガーネット・ロードリンゲン、とライトは残してもらえたので、安心する。


 二度とライトと呼ばれる事はなかったがーー。


 皆が自分の事を、アレクセイ殿下と呼ぶ。しばらくは慣れず、誰の名前だろう、と他人事のようだった。
 見たこともない、触れたこともないような上質な生地で服を仕立てられ、残してしまうぐらいの食事に、毎日の風呂。
 何が好きか尋ねられ、本を読みたいと答える。次の日には、本が部屋を埋め尽くすほどの図書室を与えられた。

 毎日そこで本を読む。まわりの大人が呆れるほど、朝早くから夜遅くまで本を読んでいた。
 あの男の子供だから充分に与えられると思うと、母はどうしてここに来なかったのか、疑問が残る。

 ただ、答えはすぐにでた。




「昔に私が付き合っていた女性の子でな、アレクセイだ」
 アダマスに紹介されると、何人かの女性が「そっくり」と言った。

 一番前にいたきらびやかな衣服の女性が、愕然としてアレクセイを見る。

「まさか、これが長子ですか……」 

 冥界から響いてきそうな恐ろしい声だった。まわりの女性達が青ざめた表情で後ずさる。

「そうだ。ルチア。クリステイルより2週間はやい」
「2週間!2週間でクリステイルは長子になれなかったのですか!貴方は長子の意味がわかっていたでしょう!一番、貴方の魔力を引き継ぐということを!」
 ルチアがアレクセイに魔剣を放った。 

 アレクセイは目を開き、結界を張った。

 結界に魔剣が突き刺さる。

 アダマスが目を丸くした。
「ほう、教えずともここまでできるとは、天才だ」
「貴方!」

「うるさい。王太子の座はクリステイルに譲る。それでいいのだろう」
「!」
「だが、スズ様がクリステイルを聖女の護衛に指名すれば、王太子はセージだ」
「何ですって!」
「聖女が交代する。その時期が近づいてきている。ルチア、よくそれを理解せよ。アレクセイ、他の兄弟を紹介しよう。クリステイルは同い年だ。よく助け合うように」

 アレクセイはルチアの顔が怖すぎて何も言えなかった。あれほど殺意しかない目で見られた事はない。もし、母がこの場にいたら確実に殺されていただろう。

 母は来なくてよかったのだ。

 自分も来ないほうがよかったと思う。


 たぶん、いや近い内に、あの女性に殺されるはずだからーー。
















 アレクセイの予感はあたり、何度も死にそうな目に合った。
 氷の海、魔犬の森、砂漠、空中に浮かぶ城。

 さまざまな場所に捨てられた。

 その度に、帰った。

 その度に、あの人からの憎しみが増えていく。



 そして、今度はここに捨てられた。

 帰れるだろう。
 帰りたくないないが、他に帰るところもない。

 いつも自分を気にかけてくれる、魔法騎士団のアンダーソニーや、ヤヘルなら、心配してくれているだろうかーー。


「魔力が、練れない……」
 変だ。こんなことは今までなかったのにーー。

 魔法が使えない。
 
 アレクセイは呆然とした。

 腐った臭いがあがってくる地面。枯れた木。水の気配などない。
 どこを見渡しても同じ風景だ。注意深く歩きながら、水を探す。どうしても水だけはいる。

 ルチアの温情か、剣だけは持たされた。魔法騎士団大隊長のヤヘルから少しは習ったが魔物を斬った事はない。魔法があれば何とかなったからだ。


 こんな事を想定して、ちゃんと習っておけばよかったのにーー。


 剣を手に水をさがす。せめて生きている木があればーー。

 暑いのか寒いのかもわからない、不思議な場所。方向感覚も狂ってしまい、ぐるぐるまわっているのか真っ直ぐ歩いているのかもわからなかった。





『ーー何だ、おまえ』





 おぞましい声に驚く。

 振り返ると、大きな黒い蟹がいた。いや、蟹らしき魔物なのか……。

 固まっているとハサミが向けられる。
『食ってもたしにはなりそうにないがーー、まあいい』
 蟹が襲いかかってきた。

 アレクセイは剣をかまえ、そしてーー。

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