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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編
第104話 まともな話もできるひと
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「ーートードォに嫌われた」
「そりゃ嫌われるよ」
「しょんぼり」
しょんぼり、って口にだすんだ。
琉生斗は変な生き物を見る目でアスラーンを見る。
「アレク、どうなんだ?」
「死ぬだろう」
「マジかよ。トルさんは?止めるように言ってよ」
「私は口を挟まないルールだ」
「ソニーさん」
「各自の判断にまかせています。判断する、それもまた、演習です」
「あー。おれ、聖女の治癒、初歩しか使えないぞ」
「スズ様の初歩なら、傷の入った臓器も治せたがーー」
「無理だよ~」
どこと比べるのよ。
「トードォはともかく、葛城はどうしたんだ?」
「冷静さを欠いているな」
何かを焦るような美花に、琉生斗は違和感しかない。
「ファウラはどこにいるんだよ」
「離れた場所です」
「ソニーさん、葛城だけでも!」
「私達は全滅しないとでません。ーーそれに……」
「え?」
アンダーソニーの視線を追って、琉生斗は辺りを見回した。
いつの間にかアジャハンの魔法騎士達が、テントのまわりを取り囲んでいる。
「ーーうそぉ」
「ここから出すつもりがなさそうですね。ヤヘルとルッタマイヤは一服盛られて動けませんし……」
アレクセイが頭を押さえた。
「アスラーン……」
さすがにやり過ぎだ。
「はははっ、私は最初に言ったではないか。本気にしなかったそちらの落ち度だ。格下だからと侮ったのか?驕ったのはどちらだ?」
「そうだな」
言っている事は間違いではないーー。アレクセイがため息をついた。
「おまえが助けに行きたければ行くがよい。その時点で失格にしてやろう」
「うわ~、悪役じゃねえか」
「ふふ、こんな優しい悪役がいるだろうか」
アスラーンが楽しそうに笑った。
「ーー若い騎士など本当の戦場を知らん奴ばかりだ……」
ポツリと言ったアスラーンに、琉生斗は眉をあげた。
「アスラーンさんは知ってるの?」
アレクセイと同年なら充分若いがーー。
「さて、地獄ならそこの神殺しの方がよく知っているだろうがなーー」
「よけいな事を言うな」
アスラーンの言葉をアレクセイが遮った。
「ーー獣人の国が無くなった話は聞いているか?国が違う、種が違う、それだけの事でひとはどこまでも非情になる」
琉生斗は視線を横にした。
向こうの世界でも人間同士の争いはなくならない。ときとして、目を背けたくなるような事件も起こる。
「あのときの幼子達の御遺体は忘れられん。ラルジュナなど、泣き喚いて役に立たなかった」
重い内容の話を、軽い口調で語る。まるで、よくある日常のできごとのように。
「負ける、という事はそういう事だ。私は何があっても、負けはせんよ。たとえ、遊びであってもな」
後ろに控えているフストンが大きく頷いた。
「アレクセイ、おまえもラルジュナの成績は覚えているな?私やおまえより遥かにできがよかった」
「ーーああ」
「それでも廃された。あれだけ国に尽くし貢献してきた王太子が、王妃やまわりの私利私欲に負けたのだ。あいつの功績を引き継ぐ奴など、いまあの国にいると思うか?本当に、残念でならんよ」
「アスラーン……」
友が語る姿をアレクセイが静かに見守る。
「その点、聖女のいる国は平和そのもの。王太子と第三王子が王位を巡って争うこともない。あれだけのカードがあっても誰もかつがんとは、お国柄とはいえ立派な事だな」
ため息にアンダーソニーが頭を下げる。
「ーーだからこそ、トードォはいい。あいつは飢えている。勝利に飢える事は悪い事じゃない。平和ぼけしたロードリンゲンの兵士達の、良い起爆剤だろうよ」
ふふっ、とアスラーンが笑う。
「ーーそうだな」
アレクセイも頷いた。
デスビーストハードに遭遇し、怯えも見せない東堂が千里眼鏡に映っている。
「東堂ーー、葛城ーー」
琉生斗は眉をしかめてふたりをじっと見ていた。
「そりゃ嫌われるよ」
「しょんぼり」
しょんぼり、って口にだすんだ。
琉生斗は変な生き物を見る目でアスラーンを見る。
「アレク、どうなんだ?」
「死ぬだろう」
「マジかよ。トルさんは?止めるように言ってよ」
「私は口を挟まないルールだ」
「ソニーさん」
「各自の判断にまかせています。判断する、それもまた、演習です」
「あー。おれ、聖女の治癒、初歩しか使えないぞ」
「スズ様の初歩なら、傷の入った臓器も治せたがーー」
「無理だよ~」
どこと比べるのよ。
「トードォはともかく、葛城はどうしたんだ?」
「冷静さを欠いているな」
何かを焦るような美花に、琉生斗は違和感しかない。
「ファウラはどこにいるんだよ」
「離れた場所です」
「ソニーさん、葛城だけでも!」
「私達は全滅しないとでません。ーーそれに……」
「え?」
アンダーソニーの視線を追って、琉生斗は辺りを見回した。
いつの間にかアジャハンの魔法騎士達が、テントのまわりを取り囲んでいる。
「ーーうそぉ」
「ここから出すつもりがなさそうですね。ヤヘルとルッタマイヤは一服盛られて動けませんし……」
アレクセイが頭を押さえた。
「アスラーン……」
さすがにやり過ぎだ。
「はははっ、私は最初に言ったではないか。本気にしなかったそちらの落ち度だ。格下だからと侮ったのか?驕ったのはどちらだ?」
「そうだな」
言っている事は間違いではないーー。アレクセイがため息をついた。
「おまえが助けに行きたければ行くがよい。その時点で失格にしてやろう」
「うわ~、悪役じゃねえか」
「ふふ、こんな優しい悪役がいるだろうか」
アスラーンが楽しそうに笑った。
「ーー若い騎士など本当の戦場を知らん奴ばかりだ……」
ポツリと言ったアスラーンに、琉生斗は眉をあげた。
「アスラーンさんは知ってるの?」
アレクセイと同年なら充分若いがーー。
「さて、地獄ならそこの神殺しの方がよく知っているだろうがなーー」
「よけいな事を言うな」
アスラーンの言葉をアレクセイが遮った。
「ーー獣人の国が無くなった話は聞いているか?国が違う、種が違う、それだけの事でひとはどこまでも非情になる」
琉生斗は視線を横にした。
向こうの世界でも人間同士の争いはなくならない。ときとして、目を背けたくなるような事件も起こる。
「あのときの幼子達の御遺体は忘れられん。ラルジュナなど、泣き喚いて役に立たなかった」
重い内容の話を、軽い口調で語る。まるで、よくある日常のできごとのように。
「負ける、という事はそういう事だ。私は何があっても、負けはせんよ。たとえ、遊びであってもな」
後ろに控えているフストンが大きく頷いた。
「アレクセイ、おまえもラルジュナの成績は覚えているな?私やおまえより遥かにできがよかった」
「ーーああ」
「それでも廃された。あれだけ国に尽くし貢献してきた王太子が、王妃やまわりの私利私欲に負けたのだ。あいつの功績を引き継ぐ奴など、いまあの国にいると思うか?本当に、残念でならんよ」
「アスラーン……」
友が語る姿をアレクセイが静かに見守る。
「その点、聖女のいる国は平和そのもの。王太子と第三王子が王位を巡って争うこともない。あれだけのカードがあっても誰もかつがんとは、お国柄とはいえ立派な事だな」
ため息にアンダーソニーが頭を下げる。
「ーーだからこそ、トードォはいい。あいつは飢えている。勝利に飢える事は悪い事じゃない。平和ぼけしたロードリンゲンの兵士達の、良い起爆剤だろうよ」
ふふっ、とアスラーンが笑う。
「ーーそうだな」
アレクセイも頷いた。
デスビーストハードに遭遇し、怯えも見せない東堂が千里眼鏡に映っている。
「東堂ーー、葛城ーー」
琉生斗は眉をしかめてふたりをじっと見ていた。
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