ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編

第97話 兵馬とジュドーと

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 ーー兵馬は小屋でじっとしていた。ジュドーのいない間は掃除道具入れがあったので、そこに隠れてやり過ごす。
 掃除道具入れがノックされた。

 彼の巡回時間になったのだろう。そっとドアを開ける。


「え?」
 兵馬は、目を見張った。





「久しぶりね」

「あ、うんーー、」
 
 勝ち気な目をした美人。
 大学のクラスメイトのニコルナが目の前にいた。



 ジュドーがしくじったのか。はじめからだますつもりだったのかーー。




 ニコルナが深く息をはいた。

「ーーあのときは悪かったわね。冷静さを欠いてた」
「え?」
「やり過ぎた、って言ってるの」
「あー、はい」
「いまは罰として、ここで働いているの」
 ニコルナが、わりに合わない、と呟いた。兵馬はその言い方がおかしくて笑ってしまう。




「すみません!ヒョウマ殿、彼女がどうしても会いたいと!」
 ジュドーが慌てて入ってくる。手にはマントを持っている。

「魔力反応に気づいた他の兵士が森を捜索していましたが、もう大丈夫だと思います」
「ーージュドーさんは大丈夫なの?」
「平気ですよ。うちの兵士はそこまで真面目なやつはいませんから」

 軽く言われ、思わず笑ってしまった。

「国境石で警備を交代しますから、ヒョウマ殿は何も言わないように」
「そこにアジャハンのへいしはいないの?」
「交代制なんです。今月はうち、来月はアジャハン、みたいな」

「わかった。ありがとう」
「いえいえ」















 闇の森を三人で歩いていく。
 灯りも持たずに、ジュドーが短剣を前にだしている。何かあったときにすぐに対処ができるからだろう。

「みかたをさしたりはしないの?」
「兵士は決められた場所、時間以外はこんなところにはいません。野盗か魔物ぐらいです」

 おっかなー。

 兵馬はドキドキしながら二人の後を歩く。眼鏡をかけているとすぐに正体がばれるので(自分の正体は眼鏡なのか)、はずしているのだがそこまでぼんやりはしない。また、視力が良くなったような気がする。


 ーースマホを見なくなったからかな。


「ねえ」
「なに?」
 ニコルナに話しかけられ、反射的に返事をした。


「ラルジュナ様と駆け落ちしたんでしょ?ただのガリ勉じゃなかったのね」
「かけおち?」
「やるじゃない!ドラマティックだわ!」
「ニコルナ、うるさい」

 強気な美人は舌をだした。

「おかねめあてって、きいてないの?」
「え?あなた、お金持ってるでしょ?」
 兵馬は眉を寄せた。

「バッカイアではいわれてないんだ」
「愛のために国を捨てた、って演劇にもなってたわよ。あなた、すっごい美少年になってたけど」

「ーーそれは、ジュナもそっちのほうがいいだろうね」

 ジュドーが苦笑した。

「はいたいしになったこと、わだいにならなかったの?」
「わりと今さらよ。ラルジュナ様を国王にと望んでたのは民衆だけ。貴族は自分の言う事を聞く王を立てたいでしょう?アルジュナ様も王妃様の言いなりなところがあるし」
「はあ……」

 国も色々だ。

 そう思うとアダマスは強いのだろうなーー、いや、結構へましてるか。 

「ぼく、わるくいわれてるよね?」
「傾国の眼鏡、って言われてるわよ」
 兵馬は吹きだした。
「ほんと、バッカイアのたみはおもしろいよね。みんなジュナみたいーー」
 



「ーー元気にしてますか?」
 前を歩く彼の顔は見れなかった。

「ーーうん。たまにかえりたそうだよ」
「そうですかーー」
「いつかはかえるとおもうよ」

「そのときは、ヒョウマ殿もバッカイアの国民になりますよね?」
「ルートが60さいならいいって」
 ジュドーが口を手で押さえ、爆笑をこらえた。


「ーーもっと早く帰ってきて欲しいな」


 兵馬は視線を落とした。


「そろそろ交代の兵士が見えますので、静かにーー」


 闇の中だ。
 だが、先にほんのり光る棒のようなものが見える。あれが国境石だろうか。

「こちら、ジュドー!警備見習いを連れています!」
「了解!交代します!」
 若い兵士が二人、光る棒の横に立っていた。

「ん?なぜ三人なのですか?」
「女性だからだ」
「ああ、そうですか。念の為、フードをはずしてください」
「ーーはずさなくてもいいだろう」
「規則ですから」
「おまえ、頭が堅いな」

 もうひとりの兵士がばかにしたような言い方をする。


 ニコルナと兵馬はフードをはずした。




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