ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
311 / 410
魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編

第92話 兵馬は言葉をなくす

しおりを挟む
「お疲れさま。ジュナ、何か飲みたい?」
 水とタオルを渡すとラルジュナが笑う。
「にっがいアイスコーヒーがいいなー」
「作ってくる」
「ありがとうー」
 ラルジュナが兵馬の頬にキスをした。

「ちょっと待て。おれの前でいちゃつくな」
 殺人鬼のような顔を琉生斗はしている。

「君に言われてもね。ーー殿下は?」

「ーー砂糖を多めにいれてくれ」
「了解」

 兵馬がテントの奥に行くと、琉生斗はまじまじとラルジュナを見た。
「何ー?」

 あっつ~、とラルジュナが叫ぶ。

「すごい強いんだね」
「でしょー?」
「アレクが追い込まれてるのはじめて見たよ」

 琉生斗の言葉にアレクセイが嫌そうな表情を浮かべた。

「ふふーんー。ボクは優しいから、アレクセイの嫌がる事はしないよー」
 魔法を封じるのは嫌なことにならないらしい。

「嫌がること?」
「アスラーンなんかひどいよー。闘技場内にマグマを発生させるからー」

「えっ?悪魔なの?」
 琉生斗は目を丸くした。

 元王妃ルチアによって、火山口に投げられた事がアレクセイにはあった。そこで負った火傷の跡は、魔法でも消すことはできずに腹に残っている。

 マグマなど一生見たくはないだろうー。

「卑怯でしょー。あいつ負けるの大嫌いなんだよー」

「悪口を言うな」
「事実だよー」
「相手の弱点をつく戦法だ」
「親友のトラウマをつくなんて、ひとのすることじゃないねー」
 ラルジュナがとてもまともな発言をする。

「ラルさんが、一番まともなんだな」
「そうだな。見た目だと反対に見えるが」
「見た目だけまともでもねー」
 軽くアレクセイを小突き、ラルジュナがアスラーンを見た。

「はははっ、誰の事だ?」

 ーーあんただよ。

 しらけた視線が大大国の王太子に向けられた。


「皆様、演習中ですよ」
 離れて見ていたアンダーソニーが声をかけた。アンダーソニー、ヤヘル、ルッタマイヤは演習に参加せず、魔法騎士が全滅したときに動くようになっている。

 もっとも、ヤヘルはアジャハンの魔法騎士団の将軍達と酒盛りの最中で、いざとなっても役に立つかわからない。


「あっ!そうだった!」
 琉生斗は慌てて千里眼鏡を見る。
「東堂、まだ大丈夫だろうな!」
 スタートして、すぐにリタイアは格好が悪すぎだ。

「トードゥは精神力が強い。聖剣もある、最後まで持つだろう」
 アレクセイの言葉にアスラーンが頷いた。
「さすがは私のトードォだ」

 いつおまえのものになったーー。


 琉生斗達の目を気にせずに、アスラーンが千里眼鏡に映る東堂に歓喜する。

「おお!デスビーストと遭遇したぞ!」

「ファンみたいだねー」
「いや、恋人候補だ」
 真剣な表情にラルジュナも笑いをおさめた。

「本気なんだ……」
「おかしいか?」
「想像ができないーー」

 琉生斗も首を捻るしかない。

 あいつが男と恋愛かーー。



 ーー可哀想だけど。うん、無理だな。
















「すみません。コーヒーもらいます」
 テントの奥に作られた休息所で、待機するメイドに兵馬は声をかけた。

「はい……。どうぞ」


 くすっ……。

 あきらかに兵馬の顔を見て笑った。良い笑い方ではない、侮蔑を含んだ笑い方だ。

 気にせずに厨房を借りて、コーヒーを淹れる準備をする。

「あなた、行きなさいよ」
「えー、あなたが聞いてよ」

 背後でメイドがこそこそと話をしていた。

 みんなで行きましょうよー、と誰かの声が聞こえる。


「あのー、ヒョウマさんー」
「はい?」
 振り向くと容姿の優れたメイドが並んで、にこにこしていた。

「失礼ですけど、聞いていいですか?」
「ヒョウマさんて、ラルジュナ様と付き合ってるんですよね?」

「え?」

 突然の話に兵馬は目を瞠る。

「指輪、素敵ですよね」
 メイドの笑う顔に圧を感じた。

「あ、そうですね……」
 目線をさげながら兵馬は答える。
 

「でも、ヒョウマさんて、ラルジュナ様のお金目当てなんですよね?」

 はい?

「わたし達、愛人希望なんですー、いいですか?」
「な、何を?」
「告白しますので」
「許してもらえますよね?」
「お金や、地位を利用したいだけですよね?」

 皆、美しい女性達だった。派手すぎず控えめにした化粧も映え、女性らしさの色香が漂う。

 自分なんかより、彼の隣りがよほど似合っている。

「……」

 兵馬は何も返すことができなかった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

処理中です...