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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編
第91話 アレクセイvsラルジュナ
しおりを挟む「ーーはじめ!」
激突に火花が散った。
竜巻のような風圧が、アスラーンの張った結界にあたる。
瞬時に闘技場の中央に飛び剣を交えた二人だが、ラルジュナがすぐに後ろに下がった。
「!」
東堂は目を見張った。
無数の光の槍がアレクセイに突き刺さる。短剣ですべてを叩く間に、ラルジュナが突進していき激しく撃ち合う。間合いを詰めすぎるとアレクセイの蹴りが飛び、蹴りを避けたラルジュナが後ろに下がる。
だが、間髪入れずに光の矢と雷の矢がアレクセイめがけて飛んでいく。
「な、何この魔法陣……」
美花が呆然と空を見た。
おびただしい数の魔法陣が、顕現している。それらが間をあけずにアレクセイを攻撃していくのだ。
「ーーすごいだろ。あいつは無詠唱で魔法が使えるのだ」
「えっーーー!!!?」
美花や、他の魔法騎士達も愕然とした顔になった。
「アレク、なんで結界張らないんだ?」
琉生斗は尋ねた。
アレクセイが魔法の槍を短剣でさばき、ラルジュナと長剣で撃ち合う。こちらから見ていても、苦しげな表情がはっきりとわかる。
殿下のあのようなお顔ははじめてみるーー、と後ろからつぶやきが聞こえた。
「ーールートは見えないのか?これだけ魔法封じの魔法陣をだされれば、アレクセイもお手上げだ」
「解除はしてるけど……」
兵馬の言葉に、アスラーンが目を細めた。
「そうだ。アレクセイも解除はしているが、その間にも剣と魔法の攻撃がくるからな。間に合わないのだ」
「……すごい……」
無意識に美花の口が動いた。近くにいるファウラも食い入るように二人の戦いを凝視する。
いや、誰もが一瞬たりとも見逃さないようにしている。
剣がぶつかる音が、疾い。あまりの疾さに耳が痛い。
「ーー決着ってつくの?」
「大技がだせればアレクセイの勝ちだ。が、それを許すラルジュナではない」
「魔法陣がやばい数っすけど、魔力もつんすか?」
汗を拭いながら東堂が聞く。
凄すぎて目が追いつかない。
光の矢がさらに増える。
そして、ラルジュナも驚愕するスピードでアレクセイに突っ込んだ。
「!」
斬り結び、互いが目を外さずに隙を探す。ラルジュナは常に半身を意識し、アレクセイと正対しないように注意しているのがわかる。
アレクセイが頭上からも飛んでくる光矢の雨を払い、そのまま勢いを殺さず、下方から抉るように剣をだしたラルジュナを力で叩く。
「すっげ!ラルジュナさん、腕、柔らけーっすね!」
どんな方向にも対処できる柔軟さが、ラルジュナの剣にはある。
「そうだな。あいつの腕は堅いんだが柔らかいんだ。ただ鍛えたのではああはならんな」
アスラーンが頷いた。
力負けに後ずさったラルジュナに、アレクセイが攻め込む。
アレクセイがラルジュナを捕らえた。
長剣を斜め上から下に振り斬る。
「あっ!」
兵馬が震えた。
ラルジュナが斬られたのだーー。
「斬るんだーー」
琉生斗は口を引きつらせた、だがーー。
アレクセイが頭上に剣を構えた。
空から回転しながらラルジュナが降りてくる。
カンッーー!
ひときわ高い金属音が鳴り響いた。
斬られた方のラルジュナがゆらりと消える。
「分身……」
「そう、面白いだろう?器用な男だからな。光の矢に紛れて上に飛んでいたのだ。アレクセイもよく反応した」
「れ、レベルが違いすぎるーー」
誰かが言った。
ラルジュナが離れると氷の槍がアレクセイに襲いかかる。その圧倒的な数の多さに、アレクセイの動きにも余裕がなくなっていく。
一本さばく事ができず、氷の槍がアレクセイの足に刺さった。汗を拭う間もなく、後ろに飛んで槍の攻撃をかわす。
琉生斗は目を見張った。
「ーーはじめて見た」
「だろうな。アレクセイと対等に戦える奴など、あいつぐらいのものだろう」
ラルジュナが剣を振りあげた。振り抜こうとしてアレクセイの長剣にとめられる。
そして、
ガキッンー!
耳鳴りのような剣が折れる音がした。
ラルジュナのもつ長剣が折れ、アレクセイの剣が彼を突いた。
腹に刺さった剣に、誰かが悲鳴をあげる。
闘技場に血が飛んだーー。
アレクセイは剣を引かなかった。
いや、引けなかった。
「ーー遅いよ……」
ラルジュナが笑う。
頭上から凄まじい光が降ってきた。
ラルジュナが銀色に輝く巨大な二叉の槍を構え高速で突っ込んでくる。
アレクセイは短剣でとめた。長剣がラルジュナの身体から抜けないからだ。
身体が沈んでいく。アレクセイの顔がゆがんだ。
その魔法の威力に闘技場の床が消し飛ぶ。
二人はしばらくの間せめぎ合っていたが、アレクセイが押し返して短剣を動かした。
長剣を刺していた分身が消え、アレクセイは槍を長剣で受け、短剣を投げつける。
短剣に首を狙われ、ラルジュナが飛び下がった。
体勢を整え、お互いが相手の顔を見て笑いーー。
「ーーそこまで」
アスラーンが終わりを告げる。
「え~~~!もうちょっとでボクの勝ちじゃないー!」
ラルジュナが、ぶー、と抗議した。
「凶霊の槍までだしてとどめをさせなかったんだ、無理だろう」
「まだ、大十字があるもんー」
「模擬戦と言っただろう。真剣にやり過ぎだ」
「まだまだ、試したい手があったのにー」
「久々に疲れた」
アレクセイが汗を拭った。足を治癒する。
「ホント!平気でボクのこと刺すよねー!」
「どうせ分身だろうと思ったからな」
「ふふふっ、二段がまえとは気づかなかったでしょー?」
「凶霊の槍を警戒はしていた」
「四方から挟んだほうがよかったかー!」
ラルジュナが腕をだす。アレクセイは自身の腕で友の腕を軽く叩いた。
「ーーラルジュナ様!少しお話をいいですか!」
トルイストやファウラがラルジュナに詰め寄っていく。
「えー、疲れてるんだけどなー」
「話してやれ」
「アレクセイは説明が下手だからねー」
すぐにひとにまかせるんだからー、とラルジュナが肩をすくめた。
「ーーかっけ~!凄すぎて、腹いっぱいっすね!けど、何が参考になるんすか?」
アスラーンの横で東堂は叫んだ。目がきらきらに輝いている。
「ん~、わからんかったか。ヒョウマの姉はわかったか?」
美花の目がパチクリと動いた。
「ーーあの、たぶんなんですけど、ラルジュナさんの魔力があまり減ってないですーー」
信じられないものを見る目でラルジュナを見ている。
「はん?めっちゃ使ってたじゃねえか」
「うん。だけど、だんだん魔力が減らなくなっていったわ」
「?」
「その通り。そこがラルジュナの魔法の特徴だ。まあ、できるのはあいつぐらいだろうな。無詠唱に加え、古代魔法、重複を使っている」
「古代魔法ーー」
場がざわざわと騒がしい。
「神話の魔法だ。魔法を重ねる事によって、重なった魔法陣は、魔力を必要とせずに、魔法が撃てる」
「はあ?」
意味がわからない。
「それならみんな魔法陣を重ねるんじゃ」
「言葉にして唱えている間は無理だ。魔法陣に勘違いを起こさせる魔法だからな」
「?」
「魔法陣を重ねることによって、ひとつの魔法陣だと勘違いさせる。言葉にだすと魔法陣は勘違いしない」
「はあ?よくわからないっすね」
「そうだな」
「無詠唱なんて、どうすりゃいいのか」
「まあ、生涯の目標にすればいい。それより、戦い方は参考になっただろう」
「はい!すっげー面白かったです!普通の魔法を攻撃じゃなくて囮にするのが、めっちゃ考えてますね!」
「そうだな」
アスラーンがにこやかに笑った。
「強大な敵は、いかに魔法を使わせないか。そこが鍵だ。小さな魔法でも連続してだせば、充分通用する武器になる。ヒョウマの姉は聞きたい事はあるか?」
「ーーう~ん。殿下も息をするんだなぁ、と」
眉を寄せながら美花が言う。
「はあ?当たり前の事をいうなよ」
「いや、いい目の付け所だ。あいつが力を入れて剣をおろすときは、吐く息が少し強い」
「え?」
目がまん丸になった東堂を、まるで小動物を見るような眼差しでアスラーンが愛でる。
「ラルジュナや私はそれを感じ次の行動に移るのだ」
「はあー、そんな暇ないっすよ」
「そうねー」
「鍛錬を怠らなければ、いずれはできるだろう。たゆまず進め」
アスラーンの言葉に東堂は頭を下げた。
「はい!ありがとうございます!」
少々遅くはなったが、魔法騎士大演習ははじまった。
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