ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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琉生斗と兵馬編

第73話 ラルジュナの想い

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 ラルジュナの目が大きく開かれた。

 目を見張ると言うよりは、ぽかんと開いたという表現のほうが正しいだろう。

「し、信じられないよねーー」







「ーー両性具有なのー?」

 尋ねられ、兵馬は目を上に向けた。

「あー、そういうひともいるけど、僕は違うよ。僕達、異世界の人間は、こっちの世界では子供は作れないし、産めないんだって」

 ラルジュナが眉をあげた。

「そのため、必要なら女神様が、身体を変えてくださるそうなんだ。いま、花蓮はお願いしてるんだけど。姉さんも、もう少ししたら考える、って言ってたーー。
 それで、僕も男は男、女は女にしか変わらないと思ってたんだけど、男でも子供を産めるように器官が作れるんだって」


「ーーそれは、もしかしてー」
 ラルジュナがすぐに気づいた表情になる。

「うん。ルートもそうなってるみたい。ただ、ルートの場合、聖女召喚のために神竜を産まなきゃならないそうなんだよ」

「なるほど……。必ず必要なんだー」

「神竜がいないと、向こうから聖女が来る道ができないんだって。だから、ルートは子供を産む意味があるでしょ?
 それに、お互い心から納得しないと、身体が変化しないそうだから……」


「ーーーー」

「それなのに、僕も産める、って普通に話すんだーー」
 意味が全然違うのにーー。

 ラルジュナがゆっくりと頷いた。
「そうだねー、アレクセイはルートとは別れないだろうねー」

 自分の髪をすく指に背中がゾワゾワする。頷きながら兵馬は息を吐いた。

「すぐに殿下に飽きられるとか、捨てられる、とか言うし」
「どちらかと言えば反対だねー」

「そうだよ。ほんとにルートは、困ったやつだよね……」
 兵馬は目を伏せた。








「ヒョウマはどうするのー?」

 たしかめるようにラルジュナが尋ねてくる。首を振って兵馬は意思表示をした。

「聞かないでよ。自分でもどう考えたらいいかわからないんだから……。でもーー」

「でもー?」


「先の事はわからないけど、いまはあなた以外とどうこうなろうとは思わない……し、……」

 この問題の最大の障害を口に出してしまった。
 
 彼が望まない、という事だ。


 ラルジュナも答えに困る話だろう。

 勝手に先を望まれてもーー、そう思われたら?

 変なやつ、で終わりだ。
 子供を意識している、と思われるのもつらい。


 兵馬は項垂れて、眉をしかめた。

 これで、関係がだめになるかもしれないーー。








「ーーそっかー。まあ、先は長いんだし、ゆっくり考えようねー」

「うん………。うん?」

 考え、ようねー?

「何を考えるの?」

「うーんー?タイミングかなー?」

「タイミング…………」

「内密なんでしょー?仕事の調整しないと難しいよねー?」


 いやいやいやいやいや。


「何言ってんの、ジュナ。僕達だっていつまで付き合ってるかわからないじゃない!」

「そうだねー、結婚のタイミングだよねー。せめて今まで保有してた資産まではいきたいなー」

 兵馬は疲れた笑みを浮かべた。

「もう、寝るよ。ジュナ、冷静になってね」

「そうー?ボク、頭は冷えてきたよー。ごめんねー、身体を傷つけてー、怖かったー?」
 優しく抱きしめられ、兵馬は自然に身を寄せた。

「痛かったよ」

 痛いなんてものじゃなかったが、怖くはなかった。
 





 ケロッとして自分にくっついている恋人を、ラルジュナはまじまじと見る。あそこまでしたのに拒絶がないーー。

「ーーさっきはアレクセイに嫉妬しちゃったー」
 
「えっ?何で?」


 本当にヒョウマはわかってないんだーー。


「もうー、ヒョウマはおバカさんだなー」

 ラルジュナは頬を撫でる。


「愛してるからに決まってるだろ」


 瞬間、真っ赤になった兵馬が、そのまま気絶しかけた。


 ーーそれは、ずるいでしょ!
 
 小さくつぶやくのが聞こえた。



「ヒョウマー。ちゃんと聞いてねー」
 兵馬の手をラルジュナは優しくとった。

「は、はひ!ひたっ!」
 緊張で噛んでしまった兵馬の舌を、ラルジュナはペロリと舐める。






「ーーボクは、国とヒョウマを天秤にかけてヒョウマを選んだ」
 真剣な目に、兵馬の胸のドキドキが加速していく。
「あっ……。うん……」
「王太子のままいる道もあった。方法は誉められたものじゃないけど、できない事はなかった」

「……」

「ただ、そこにはヒョウマがいない。だから、ボクはその道を捨てた。ヒョウマの為に捨てたんじゃない。ーー選んだんだ。ボクがヒョウマといる事を選んだんだよ」

「ジュナ……」
「誰に何を言われても、それは忘れないで」

 ラルジュナが指を振ると、淡い銀色の指輪があらわれる。そのプラチナの指輪を、兵馬の右手のくすり指にはめて、彼はそこにキスをした。

「え?」
「婚約指輪だよー」

「あ………」



 見張った目から涙がこぼれていく。兵馬は耳まで赤くして、ラルジュナの顔を見た。 

「乱暴した後には、いらないかなー」  
 眉を寄せてラルジュナが尋ねる。


「ーーううん。うれしい。本当にうれしいーー。ジュナ……、ありがとうー」


 兵馬とラルジュナはキスをかわす。繰り返しキスをして、二人はその日眠りについた。
 





 

 







 次の日、兵馬は気合でいつも通りに歩いた。魔法騎士団の部屋を一室借りて、修学旅行の説明をする。

 しおりを参加する子供達の親に渡し、質問に答えた。
 いつの間にか、琉生斗と東堂が部屋の隅にいた。ダニルの母親が気づいて場が騒然となる。


「そのままでいいですよ」
 と、琉生斗がにこやかに言った。









「ーー兵馬。おれ、色々先走って悪かったな」

「いいよ。いつもの事だもん」

 その言葉に琉生斗は口をへの字にした。

「ーーあの話、ジュナには話したよ」



「「えっー!」」

 琉生斗と東堂は目を剥いた。

「は、反応は大丈夫だったのか!」
「思ったより冷静だったよ。医療をかじってるから、両性具有なの?って聞かれたけど」

「何だそれ?」
「両方持っているひとだよ。男なのに、精巣がなくて子宮があったり、その逆もあるひと、みたいな」
「漫画で見たヤツかー。胸があるのに、下もあるやつ」
 東堂が思い出しながら頷く。

「何読んでんだよ」
 琉生斗は溜め息をつきながら目を細めた。

「ーーどうすんだ?」

「いまは考えないよ」 

「そうか」

「必要だったら、自分でお願いするよ」

「できるのか?」
 眉をあげて親友を見る。



「デキルヨーー」

 琉生斗は目を丸くした。

「え?話せるの?」


「イツカ必要ナ時ニ自分デオ願イシマスーー」





 ーーイイヨーー。






 東堂が目を細めて耳をこすった。

 

「え?おまえ、どうしちゃったの?」
 琉生斗は驚きしかない。

「さあ、僕もよくわからないよーー。後、ルート、東堂にも話さないと、フェアじゃないよね?」

「こいつは絶対にないぞ」

「それは違う、でしょ?」
「あー、はいはい。東堂、おまえも子供産めるぞ」

「適当だな」

 聖女様の対応のひどさに東堂がへそを曲げた。















「やっほー、アリョーシャー。追加の栄養ドリンク持ってきたよー。あれー?アスラーンー、また来てるのー?」
 ラルジュナがアレクセイの執務室に入ってきた。

「ああ、今日のトードォを見に来た」
「意外に純愛だねー」
 可哀想ー、とラルジュナに言われ、アスラーンの目がさらに細くなる。


「さあ、可哀想なのは誰だろうな?」

「ーーふふっ、トードォ君か、それともルートかなー。ちょっとは控えてあげたらー?」

 アレクセイはラルジュナを睨んだ。

「ヒョウマを、どうした?」





 笑顔でアレクセイを見つめ、ラルジュナが答えた。

「何の話かなー?置いとくよー。1日1本は、守ってねー」

「ーーーーああ」

「早く売りに出さないか」

「原価が高すぎてねー、大量生産したいんだけど、原料の入手が大変でー」
「来来人参か。あそこの皇帝はがめついからな」

 アスラーンが難しい顔をした。

「六年かかる人参だものー。魔法も使わずに育てるんだってー」
「ふむ。いまからでもやるか」
霊芝れいしも増やしてみてねー」

 病気の免疫力があがるみたいー。



「やれやれ、やる事が多いな」

「じゃあねー。あっ、アリョーシャー、例の話聞いたよー。ルートも心配してくれたみたいで、ありがとねー」
 
 アレクセイの眉間に皺が寄る。

「ーー個人的には勧める気がないがな」

「うーんー。アリョーシャー、心配するのはわかるけど、ボクとヒョウマの問題だしねー」

「可哀想に、変態の餌食になったか」
「ひどぉ~いー」
「まあ、アリョーシャ。案じるのはわかるが、あれもかなりの変態だ。大丈夫だろ」

「…………」

「あんなに弱いのに、おまえの威圧が効いていない。私の圧にも反応がない」

 目を細めたアレクセイに、ラルジュナが笑う。

「ラブラブだから安心してねー♡」

 その言葉に、アレクセイは深い溜め息をついた。

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