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琉生斗と兵馬編

第67話 側室ルート

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「ヒョウマー、お帰りー」

 屋敷には温かく迎えてくれるひとがいた。
「ただいま」
「ルート達はー?」
「帰ったよ」
「そうなんだー、牡蠣エキスを試して欲しかったのにー」
 白衣を着てビーカーを持つ彼に、兵馬は目を細めて笑った。


「お風呂入ってくる」
「片付けたら行くよー」
 自然に顔が赤くなるのを感じる。







 湯船に浸かりながら考えた。

 ーーはあー。ルートに嫌な態度とっちゃったなー。
 
 けど、なんだろ。
 ルートって意外と脳内が花畑なんだよねーー。


 子供を産めるようになるーー、いきなりなんつう問題をぶち込んでくるんだよ。
 


 こちらの世界で子供を作る身体に変えるというのは、男側、女側、どちらでもいける、と言う事だったのかーー。

 兵馬は混乱している。


 ラルジュナに自分との子供が欲しいか、なんてどうやって聞くのだ?

 気持ち悪いやつ、と思われるだけだろう。


 兵馬は自分の貧弱な身体を見た。

 なぜ筋肉はついてくれないのか。
 毎日の腹筋は意味がないのか(毎晩二十回程度)。

 こんなんだから、ビジュアルで詐欺師にされるんだ、と卑屈に兵馬は頬にふれた。




 子供ができるんだよ、って言って、「ふうんーすごいねー」、と軽く流されたらどうしたらいいんだよ。

 心から思わないと、って、お互い本心なんか見えないじゃないかーー。


「あー、負のスパイラルだーー」
 ぶくぶくと湯船に沈むーー。







「ヒョウマー、入るよー♡、うんー?ヒョウマァー!!!」
 ラルジュナが浴室に入ると、兵馬は湯船の中で伸びていたーー。













 

「ーー喜んでくれると思ったんだけどな」
 次の日、琉生斗は町子の前で親友の態度を愚痴っていた。
 町子が心配そうに口を開いた。
「ルート君~、あのね~」
「何?」
 目をそらしながら琉生斗に話す。

「兵馬くん、ピーク王太子に殴られる前に、おまえみたいな詐欺師のせいでラルジュナさんの人生がめちゃくちゃになった、金のためなら何でもやる悪魔、って言われたの」

 町子の言葉に琉生斗は眉をしかめた。

「はあ?」

 顔色が変わる。

「その後、元気がなかったから~。悩んでるのかも~」



「ーー何だよ、それ」
 琉生斗は頭をかいた。

「でも、兵馬君の言う事は正解よ~。ルート君は口を出しちゃだめよ~」

「わかってる。おれの言う事が正しくなるからだろ?」

「そう~。みんな覚悟してるの~。そんなのは、あちらもこちらも同じよね~」

 たしかにーー。

「それに~、美花ちゃんが言ってたけど、自分達はお母さんの不倫で生まれたから、子供を産んでいいのかな、って迷いはあったんだって~」

「え?」

「ファウラ大隊長に相談したら、『ミハナが悪いのではありません。堂々と授けていただきましょう』、って言われたみたい~。ファウラ大隊長って、素敵なひとね~」

「意外だな」
 見た目クールなのに、ロマンチストかーー、あれ?相方もそうかー、トルさんもそうだよなーー。

 ん?

「なんか、この国の男って、ロマンチストが多いな」
「うふふっ、ロマンチストの代名詞が旦那様ですものね~」
「そうなのよー」
 琉生斗と町子は笑い合った。

「兵馬も親父さんの事気にしてんのかな……」
「仲良かったからね~」








 ーーけど、通過点かー、考える事は一緒だなーー。

 おれもよく飽きられたらどうしよう捨てられたらどうしよう、とか思うけど、事実、普通にある話なんだよなーー。


 自分は聖女だったからなんとかなってるだけ、相方が呪いを受けてなかったら、数いる側室のひとりだったかもしれないーー。









 琉生斗は離宮に帰ると、ソファの上でゴロゴロしながら考えた。



『ーー側室ルートは、夫のアレクセイに詰め寄った。


「アレクセイ殿下!今日はわたくしのもとに来てくださいますか?」

 アレクセイが首を振る。

「ーーすまない。今日は正妃ナスターシャのもとに行かなければならない。だが、明日はユピナ、明後日はシフォン、その次はイリア、その次はエイミー、その次はヒッタルナーー、とにかく、ルートのもとに通う日がない」

 少しも悪びれる事なくアレクセイが告げる。

「そんな、あんまりですわ」
 よよよー。

「三ヶ月後なら、一時間、空いている」
「一時間!もう、それでもかまいません」

 けなげだな。涙がでてくるぞ。

「仕方がないーー」

 偉そうにしやがって。何が、仕方がない、だーー』




「あほんだらぁ!おまえなんか、離婚だぁ!」


「な、何故?」
 キスをしようとしていたアレクセイは、琉生斗の叫びに目を見開いた。


「あ、アレク。お帰り」
「ーー離婚はしないな?」
「しないしない」
 琉生斗はアレクセイに抱きついた。

「アレクー」
 甘えるように身を寄せると、アレクセイも安心したように妻の身体をきつく抱いた。

「ーーヒョウマの事ではないのか?」
「あっ、それを考えてたら、最終そうなったんだよ」

 アレクセイの顔に疑問が浮かんだ。


「あの国ってさ、あー、来来国。後宮に皇帝の奥さんが千人いるんだろ?三年に一回しか来ない旦那って、必要なのかね?」

「ーー千人すべてに通うわけではないだろう。身分の高い者、気に入った者ぐらいではないか?」
「ふーん。それを思うと、陛下なんかマシなのかー」

「あの人は我慢が足りない。ただそれだけだ」
 自分の父親があれかと思うと悲しくなるときもあるがーー。

「ーーアレクも呪いがなければそうなってたかもよ」
 突如、沈んだ声で琉生斗が言う。

「そんな事はない」
 アレクセイの否定は早い。

「おまえみたいなイケメン、選びたい放題だろ」

「何の話だ?」
 眉根を寄せながら、アレクセイは息を吐く。

「おれは聖女で、おまえは呪いがあった。運がよかっただけなんだ……」

 妻の話に深く溜め息をついた。

「ルート。だから呪いの事は話さなかった、と前に言ったな。ルートはすぐに私を疑う」

「おまえがカッコいいから仕方ない。おれだって、通過点なんだ。いいさ、おれが一番よかったって、後で思い返してくれよ」
 
 ーー何か世界に入っている。

 アレクセイは相手にしない事にした。琉生斗の服を脱がし風呂にいれる用意をする。


「なあなあ、洗いっこしようぜ」
 琉生斗からの提案に、アレクセイは大きく頷いた。

「ナカも私が洗おう」
「ーーそこは自分でやるから」
「私がする」
「どうせ挿れるんだろ?」
「ああ」



 ああ、じゃない。たまにはそこから離れていちゃいちゃしたいのよーー、と琉生斗は涙目になった。

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