ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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王太子日和編

第65話 クリステイルは兄弟喧嘩をする

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「ヒョウマ殿。本当にありがとうございました」
 ロードリンゲンの城の中で、クリステイルは兵馬に頭を下げた。

「全然。結局あの二人、殿下達に成敗されてたし、マチアさんに至っては何の解決もしてない」

「ーー実は、タイリーと付き合う事になったそうです」

「え?そうなんだー。よかったね」
「はい!」




「ーーヒョウマ、甘いな」
「殿下」
 美しい瞳を細め、長兄が姿を見せた。

「こいつの知人にひどい目に合わされたのに、それでいいのか?」
「兄上ーー」
 クリステイルが眉をくもらせた。

「この情けない父親似が死んだところで、カレンは痛くも痒くもないだろうな」

 ひどいーー、近衛兵達は涙を溜めて主を見守った。

「そ、そんなの、聖女様だって、兄上が亡くなっても元気にやりますよ!」
 
 おっ、王太子がやり返した!ーー、近衛兵達が心の中で応援する。

「その言葉は取り消せ。ルートは私と生き、私のために生き抜くと言った。おまえにはわからん世界だろうがな」





 もう、究極のロマンチストだーー。

 近衛兵達は頬を赤らめる。

「ーーあの聖女様が、そんな可愛らしい事言いますかね?兄上、完全に騙されてますよ!」

 クリステイルが元気よく兄に向かっていく。

「ーーああ。おまえは浮気を許されていたな。裏を返せば、たいして愛されてもいないという事か」

 余裕のアレクセイが薄く笑いながら弟を嘲笑う。

「兄上みたいな色ボケに言われたくありませんよ!」

 今日の王太子はひと味違う!

 近衛兵達の心の応援にも熱が入る。


「弱虫が。うずくまって泣いていろ」

 何を言われても応えない兄が、弟を見下す。




 このままどうなるのか、とまわりが固唾をのんで見守る中、二人の父親が飛んできた。
 
「いい加減にしなさい!いい歳して二人共なんだ!」

 まったく何を考えている!

 怒るアダマスを細めた目で息子達は見た。




「ーーやかましい。こんなときだけ父親面するな」

「本当に、うるさいんですよ!」


 ええぇー?


「父上なんかどうせ私が駄目でも、セージがいると思っているんでしょ?私も母がいませんから、ラルジュナ様のように廃していただいても、構いませんよ!」

「いや、おまえ、それは言いすぎだろ?」


「そうだな。何かと言えば、セージがいる、セージがいる。どうぞセージと末永くお幸せにどうぞ」

「あ、アレクセイ?」

「失礼する。ーーヒョウマ、ルートが呼んでいる」
「はぁい。御前失礼致します」

「ーーはい。本当にありがとうございました」
 クリステイルはもう一度、兵馬に深々と頭を下げた。

 そして、父を見ずにその場から去っていく。





「ーー何であそこまで言われるんだ?」

 アダマスがパボンを振り返った。

「私の長女もあんな感じですよ。最近じゃ目も合わせてくれません」

 近衛兵団を束ねる兵士長は、艶のある髭を触りながら溜め息をついた。

「でも、それが普通なんですよ。父親なんかそんなものです。母親にさえ普通にしてくれれば、何と言われようとかまいません。ーー殿下達も反抗期がようやくきたのでしょう。陛下はお二方に、きちんと付き合ってあげてください。お母上がいらっしゃらないのですからーー」

 臣下の愛のある言葉に、アダマスは目を見開いた。

「ーーそうか……」








「カレン!」
「あら、クリスくん」
「この前は疲れたでしょう?身体は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。わたし、体力には自信があるの!」

 細い腕に力こぶしを作る。もちろん、できていないのだがーー。


 クリステイルはもちろん、近衛兵達ですら可愛さにやられて頬をかく。


「今度、私の友達がデートをするのに、誘ってくれたんです」
「デートにお邪魔するの?あら、もしかしてダブルデートね」
「そうです!」
「ふふっ。楽しみね。どこに行くのかしら?」

 天使のような笑顔にクリステイルは崩れ落ちた。

 王太子の脳内は、今日も平和だ。

 悲しい事があったが、兄君のおかげでしょげずにすんでいる。


 よかったーー、と記録帳をつけながら、ルッコラは胸を撫で下ろした。




 
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