275 / 284
王太子日和編
第63話 クリステイルは泣く
しおりを挟む
「その後、おまえらいなかったよな?どこにいってたんだ?」
タイリーは続けた。
「はあ?いつだよ。オレはクリステイルの隣りにずっ座ってたぞ」
ピークが眉間にしわを寄せた。
「トイレには行った。オレはタイリーの隣りに座っていたが、おまえもいなくなっただろう。トイレでは会わなかったはずだ」
ロイドが目を上に向けた。
「ああ。つまみを頼むのを忘れて厨房へ行ったんだ」
タイリーが答えた。
「クリステイル、おまえ覚えてるよな?」
ピークが必死な顔でクリステイルに尋ねた。
「え?」
「こいつは頼りにならないだろう」
ロイドが馬鹿にしたような言い方をした。
あらら~、町子が溜め息をつく。
「最後ぐらいに、女がお酒を持ってきたのは見たぜ」
ピークが思い出したように答えた。
「ーー部屋でか?」
「ああ。おれは同窓会中、部屋から一歩もでていない」
「それは、無理じゃないか?」
ロイドが眉をしかめた。
「いや、オレならできるーー、」
「オレは、窓からしょんべん飛ばして遊んでたからな!」
ピークが堂々と述べた。
「はあ!?」
「おまえらはしなかったが、他の奴らもやってたぜ」
町子が侮蔑の視線を送り、東堂は、よくある事、と頷いた。
「あー、それで次の日庭が臭かったんですね」
マーロウの言葉に町子が顔をゆがめた。
「ロイド、それを見たか?」
タイリーが尋ねるとロイドは頷く。
「見た」
「ピーク以外の、他の奴らは誰だ?」
「…………」
ロイドは顔を伏せた。クリステイルは緊張した面持ちで友の様子を見ている。
「それは書いてないのかーー。トイレの事も書いてないな?なぜ、書いたり書いてなかったりなんだ?」
タイリーが不思議そうな声をだす。
「はっ、何が言いたいんだ?」
優しい顔立ちをゆがめてロイドが問う。
「おまえ、給仕の娘さんにちょっかいを出したな?」
「何の話だ?」
タイリーの追及にロイドは手で口を隠した。
「二階の渡り廊下で待ってたんだろ?」
「タイリー、おまえ何を言ってるんだ?」
「謝罪しろ」
「いい加減にしてくれ!オレが何をした!?」
言いがかりはやめろと言わんばかりに、ロイドが手を振る。
「給仕の娘さんの胸に触っただろう?」
「誰が給仕の娘の胸なんか触るか!!触ったのは尻だ!!」
クリステイルが、あっ、と声をあげた。タイリーも頭を押さえる。
ピークはその二人を交互に見て首を傾げた。
「ロイドーー」
タイリーが、がっくりと肩を落とした。
「だから何だ?胸のほうがよかったのか?あのときは酔ってたんだ!」
開き直ったロイドのふてぶてしさに、町子は舌をだした。
「ーー酔ってたからって……」
クリステイルが項垂れる。
「今度から気を付けよう。迷惑料が欲しいのなら、後で届ける」
ロイドは何事もなかったように立ちあがった。
「ロイド!」
タイリーが叫んだ。
「はあー、そういう事か。くだらない事に巻き込むなよ」
ピークも髪の毛をなおしながら立ちあがる。
「たかが、そんな事で呼びだされるとはなーー」
伸びをしながら彼が言う。
「ーーマーロウさん。どうします?」
問いに、マーロウは下を向いた。
「謝罪は聞けそうにありませんね……」
「申し訳ありませんーー。生卵はどうしますか?」
「いいえーー、ヒョウマさん。力になっていただきありがとうございます!」
お礼を言われるような事はしていないーー。
王族の彼らからしたら、こんな問題たいした意味もないのだろう。
「ーーヒョウマ?」
ピークが目を開いて振り向いた。
「ーーおまえがヒョウマか!」
「え?」
気づけば兵馬の前にピークが立っていた。
ガッ!
「兵馬ぁ!」
「兵馬くん!」
東堂と町子の声を聞きながら、兵馬は宙に飛んだ。
床に転がる。
頬が痛いーー。
ピークが兵馬を殴り飛ばした。
「おい!何すんだぁ!」
東堂がピークにつかみかかろうとする。
「うるせー!そいつがラルジュナ様をたぶらかした大悪党なんだろ!」
町子に頬を冷やされながら、兵馬は目を見開いた。
「おまえみたいな詐欺師のせいで、あの方の人生がめちゃくちゃじゃねえかぁ!」
「ピーク!ヒョウマさんはそんなひとじゃない!」
「タイリー!おまえもだまされてんだよ!金のためなら何でもやる、ひでえ悪魔なんだろ!」
町子も東堂も顔色が変わり、攻撃にでるため体勢を整えた。二人を、クリステイルが制する。
「ーーピーク。それ以上、ヒョウマ殿に暴言を吐く事は私が許しませんーー」
ピークの前に立ち、しっかりと睨みつけた。
「何だ?たまたま聖女の国の王太子だった奴が偉そうに!」
「たまたまでも王太子には違いありません!」
「はっ、兄君が平民出だから王位につく分際で!母親が公爵家の出でよかったな!」
ロイドまでもがクリステイルを下げる発言をする。
「ーーええ。兄やラルジュナ様は本当に立派な方ですよ。私達とは格も信念も違う」
「そうだ!あいつのせいで!!!」
「そんな方が、自分の判断を間違えますかね?」
クリステイルは真っ直ぐな目で友を見た。
「あの方の選んだ道が間違いだと、平々凡々な私達に、なぜわかるんですか?」
「うるせー!」
ピークは椅子を蹴り、部屋から出て行く。ロイドも睨みながらその後に続いた。
「最低~。あんなのが王様になるんだ~」
町子の言葉に東堂も頷いた。
「胸くそわりい奴らだな」
「ヒョウマさん!大丈夫ですか!」
「ーー何とか……」
「あのー、妹がお礼を言いたいとー」
マーロウの後ろから、マチアが頭を下げた。
「いやいや、何もできませんでした。本当に申し訳ありません」
「ーーありがとうございます。些細な事で大騒ぎしてすみません……」
「些細な事ではないです。あなたが苦にすることはありません。暗い所は大丈夫ですか?」
マチアはポロポロと泣き出した。
「ーー怖いです。夜道が歩けません……」
泣く妹の震える肩を見て、マーロウは言葉をなくした。
「ーークリステイル、おまえ、泣いているのかーー」
タイリーが自分も涙ぐみながら問う。
「ーーいい友だと、思ってましたーー」
「そうかーー。オレもだよーー」
「ーー二人は、あの頃のままじゃ、ないんですねーー」
きらきらと輝いている学生時代の記憶。それはたしかに自分の中にあるのにーー。
クリステイルの肩をタイリーは軽く叩いた。
タイリーは続けた。
「はあ?いつだよ。オレはクリステイルの隣りにずっ座ってたぞ」
ピークが眉間にしわを寄せた。
「トイレには行った。オレはタイリーの隣りに座っていたが、おまえもいなくなっただろう。トイレでは会わなかったはずだ」
ロイドが目を上に向けた。
「ああ。つまみを頼むのを忘れて厨房へ行ったんだ」
タイリーが答えた。
「クリステイル、おまえ覚えてるよな?」
ピークが必死な顔でクリステイルに尋ねた。
「え?」
「こいつは頼りにならないだろう」
ロイドが馬鹿にしたような言い方をした。
あらら~、町子が溜め息をつく。
「最後ぐらいに、女がお酒を持ってきたのは見たぜ」
ピークが思い出したように答えた。
「ーー部屋でか?」
「ああ。おれは同窓会中、部屋から一歩もでていない」
「それは、無理じゃないか?」
ロイドが眉をしかめた。
「いや、オレならできるーー、」
「オレは、窓からしょんべん飛ばして遊んでたからな!」
ピークが堂々と述べた。
「はあ!?」
「おまえらはしなかったが、他の奴らもやってたぜ」
町子が侮蔑の視線を送り、東堂は、よくある事、と頷いた。
「あー、それで次の日庭が臭かったんですね」
マーロウの言葉に町子が顔をゆがめた。
「ロイド、それを見たか?」
タイリーが尋ねるとロイドは頷く。
「見た」
「ピーク以外の、他の奴らは誰だ?」
「…………」
ロイドは顔を伏せた。クリステイルは緊張した面持ちで友の様子を見ている。
「それは書いてないのかーー。トイレの事も書いてないな?なぜ、書いたり書いてなかったりなんだ?」
タイリーが不思議そうな声をだす。
「はっ、何が言いたいんだ?」
優しい顔立ちをゆがめてロイドが問う。
「おまえ、給仕の娘さんにちょっかいを出したな?」
「何の話だ?」
タイリーの追及にロイドは手で口を隠した。
「二階の渡り廊下で待ってたんだろ?」
「タイリー、おまえ何を言ってるんだ?」
「謝罪しろ」
「いい加減にしてくれ!オレが何をした!?」
言いがかりはやめろと言わんばかりに、ロイドが手を振る。
「給仕の娘さんの胸に触っただろう?」
「誰が給仕の娘の胸なんか触るか!!触ったのは尻だ!!」
クリステイルが、あっ、と声をあげた。タイリーも頭を押さえる。
ピークはその二人を交互に見て首を傾げた。
「ロイドーー」
タイリーが、がっくりと肩を落とした。
「だから何だ?胸のほうがよかったのか?あのときは酔ってたんだ!」
開き直ったロイドのふてぶてしさに、町子は舌をだした。
「ーー酔ってたからって……」
クリステイルが項垂れる。
「今度から気を付けよう。迷惑料が欲しいのなら、後で届ける」
ロイドは何事もなかったように立ちあがった。
「ロイド!」
タイリーが叫んだ。
「はあー、そういう事か。くだらない事に巻き込むなよ」
ピークも髪の毛をなおしながら立ちあがる。
「たかが、そんな事で呼びだされるとはなーー」
伸びをしながら彼が言う。
「ーーマーロウさん。どうします?」
問いに、マーロウは下を向いた。
「謝罪は聞けそうにありませんね……」
「申し訳ありませんーー。生卵はどうしますか?」
「いいえーー、ヒョウマさん。力になっていただきありがとうございます!」
お礼を言われるような事はしていないーー。
王族の彼らからしたら、こんな問題たいした意味もないのだろう。
「ーーヒョウマ?」
ピークが目を開いて振り向いた。
「ーーおまえがヒョウマか!」
「え?」
気づけば兵馬の前にピークが立っていた。
ガッ!
「兵馬ぁ!」
「兵馬くん!」
東堂と町子の声を聞きながら、兵馬は宙に飛んだ。
床に転がる。
頬が痛いーー。
ピークが兵馬を殴り飛ばした。
「おい!何すんだぁ!」
東堂がピークにつかみかかろうとする。
「うるせー!そいつがラルジュナ様をたぶらかした大悪党なんだろ!」
町子に頬を冷やされながら、兵馬は目を見開いた。
「おまえみたいな詐欺師のせいで、あの方の人生がめちゃくちゃじゃねえかぁ!」
「ピーク!ヒョウマさんはそんなひとじゃない!」
「タイリー!おまえもだまされてんだよ!金のためなら何でもやる、ひでえ悪魔なんだろ!」
町子も東堂も顔色が変わり、攻撃にでるため体勢を整えた。二人を、クリステイルが制する。
「ーーピーク。それ以上、ヒョウマ殿に暴言を吐く事は私が許しませんーー」
ピークの前に立ち、しっかりと睨みつけた。
「何だ?たまたま聖女の国の王太子だった奴が偉そうに!」
「たまたまでも王太子には違いありません!」
「はっ、兄君が平民出だから王位につく分際で!母親が公爵家の出でよかったな!」
ロイドまでもがクリステイルを下げる発言をする。
「ーーええ。兄やラルジュナ様は本当に立派な方ですよ。私達とは格も信念も違う」
「そうだ!あいつのせいで!!!」
「そんな方が、自分の判断を間違えますかね?」
クリステイルは真っ直ぐな目で友を見た。
「あの方の選んだ道が間違いだと、平々凡々な私達に、なぜわかるんですか?」
「うるせー!」
ピークは椅子を蹴り、部屋から出て行く。ロイドも睨みながらその後に続いた。
「最低~。あんなのが王様になるんだ~」
町子の言葉に東堂も頷いた。
「胸くそわりい奴らだな」
「ヒョウマさん!大丈夫ですか!」
「ーー何とか……」
「あのー、妹がお礼を言いたいとー」
マーロウの後ろから、マチアが頭を下げた。
「いやいや、何もできませんでした。本当に申し訳ありません」
「ーーありがとうございます。些細な事で大騒ぎしてすみません……」
「些細な事ではないです。あなたが苦にすることはありません。暗い所は大丈夫ですか?」
マチアはポロポロと泣き出した。
「ーー怖いです。夜道が歩けません……」
泣く妹の震える肩を見て、マーロウは言葉をなくした。
「ーークリステイル、おまえ、泣いているのかーー」
タイリーが自分も涙ぐみながら問う。
「ーーいい友だと、思ってましたーー」
「そうかーー。オレもだよーー」
「ーー二人は、あの頃のままじゃ、ないんですねーー」
きらきらと輝いている学生時代の記憶。それはたしかに自分の中にあるのにーー。
クリステイルの肩をタイリーは軽く叩いた。
12
お気に入りに追加
241
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる