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王太子日和編

第63話 クリステイルは泣く

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「その後、おまえらいなかったよな?どこにいってたんだ?」

 タイリーは続けた。

「はあ?いつだよ。オレはクリステイルの隣りにずっ座ってたぞ」
 ピークが眉間にしわを寄せた。

「トイレには行った。オレはタイリーの隣りに座っていたが、おまえもいなくなっただろう。トイレでは会わなかったはずだ」
 ロイドが目を上に向けた。

「ああ。つまみを頼むのを忘れて厨房へ行ったんだ」

 タイリーが答えた。


「クリステイル、おまえ覚えてるよな?」
 ピークが必死な顔でクリステイルに尋ねた。

「え?」
「こいつは頼りにならないだろう」
 ロイドが馬鹿にしたような言い方をした。

 あらら~、町子が溜め息をつく。


「最後ぐらいに、女がお酒を持ってきたのは見たぜ」
 ピークが思い出したように答えた。

「ーー部屋でか?」

「ああ。おれは同窓会中、部屋から一歩もでていない」

「それは、無理じゃないか?」
 ロイドが眉をしかめた。


「いや、オレならできるーー、」





「オレは、窓からしょんべん飛ばして遊んでたからな!」
 ピークが堂々と述べた。

「はあ!?」

「おまえらはしなかったが、他の奴らもやってたぜ」

 町子が侮蔑の視線を送り、東堂は、よくある事、と頷いた。

「あー、それで次の日庭が臭かったんですね」
 マーロウの言葉に町子が顔をゆがめた。


「ロイド、それを見たか?」
 タイリーが尋ねるとロイドは頷く。

「見た」

「ピーク以外の、他の奴らは誰だ?」
 


「…………」
 ロイドは顔を伏せた。クリステイルは緊張した面持ちで友の様子を見ている。

「それは書いてないのかーー。トイレの事も書いてないな?なぜ、書いたり書いてなかったりなんだ?」
 タイリーが不思議そうな声をだす。




「はっ、何が言いたいんだ?」
 優しい顔立ちをゆがめてロイドが問う。

「おまえ、給仕の娘さんにちょっかいを出したな?」
「何の話だ?」
 タイリーの追及にロイドは手で口を隠した。

「二階の渡り廊下で待ってたんだろ?」

「タイリー、おまえ何を言ってるんだ?」
 

「謝罪しろ」

「いい加減にしてくれ!オレが何をした!?」
 言いがかりはやめろと言わんばかりに、ロイドが手を振る。


「給仕の娘さんの胸に触っただろう?」

「誰が給仕の娘の胸なんか触るか!!触ったのは尻だ!!」

  クリステイルが、あっ、と声をあげた。タイリーも頭を押さえる。

 ピークはその二人を交互に見て首を傾げた。


「ロイドーー」
 タイリーが、がっくりと肩を落とした。

「だから何だ?胸のほうがよかったのか?あのときは酔ってたんだ!」
 開き直ったロイドのふてぶてしさに、町子は舌をだした。

「ーー酔ってたからって……」
 クリステイルが項垂れる。

「今度から気を付けよう。迷惑料が欲しいのなら、後で届ける」
 ロイドは何事もなかったように立ちあがった。

「ロイド!」
 タイリーが叫んだ。


「はあー、そういう事か。くだらない事に巻き込むなよ」
 ピークも髪の毛をなおしながら立ちあがる。

「たかが、そんな事で呼びだされるとはなーー」
 伸びをしながら彼が言う。


「ーーマーロウさん。どうします?」
 問いに、マーロウは下を向いた。

「謝罪は聞けそうにありませんね……」
「申し訳ありませんーー。生卵はどうしますか?」

「いいえーー、ヒョウマさん。力になっていただきありがとうございます!」

 お礼を言われるような事はしていないーー。

 王族の彼らからしたら、こんな問題たいした意味もないのだろう。


「ーーヒョウマ?」
 ピークが目を開いて振り向いた。


「ーーおまえがヒョウマか!」
「え?」
 気づけば兵馬の前にピークが立っていた。

 
 ガッ!


「兵馬ぁ!」
「兵馬くん!」
 東堂と町子の声を聞きながら、兵馬は宙に飛んだ。

 床に転がる。
 


 頬が痛いーー。

 ピークが兵馬を殴り飛ばした。


「おい!何すんだぁ!」
 東堂がピークにつかみかかろうとする。



「うるせー!そいつがラルジュナ様をたぶらかした大悪党なんだろ!」

 町子に頬を冷やされながら、兵馬は目を見開いた。

「おまえみたいな詐欺師のせいで、あの方の人生がめちゃくちゃじゃねえかぁ!」

「ピーク!ヒョウマさんはそんなひとじゃない!」 

「タイリー!おまえもだまされてんだよ!金のためなら何でもやる、ひでえ悪魔なんだろ!」

 町子も東堂も顔色が変わり、攻撃にでるため体勢を整えた。二人を、クリステイルが制する。


「ーーピーク。それ以上、ヒョウマ殿に暴言を吐く事は私が許しませんーー」

 ピークの前に立ち、しっかりと睨みつけた。

「何だ?たまたま聖女の国の王太子だった奴が偉そうに!」

「たまたまでも王太子には違いありません!」

「はっ、兄君が平民出だから王位につく分際で!母親が公爵家の出でよかったな!」

 ロイドまでもがクリステイルを下げる発言をする。

「ーーええ。兄やラルジュナ様は本当に立派な方ですよ。私達とは格も信念も違う」

「そうだ!あいつのせいで!!!」

「そんな方が、自分の判断を間違えますかね?」

 クリステイルは真っ直ぐな目で友を見た。

「あの方の選んだ道が間違いだと、平々凡々な私達に、なぜわかるんですか?」

「うるせー!」

 ピークは椅子を蹴り、部屋から出て行く。ロイドも睨みながらその後に続いた。






「最低~。あんなのが王様になるんだ~」

 町子の言葉に東堂も頷いた。

「胸くそわりい奴らだな」





「ヒョウマさん!大丈夫ですか!」

「ーー何とか……」


「あのー、妹がお礼を言いたいとー」

 マーロウの後ろから、マチアが頭を下げた。

「いやいや、何もできませんでした。本当に申し訳ありません」

「ーーありがとうございます。些細な事で大騒ぎしてすみません……」

「些細な事ではないです。あなたが苦にすることはありません。暗い所は大丈夫ですか?」

 マチアはポロポロと泣き出した。

「ーー怖いです。夜道が歩けません……」

 泣く妹の震える肩を見て、マーロウは言葉をなくした。







「ーークリステイル、おまえ、泣いているのかーー」

 タイリーが自分も涙ぐみながら問う。

「ーーいい友だと、思ってましたーー」
「そうかーー。オレもだよーー」
「ーー二人は、あの頃のままじゃ、ないんですねーー」

 きらきらと輝いている学生時代の記憶。それはたしかに自分の中にあるのにーー。

 クリステイルの肩をタイリーは軽く叩いた。




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