ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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王太子日和編

第58話 喜びのクリステイル

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 神聖ロードリンゲン国王太子クリステイルが、聖女の親戚でもある花蓮と婚約し、今日はそのお披露目会が盛大に開かれる日だ。

 豪奢な白のジャケットに身を包み、クリステイルはごきげんな事この上ない。


「幸せすぎて怖いですね」

 控える近衛兵ルッコラに話しかける。

「はい!よろしゅうございました!」
「ーーさあ、カレンを迎えに行きましょう」
「はい!先触れはでています!」


 背中から羽根が生えたような、クリステイルの足取りだ。

「今日はお二人だけですが、結婚式にはご学友もたくさん来ていただけますね」

 ルッコラの言葉に、王太子は強く頷いた。

「はい!前に会ったときに、皆さん自分の事のように喜んでくださってーー。、兄上のように良い友達に恵まれました、本当にーー」

 













 元気いっぱいの王太子とは対照的なのが、夜中の連続魔蝕発生に睡眠不足が続く聖女ルート様だ。

「何なの、最近マジで多いんだけどーー」

「ルート、教皇から薬湯を貰ってきた」



「ーードーピングで乗り切れと?おれ、本当の誕生日は3月14日なんだぜ。もうすぐ子供ができちゃうかもしれないんだぜ。こんな状態で、どうすんの?」

「そうだな。前面的に協力しよう」

「タイミングが悪い!って言ってんだよ!アレクのばかぁ!」
「しかし……」

「避妊だ!絶対に避妊します!」
 琉生斗の言葉にアレクセイの表情が険しくなる。


「それはよくない。いざ欲しいときにできなかったらどうする?」
「そんな事、いま言う!?おれの身体を心配してくれよ!」
「ルート……」
 
 悲しげに目を伏せたアレクセイを見て、琉生斗は後悔した。

「ーーごめん。ちょっとだけ寝かして」
「ああーー」




「あー!またきた!アレク、行くぞ!」

 数分たった頃、琉生斗は飛び起きた。


「ーーわかった」


 こればかりは誰も代われる者がいない。

 それが、聖女、だ。









「教皇、もっと強い薬湯はないか?」

「いえ……。後は聖魔法で体力を回復させるぐらいしかーー。これも連続で使うと後から身体を壊したりしますからね」

 ミハエルも眉を寄せている。

「そうか……。ルートがこのままでは子供は無理だと言っている」

「ーーこればかりはいつと決めるのは難しいですね。夏以降は魔蝕は落ち着いてくるはずですがーー」

「私が斬る悪神の呪いにもよるが……」

「時空竜の女神様のご示唆です。子が成せないような呪いではないかとーー」

「ーーそうであればよいが……」
 
 思い悩みながら廊下を歩くアレクセイの視界に、クリステイルと花蓮が入る。

「あ、兄上!」

「ああ」

「ご用意がまだの様子ですが、大丈夫ですか?」

「ああ」

 近衛兵達は引きつる思いだ。この兄君の愛想の無さは一体なんなのか。

「では、失礼致します」
「失礼いたします」
 花蓮が愛らしくお辞儀をした。


「ああーー」

 心ここにあらずのアレクセイは、今日が婚約者のお披露目会である事に今気付いた。


 ルートは難しいかもしれないーー。

 父は難色を示すだろうが、自分もいなければ魔蝕だと皆は思うだろう。

 眠れる間は寝かせてあげたい。

 アレクセイは離宮へと歩みを進めた。









 琉生斗はベッドの中で静かに寝息を立てていた。
 アレクセイは側に腰をおろし、その寝顔を見つめた。

 顔色が良くないーー。

 連日の魔蝕の浄化で、身体の疲労回復も遅くなっている。それに加えてーー。

 ーー自分が悪い。

 君が愛しすぎてとまれないーー。





「……………アレク……」

「ーーどうした?」

 琉生斗が無言で自分の横を軽く叩いた。アレクセイは剣を外し、上着を脱ぐ。

 隣に横になると妻が胸の中に顔をうずめてきた。

「………いい匂い…」

 アレクセイはくらっとくるのを耐えた。


「ーー魔力ちょうだい」

「今日は流しすぎた。あまりに多いと後で倒れてしまうーー」

「もう、行かなきゃならないだろ……」
「ルート……」


 アレクセイは琉生斗の身体に負担がかからないように魔力を流した。魔法も魔力も万能ではない。

 やはり個人が保有できる量を越えてしまうと、身体に負担がかかる。自然回復が一番なのだがーー。

 他人から補うにも魔力の質が違えば魔力酔いを起こす。

 琉生斗が魔力酔いを起こすなどあってはならない為、自分の魔力を流す場合は彼の神力にスムーズに変換できるようにしてはいるのだが。



「はあ、だいぶ楽になったーー。ありがとう」

 琉生斗がキスをした。


「ルート……。少し、いいか?」
「うん。バカだろ」

 行くぞ、と促されアレクセイは雨に濡れた子犬のような目で妻を見た。

「ちょっと待ってくれる?何なのその手口」

 おれなんか絶対引っかかるぞ、と琉生斗が目を細めた。


「挨拶は終わったかな」

 全貴族がひとりずつ、クリステイル達の前に出てお祝いの言葉を述べるのだ。話が長い者もいる、そう簡単には終わらないだろう。


「着替えるかーー」

「手伝おう」

「中年のおっさんの触り方すんな!」
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