ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編7

第53話 仲良しクッキング

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「ーー兵馬に怒られた」

 離宮に帰った琉生斗は、ソファに座り項垂れた。
「そうだな」
「悲しいー。慰めて……」
「ああ」

 手を広げてアレクセイを招く。優しく抱きしめられ、ふふっ、と笑う。



「大好き」
「愛している」

 唇を重ねながら、頬を寄せたり髪をすいたり身体をくっつけて、二人はお互いを撫で合う。


 すっかり二人の世界なのだがーー。







「ーールートォォォォォォォォォ!いーかげんにしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 書類を叩きつけ、兵馬は切れた。



「僕、いるからね?虫とか空気じゃないよ?」

「そんな怒るなよ。いつもの事じゃないか……」

「まったく、国民が何も言えないからって、ひどいよ!もう、約束しな!外ではイチャイチャ禁止!」


 イチャイチャ禁止ぃぃぃーー!!!






「ーー私に、死ねと?」

 アレクセイが真剣な顔で兵馬に問う。

「そんな簡単に死ぬ殿下なんかルートの殿下じゃないよ」

 兵馬に睨まれ、アレクセイが目を伏せた。

「大型犬がチワワに諭されてるな」

 琉生斗はアレクセイにキスをして、騎士服の襟に手をかけた。

「ルート!」
「ここ家だもん。家ならいいんだよな?」

 ガサガサと彼らしくなく書類を乱雑に整理し、兵馬が出て行った。





「何をイラついてんのかね?兵馬さんは」

「ーーラルジュナが最後までさせてくれないと言っていたがーー」


 プライベートな話、ぶっ込まれてんなーー、と琉生斗は目を丸くした。



「最初したのにできないんだ。兵馬の事だ、冷静スイッチが入っちゃったのかな」

「……ルート」

「そんな声で呼ぶなよ。欲しくなるーー」

 アレクセイの首筋に歯を立て、琉生斗は夫を求めた。













「ほんとに、禁止だからね!」

「はいはい、わかりましたよ。おまえの前では自重いたしますよ」

「だめ!他の人の前でも!」

「暴君だな」

 生チョコの手作りには美花や町子も来て、賑やかに作業が行われた。

「みんな迷惑してるの!ちょっとは考えな」

「えっ、でもジョンレノとヨーコのキスシーンなんか、めっちゃカッコよくなかったか?」

「ーーそこを目指してるんだ……」

「あんな自然にスタイリッシュにできたら芸術だと思わねえ?」

 チョコレートを湯煎で溶かしながら、琉生斗は匂いをかいでごきげんだ。

「ルート君は何でも勉強家なのよね~」
「町子、庇わないの!」

 美花が風を起こして生クリームを泡立てている。


「兵馬ーー。前にね、レノラさん達が言ってたんだけど。あんなにお互いに夢中になれるときって短いんだから、できるだけ長く楽しんで欲しい、って。誰も迷惑してないわよ」

 兵馬は目を丸くした。

「気にならないの?」

「えー、変態殿下が愛があるのはわかるしー。キスってしちゃうとねーー。きゃあああああああ!」

「葛城!生クリーム飛ばすな!花子(琉生斗の牝牛)が泣くぞ!」

 


「兵馬。おまえ、ラルジュナさんにやるのか?」

「ーーあげないよ。商品化の検討をするだけだよ」

「ふーん。もったいぶってねえであげればいいのに」

 琉生斗の言い方が気になった兵馬は、目を細めて睨みつける。

「もったいぶってなんかないよ。そんな必要ないだけだよ!」
「ライバルでもでてこないと必死にならねえか」

 いらない調理器具を片付けながら琉生斗は言った。

「僕は君みたいにならないの!なんなの、あんなに貞操観念ガッチガチだったくせに!今じゃどうなってんの?」

 生チョコを入れるバットを並べながら、兵馬は噛みつくようにがなる。

 琉生斗が深く息を吐いた。


「ーーだってよ。おれには他にアレクにやれるもんがねえから」
 
 親友の言葉に兵馬は目を見開いた。


 言い返す事も、気の利いた事も言えずに、動きをとめる。

「相手が望むうちは何でもしてやりたい、それだけだ」

 チョコレートがついたテーブルを濡れぶきんで拭く。

「ルート……」
「おれは、おまえらみたいに他の才能がないから」

 ふきんを洗いながら琉生斗が言った。

「浄化しかできないなんて、こっちの世界にきた意味がない」
「いや、その為に呼ばれたんだけどね」

 趣旨が間違ってきてるような。

「ルート君は色々やりたいひとだからね~」

 町子が笑う。

「生クリーム入れていい~?」
「よし、入れてくれ」

 チョコレートに生クリームを加えて混ぜ、バットに材料を入れる。

「冷やしてくれるか?」
「冷蔵ぐらいね~」
「そうそう」
「攻撃魔法にはないわね~」

 微調整しないと~、と町子が眉を寄せた。

「たしかに、敵にはダメージが少なそうだな」

 琉生斗が笑った。

 兵馬はバツが悪そうに俯き、誰にもわからないように溜め息をついた。













「ごめんね、ルート……」


「何が?」

「ルートも殿下に捨てられないように必死なのにーー」
「はっきり言うな!」

「そんな心配してるの、ルートだけだと思うけど」

「ーーそうだといいなぁ」

 琉生斗はとめていた髪留めを外し、前髪を直した。




「ーーおれは、あいつを幸せにしたいんだ」
 目を細めて笑う。

「おれにしかできないからな!」


 照れたように言う親友が、心から輝いて見えたーー。


    
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