ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部、第四部)

濃子

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日常編7

第52話 それは、もはや風景

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「最近おまえ、アジャハンばっかりだな」

 東堂はつまらなそうな声を出した。

「そうだね。鉄道関係で僕がいないと進まない事も多いから」

 兵馬がよろよろしながらボールを蹴るーー、蹴れなくてスカる。

「ーー嘘だよな」
「ほんとだよ!」

 何でとまってるボールが蹴れないんだ?


 ある意味才能だ、と首を捻るしかない。

「ーー運動神経ってどうしたらあがるのかな?」
「おまえの場合、頭脳に振り分け過ぎたんだろ」

 初期設定バグったんだな、と東堂は話をまとめた。

「けど、向こうにいるときより体力はついたよ」
「基本歩く距離長いしな。休みのときでも二万歩は余裕で歩いてね?」
「そうだね」
「訓練や、演習は考えたくねえな」

 東堂は笑った。


「今日はルートは?」
「朝から殿下と揉めてるよ」
「ん?やってんじゃないのか?」

「痴話喧嘩は痴話喧嘩だよ。ルートがカカオ豆加工するから別部屋作って、って言ったのが殿下は気に入らないの」

「ふーん。殿下は何でも目の前でやって欲しいんだな」

 オナニーもできないなー、という東堂に兵馬は吹いた。

「ーールートにそんな余裕はないと思うよ……」

 言ってて恥ずかしいが。

 兵馬が頬をかいた。





「おーす!遅れてごめん!」

 琉生斗が走ってくる。その後ろから箒に乗って町子も飛んできた。

「よお!町子!」
「お疲れ様~」



「あっ!マチコ先生だぁ!」
「マチコ先生ー!」

 子供達が町子を囲む。

「チビッコたち~。おはよ~」

「「「おはようございます」」」





 町子は初歩の魔法の講師で都合があえば来てくれる。基本魔力がある子供が多いが、中にはまったく使えない子供もいる。

 そういうとき、その子供は東堂と走り込みに行ったり、琉生斗と違う遊びをしたりする。



「ぼくも魔法使いたいな」
「そうだな。まっ、無いもんはしょうがねえ」
 
 聖女様ってひどいーー、ザルク少年は思う。

「無いなら無いで違う武器があるかもしれないからなー。そこ座れ」


 ザルクは聖女ルートの前に座る。

「はい、さわる?」

 琉生斗が聖女の証を、差し出した。


「ーー無理ですーー」
「そうか?じゃあ、直接みるか」

 本当に聖女様って、無神経だなーー。

 六歳の少年が気を使う中、琉生斗が小さな心臓の横にある魔力器官を見た。





「あるじゃん、ちゃんと……?ん?なんか違う?」

 じっとザルクの心臓を見る。

「んー、魔法でも聖魔法でもない。何だろ?」

 手を伸ばして少年の心臓に触れようとしてーー。

「あっ」

 手をアレクセイに掴まれる。

「何だよ」

 琉生斗は背後にあらわれた旦那様に背を預ける。アレクセイが腰に手をまわして、妻を抱きしめた。

 神聖ロードリンゲン国の民にはおなじみの光景なので、チビッコといえど誰も驚かないし茶化さない。


「浮気現場だな」

 どこがだ。

「なあ、ザルクの魔力器官がちょっと違うんだけど、何これ?」

 琉生斗の言葉を聞いてアレクセイがザルクを見た。ザルクはその厳しい視線に、身体の芯が冷えていくのを感じる。


「ーーこれは、魔物使いだな」
「へぇ?」


「うそぉ~!ちょうレアよ~!」

 町子が走ってきた。

「え~~~~!なるほど~~~、こうなってるのね~~~!」

 はじめて見たのか町子の目が興奮で血走っている。

「ザルクはどうなるんだ?」

「魔物使いなら、アジャハンの竜騎士になれる可能性がある。軍隊の中では魔法騎士の上にあり、アジャハンのみが持つ最強の部隊だ」

「竜騎士?神崩れのドラゴンを飼いならすのか?」

「いや、小さい竜を探して自分で育てるんだ」
「はーん。自分を親と思わすのか」
「この子の親がいいのなら、アスラーンに伝えるが」

「ザルク、帰ったら親と相談しよう。おれも行くからーー」
「私も行く」


 過保護ーー。

 
 幼児達でさえ直感で感じたという。









 ソラリス大神殿近くにザルクの家はあった。琉生斗が話をすると、両親は二つ返事で息子をアジャハンに行かせる事を決めた。

「魔法がないと、うちの国では兵士になれないから、どうしようと思ってたんですよ」

 子供の進路を憂うのは、どこの世界も同じらしい。


「今まで聞いた事のない職業だ」
「自国から魔物使いが出ることは、稀だ」
「アジャハンにしかないのか?」
「ああ。数は少ないが、強い」

 アレクセイが言うのなら、本当に強いのだろう。



「次回の魔法騎士の演習は、アジャハンと合同でやるんだろう?」

「そうだ。バッカイアと三国での話だったが、二国になった」

「ラルジュナさんが抜けたからか。あの人、うちの国ではどういう記憶になってるの?」



「ミントとシャラジュナ王太子が婚約するにあたり、事後の争いを避けるために国をでたことになっている」

「ふうん。アレクにしてはミントに甘いな」
「ラルジュナの希望だ」

「意外にまともだよな。アスラーンさんなんか一番まともそうに見えて、なんか違うし」

「ーーそうだな」

「東堂がしょっちゅうモフモフ動物園に行ってるらしいぜ。今度行ってみるか?」


「毛は、少しーー」

「あ、そうか。マスクでもだめなのか?」

 アレクセイはぬいぐるみや、動物の毛に鼻が反応して痒くなるらしい。

「そうだなー。ヒョウマに作ったものを改良してみよう」
「色は黒でよろしく」

 琉生斗は真顔で告げた。

「ああ……」

 答えながらアレクセイは首を傾げた。琉生斗はそんなアレクセイを、うっとりと見ている。


「ーーうん。マスク男子超イイ。おまえマスク取ってもハンサムだから、殺人的にやばいよ」

 想像で楽しみながら、琉生斗はアレクセイに抱きつく。


「アレクー」

 琉生斗がキスをねだった。アレクセイがためらいもなく応じる。幸せそうに琉生斗はアレクセイとキスを続けーー。




「ーールートォォォォォ!」

 仁王立ちの兵馬が二人をとめる。

 通行人が笑って通り過ぎていく。

「いい加減にしなよ!道の真ん中で、何やってんだよ!!!」

 書類手続きでついてきた兵馬に、二人はしこたま怒られた。


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