ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
261 / 410
スズの指輪編

第50話 不機嫌な旦那が上機嫌になる方法

しおりを挟む
 劇団キャットラビットのテント迄行くと、何やら騒ぎが起きていた。

「ーーお姉様、あいかわらずお幸せそうでー」
「まあ、ルッタマイヤこそ、軍将の制服がよく似合ってますわね」

 ほほほほほっ、と二人は笑いながら戦っている。

「まだ、あのうだつの上がらない男と一緒ですのね」

 ルッタマイヤの言葉に、チロバ厶が顔を背けた。

「夫よりどんどん出世する妻も、どうかと思うけど」

 ほほほほほっ、とまたやり合う。


「お、夫?」
 琉生斗は愕然としてチロバ厶の方を見た。

「ルート様!」
 ルッタマイヤが琉生斗に気づき、ひざまついて挨拶をする。

「ルッタマイヤさん、夫って?」

 チロバムは顔をこちらに向けたが黙っている。

「元、です。姉と不倫して出ていきました」

「あんたが大事にしなかったからでしょ!」

 昼ドラのような展開に琉生斗は言葉を失う。

「奥さんの出世にやさぐれて、浮気に走ったのね~」
「そういうとこうちの国、厳しそうだよね」


「はっ!こんな場合じゃありません。ルート様、殿下に行き先を言ってませんわね!」

「行き先は言ってないな」

 琉生斗が頷くのを見て、ラルジュナは肩をすくめた。

 彼の姿を見た女性達が、ヒソヒソと話をする。
 
「もの~すっごい不機嫌です。魔法騎士の相手をしてくださったのですがー」
「ーーはい」
「全滅して、士長が泣いています」

 何やってんだよーー。

「だから、東堂連絡がつかなかったんだ」
 兵馬が手を合わせた。


「もうー……、アレクー」

 あえて呼ばないようにしていた名前を、琉生斗は口にした。

 黒の騎士服を着た美貌の夫は、すぐにあらわれる。

 ただし、眉間にしわが寄っていた。


「ーールート」
 地の底から震えてくるような声だ。

「言わなかったか?すまんすまん。それよりも、あっちみろ」

 琉生斗の視線の先に、カリーナをはじめとした薄着の美女達が、真っ赤になってアレクセイを見ていた。

「何だ?」

 女だな、とアレクセイは一言いった。

「全員、おまえのセフレらしいが、どういうことだ?」

「は?」
 アレクセイが、忌々しそうに美女達を睨む。その視線のきつさに、美女達は息をとめた。


「くだらない。おまえ達、本当にそんな事を言ったのか?」

 圧が痛い。震えるような圧力に、カリーナ達は顔もあげられなくなった。

「どうなんだ?」
「怖がらせるなよ。本当のことが言えなくなるだろ」

「誓って、そんな事実はない」

 アレクセイがはっきりと言い切った。

「あそこのカリーナさん、一緒にダンジョンに潜ったんだろ?」
 アレクセイはカリーナを見て、首を傾げた。

「あー、違いますよ。たまたまダンジョン内で会っただけですーー」
 チロバ厶が消えそうな声で言った。


「他の女も、ただの見栄ですのでーー」
 



「ふふふっ、女子って怖いねー。ボクああいうの嫌いー」
「ああいう女子が嫌いなのであって、女子が嫌いとかじゃないんでしょ?」
「信用ないなー」

 兵馬とラルジュナが仲良く会話をする隣で、琉生斗は真っ青になっていた。



 ………。
 やばいーー。

 琉生斗の視線が泳ぐ。


 次は自分の番だ。

 琉生斗は目で助けを求めた。兵馬と町子は、首を振った。

「ルートー」

「ちょい待ち!ほら、イザベルさん!正真正銘のピンクダイヤだ!」 
 琉生斗はイザベルの前にピンクダイヤを置いた。


「「「えっ!!」」」

 傭兵達が驚愕の目で琉生斗を見た。

「ーー何階にあったんだ?」
「63階」

「ーー何でラルジュナ様が一緒なんだ?」

 チロバムが疑問を口にした。

「おれの親友の、ーー商売仲間」

「ひどいねー」
 ラルジュナが目を細めた。


「それって、ずるいわよね」
 薄着の美女ナジュが抗議した。
「確かに。ラルジュナ様と一緒なら取ってこれるわよね」

 他の美女もその意見に賛同した。


「えっ?駄目なのか?どうしようかな……」
「ピンクダイヤなら、持っているだろう」
 アレクセイが声をかける。

「産地が違うから」

 んー。

「よし。じゃあ、アルカトラズ地下ダンジョン、浄化しちゃおうかな」









「え?」
 全員が固まる。

「できそうなんだよね。おまえいるし。ダンジョンが無くなっちゃえば、ダイヤも宝もどうなるかわかんないけど。無いものはどうしようもないだろう?」

 ラルジュナが肩を揺らして笑いだした。

「やめなよ」
「そうよ~。魔王の遺産よ~。世界から苦情が来るわよ~」

「魔蝕がでましたで、すむ話だよ」
 兵馬と町子が呆れた顔になる。



「お、お姉様!聖女様に何をさせる気ですか!」
 烈火の如くに怒ったルッタマイヤが、イザベルの胸倉を掴んだ。


「せ、聖女様ですってー!」
「えーー!」
「男の子じゃない!」
 劇団員達が悲鳴をあげた。

「聖女様だなんて、知らなかったの!」
 イザベルが真っ青になって首を振る。


「この、高貴な御姿を見てわからなかったのですか!我が家の顔を、どこまで潰せば気が済むのです!」
 
 わからないでしょ~。兵馬と町子は、やれやれ、と言った。

「もう、悪かったわよ!これでしょ!」
 イザベルは町子に指輪を投げた。

「帰って!二度と関わりたくない!」
「何ですか!その態度は!」

「だってーー、だってーー……」
「そんな性格だから、スズ様に嫌われたのですわ!」

 ルッタマイヤの言葉を聞いて、イザベルの顔が歪んだ。走り出し、テントの奥へと消える。

「本当にーー」
 呆れるルッタマイヤにチロバ厶が近づいた。

「すまない、ルッタマイヤ……」

「名前で呼ぶな!」
 ルッタマイヤは踵を返した。




「よかったね、町子」
 兵馬が言うと、町子は頷いた。

「お師匠様、喜ぶかな~」
 銀色にきらめく指輪に喜ぶ二人を見て、アレクセイは眉間のしわを消した。




「めでたし、めでたし。さあ、アレク。帰ってお茶でもする?」
 琉生斗はアレクセイのごきげん取りにかかるが、彼の視線は厳しいままだ。


 そんなとき、頼りになるのがこの友である。

「……はい、お願いします。殿下ぁー!」
 小型魔通信でやりとりしていた兵馬が、アレクセイを呼ぶ。

「何だ?」
 アレクセイの声は尖ったままだ。

「隣のパラダイス島でいいホテルの部屋、予約とれたから」

 兵馬の言葉に、アレクセイの纏う空気が晴れやかに変わっていく。

「景色もいいし、アジャハンの部屋よりすごい良い感じだよ」  


 僕、何言ってんだろー、と兵馬が溜め息をついた。

 アレクセイが薄く笑いながら、深く頷いた。

「礼を言う」

「どういたしましてー。ルート、僕、明日はアジャハンに戻るけど、明後日の幼児運動教室は出るからね」


「お、おまえ!あのなぁ!おれはアルカトラズに潜ってお疲れなんだよ!」

「ルート、ベッドに潜ろう……。朝と言わずに永遠にーー」


 逃げられないように後ろからしっかりと抱きしめ、アレクセイが琉生斗の手に自分の手を絡めた。



「バカだこいつ!最低だぁぁぁーー!」
 

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...