ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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日常編6

第40話 聖女の婚礼衣装

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「ふぁー」

 ぽかんと口を開けるしかない。

「みんな、小さかったんだなー」
「スズ様の前のタケ様は、百七十センチ近い身長ですよ」
「ん?」
「袖を通してください。わかりますからー」

 ミハエルや、神官達が部屋から出て行く。


 琉生斗は冬用の法衣を脱ぎだす。

「薄くて寒そうだけどーー」

 純白の法衣は琉生斗が袖を通しただけで、布が伸びていく。

「えー!」

 最後には自分の身体の為に、あつらえたようになった。

「はあー。何か、気にやられそう」
 軽いのに重みが伸し掛かる。

 コンコンコンッとドアがノックされ、琉生斗は返事をする。

「はぁい。いいよー。じいちゃん」

 入ってきたのは、昨日と同じ白のタキシードを着たアレクセイだ。

「アレク……」

 最愛の旦那様の登場に、琉生斗は見惚れてぼんやりとしてしまう。

「ルート……」
「殿下、くれぐれも罰当たりな事はせぬように」

 ミハエルの言葉に、アレクセイはこの世の終わりを見たような顔をした。

「しかし、美し過ぎて、神々し過ぎて、愛くるし過ぎてーー」
「当たり前です、神衣ですよ。歴代の聖女の婚礼衣装です。間違いなく世界一価値がある神宝です」
「ここまでの保存魔法がーー」

「違います。これは、祈りです。これを着た聖女が、次の聖女の無事を祈り、仕舞うのです」

 琉生斗の目からボロボロと涙がこぼれた。


「う、うんー。みんな、祈ってくれてる……」


 スズの顔しか知らないはずなのに、あのひとがタケ、あのひとはセツ、琉生斗にはそれがわかった。

 琉生斗の心の中で聖女達が祈りを捧げている。

「あなたも、次の聖女の為に、祈りを捧げて仕舞うのですよ」
「うんー。うん……」
「はい。では、行きますよ」


「ーー他の神殿に?」
「各所いろんな所です。聖女の婚礼衣装は、それこそ見れない人の方が多いのですよ。五十年に一度きりですから」
「ーーそっか……」
「見た者に幸せが訪れると言われる聖女の婚礼衣装です。覚悟してください。すごい人ですよ」

 ヒョウマが宣伝してますからーー、とミハエルが笑う。

「アレクセイ殿下、裾を汚さないように抱きかかえてください」
「ああ」
 アレクセイが琉生斗を抱きあげた。
「アレクーー」
「大丈夫か?」


「うんー。気持ちがいっぱいなんだーー」


 アレクセイと琉生斗はキスを交わした。


「琉生斗」
 廊下にティンが立っていた。町子が目を輝かせている。
「ティンさん」
「母も、着たのですねーー」

 ティンは目を細めた。そして、手に持ったものを琉生斗の頭に掛ける。

「え?」
「母のヴェールです。もらってください」
 町子が花飾りでヴェールを留めた。

「あ、後で返すよ!」
「いえいえ。形見分けですよ」

 笑顔のティンに、二人で頭を下げた。





 神殿の広場に集まっ人々の多さに、琉生斗は目を丸くした。

「まあ、キレイ!」
「すごい!」
「幸せになれるんでしょ?」
「寿命がのびるんだって!」
「家が買えるって聞いたぞ!」

 顔を上気させた人々の声を聞き、琉生斗は心で思った。


 ーーご利益アイテムみたい……。


「ルート!こっちだよ」
 兵馬が手を振る。親友を見て、その隣りにいるものに琉生斗は目を丸くする。

「へぇー」
 変な声が出た。


 翼がはえた白い馬だ。
「ミハエルさんの天馬ペガサスだよ」
「じいちゃん、何てものを持っているんだ……」

 二頭の天馬が綱を引く、屋根のない豪奢な外装の馬車だ。

「乗ってね」
「ーー御者は?」
「僕とジュナで交代制だけど?」

 バッカイア国じゃ、トードォくん達に代わるよー。

「乗馬とは違うだろう」
「練習したよ」

「ヒョウマは乗馬をするのか?」
 アレクセイが不思議そうに尋ねた。
「向こうではライセンス3級だけど」
「ーー姿勢はいい、な…」

「何が言いたいんだよ!」
 兵馬がアレクセイにがなると、御者台に座るラルジュナが吹きだした。

 今日は目立たなくする為か、服装もそうだが、髪の色を焦げ茶にしている。顔の派手さはどうにかしないのだろうかーー。

「染めてるの?」

「魔法だよー。今日からしばらくの間、よろしくねー」
「お願いしますー!」



 天馬の馬車に揺られ、琉生斗とアレクセイは神聖ロードリンゲン国の端々を巡った。
 
 二度と見る事がないかもしれない聖女の婚礼衣装だ。興奮を抑えられない見物人達は、各所に散らばった兵士達によって整理されていた。

「きゃあー!すごぉい!」
「ありがたや!ありがたや!」
「あなたは赤ちゃんだから、次の聖女様のとき、もう一度見られるかもね」
「儲かりますように!」

 ーー段々趣旨が違ってきてるような……、まぁ、いいや。
 
 琉生斗はアレクセイにくっつきながら手を振る。

「アレク、仕事は大丈夫なのか?」
「ああ。仕事は納めているから。新年行事は出なくてもいいと……」
「そうだよな。もう、年末だもんな」

 二人で他愛ない会話をしながら、観光気分であちらこちらに顔を出す。






 国が終わると同盟国、世界聖女連盟加入国をまわり、終わる頃には一ヶ月が過ぎようとしていた。
 
 途中、クリステイルの生誕祭には神聖ロードリンゲン国へ戻り、花蓮との婚約式に出席した。
 花嫁になる花蓮のあまりの可愛らしさに、国をあげてのお祝いとなった。

 デレデレのクリステイルには、美花と町子はドン引きしていたがーー。


 




「綺麗にしてもらったし、また、五十年後だな」
 琉生斗は純白の法衣を箱に納め、手を合わせた。



 次代の聖女ーー。あなたの無事を心から祈ります。つらい事もあります。たくさんありますーー。おれだって、これからまだまだあると思います。

 けど、どんなときでも、相方を信じて生き抜いてくださいーー。



 よし、と琉生斗は目を開けた。




「もうすぐ二十歳かー」

 神竜にしろ、子供にしろ、どうなりますかねー。













「あっ、魔蝕がでたな。おーい!アレク!」

 琉生斗は護衛でもある旦那様の名を呼んだ。

「ーー魔蝕か」
「おう!転移よろしく」

 すぐにあらわれたアレクセイが琉生斗を抱きあげる。

「君とならどこへでも」

 真摯に見つめられ、琉生斗は鼻血をだした。


「ああ。どこまでも行こう!」

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