ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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バッカイア・ラプソディー(長編)

第37話 兵馬とラルジュナ ♡

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 兵馬は眼鏡を外された。

 キュッと目を閉じると、優しい唇が瞼にあたる。

 彼の唇が自分の唇と重なると、肩に乗せられた手が熱く感じられ、そこに反応するかのように身体の芯も熱をあげていく。

 唇を大切に愛され、兵馬はその柔らかい質感に思考が停止する。口の中に舌が滑り込んできて、兵馬の舌にピタリ吸い付き、溶け合おうと動いた。


「ふぁっ」

 口の中が舌と唾液でいっぱいで、兵馬は苦しくなり、空気をさがして口を開けた。口からよだれが垂れていく。

 間抜けな顔をしているのだろう。
 
 唇を離して自分を見る彼が、真面目な顔をしている。
 
 呆れているのかもしれない。



「ヒョウマー、ボクの事好きー?」

 兵馬はぼんやりとした目を擦り、ラルジュナを見た。真摯な目で自分を見る彼が何を求めているのかがわからず、ただ頷く。



「ーー好き……。あなたの側にいたい……」
 

 兵馬は唇を舐めるようにキスをされた。

 頭はぼうっとしていたが、オレンジがかった金髪が綺麗で、触りたいな、と手を伸ばして髪を撫でる。

 耳にも触ってみる。
 ピアスが付いていた。

「ーー不良だね」
「ーーどうしてー?」

 シャツを脱がしながらラルジュナが問う。

「ーーピアスって穴開けるでしょ?」

「ふふっ、王族は身体に穴なんか開けないよー、これは皮膚にくっつけてるのー」

 あー、魔法の世界だとそうなんだーー。

「ヒョウマにも付けてあげるー」

 ラルジュナが右耳に付けていたオレンジダイヤの飾りを外し、兵馬の右耳に付けた。
 一瞬じわっと耳が熱くなり、静かに治まっていった。


「よく、似合うよー」
 耳にキスされると、首のあたりがぞくりとする。
 
 ラルジュナが上着を脱ぐと、兵馬は驚いて目をそらした。見たいけど、恥ずかしくて見れない。

 みんな、どこ見てるんだろーー。ルートの意見はあてにならないしーー。

「大事にするからねー」

 心臓がバクバクするーー、兵馬はカチンコチンになりながら、困ったように眉を寄せた。

「さわるよー」

 
 ほんとにさわるんかい!、っていうか交際日数は0日だよ?いいのか僕!

 雰囲気に流されてるぞ、僕!

 大学生なら付き合って三ヶ月目ぐらいだろ(向こうのアンケート調べ)。

 ルート、君ならどうするんだ!!!









「ーーーーちょっと冷静になろうよ」

「んー?」

「前は完全に僕が悪かった。ほんとに悪いと思ってる」

 兵馬は起き上がり、眼鏡をかけた。

「だけど、普通は付き合いはじめでこんな事はしないはずだ」

「一概にはそうとは言えないんじゃー」
 ラルジュナが渋い表情になる。

「まずは、健全なお付き合いをしよう」
 兵馬は話を締めた。

「さて、僕は書類があるから」

 服をきっちり着て兵馬は立ち上がった。




 ラルジュナが呆気にとられている。

「ちょっとー。それはないよー」

 慌てたラルジュナが兵馬の身体を後ろから抱きすくめる。

「ねっー、ヒョウマー」

 うなじにキスをされ、熱い息がかかる。

「だめ!僕の事、軽い遊びだと思ってるの!?」
「思うわけないよー!大好きだよー!」

 兵馬は耳の裏まで赤くなっていく。

「ヒョウマー」

 ラルジュナが兵馬の顔を覗き込む。髪を優しくすくと、小さな身体がピクリと動いた。


「きょ、今日は、だめ……」

 身を縮めるような兵馬に、ラルジュナの動きがとまる。
 


「ーーわかったー」

 ラルジュナが離れると兵馬は部屋から出て行った。






 ベッドに身を投げだし、ラルジュナはつぶやく。

「ーー何あれ、かわいすぎ~~~~!」

 大国の元王太子は、ベッドの上でしばらくはしゃいだ。



 まあ、いいやー。

 これからはずっと一緒なんだしーー。

「あっ、返し忘れたー」

 右手の中指には、バッカイア国の王太子の刻印が入った金の指輪がはめられている。ラルジュナはそれを外し、しげしげと眺めた。


 ラルジュナは、軽く指輪を宙に投げる。

 指輪は消えた。

 弟のところに届くだろうーー。


「ーーさよなら。ごめんねー、より大事なものを見つけてしまったんだー」

 ラルジュナは微笑んだ。



 コンコンコンッ。

 軽くドアをノックし、ラルジュナに屋敷を貸す人物が入ってきた。

「入るぞ。おや、最中じゃなかったか」

 残念だ、とアスラーンは深く頷いた。

「へんたーいー」

 ラルジュナは剥れる。

「あの冷静な少年が、どう乱れるのか興味がある」

「…………友達やめようかな………」

「はははっ。おまえのような異常な人間、仲良くなれるのは、心がアジャハン国より広い私か、化け物のアリョーシャぐらいのものだろう」


「うるさいなー。用がないなら出ていきなよー」

 私の城だがなーー、とアスラーンは少し笑った。





「なんだ、思ったより落ち込んではないな」

「ーー母親がいない時点で、勝ち目はなかったからねー」

「そうか。さぞ良い国になっただろうにな」
 あの国も惜しい事をしたーー、とアスラーンは続けた。

「どうだろうねー」
「まあ、しばらくは私の為に働け」
「あー、嫌だー」
「なら、アリョーシャのところに行くか?」 

「絶対やだー!ちょっと聞いてよー!あのお姫様、ホントひどいんだよーー!」


 ラルジュナとアスラーンの会話を聞きながら、近衛兵のフストンは笑い声をあげた。



「しばらくアスラーン様はラルジュナ様に任せようっと……」




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