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バッカイア・ラプソディー(長編)

第35話 一緒にいる。 最終話

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 ジュリアムは訝しげに兵馬を見る。

「ラルジュナと一緒にいられるわよ」

「ジュリアム!やめなさい!」











「え?僕がそんな事、喜ぶとでも?」

 キョトンとした兵馬に、アレクセイが薄く笑った。

「あら、もうあの子の事はいいの?」

 ジュリアムの呆気にとられた顔を見ながら、兵馬は言った。











「ちょうど従業員が欲しかったんだよね。この、無職、連れて行くよ」

 町子が吹きだした。


「ヒョウマー」
 ラルジュナが兵馬の顔を見た。耳を赤くした兵馬はにやりとする。



「一緒に世界相手に商売してみない?」



 ラルジュナの星のような瞳が、きらきらと輝きはじめた。


「それ、プロポーズー?やだー、ヒョウマったらー」
「そんなんまだしないよ!」



 兵馬はアレクセイに耳打ちをした。アレクセイは頷く。


「ラルジュナ……!」
 アルジュナの必死な様子を見て、ジュリアムは溜め息をついた。

「パパー、」
 ラルジュナは深く息を吸った。



「ーーボク、亡命するー」

「ラルジュナァー!!!」
「パパも元気でー。ボクの集めた宝石はパパの好きにしてねー」

「ーーパパを捨てるのかーー……」





「構えろ。ラルジュナ様を逃がすな!」

 元帥ヒュースの号令に、衛兵が一斉に銃を構えーー。





「ーーーーえ?何してるんだ?俺達?」
「ん?おもちゃの銃?」
「魔法が使えないからって、こんなおもちゃで何ができるんだ……」

 衛兵達は自分達が何をしているのかわからなくなった。それは、ヒューベルとフォリカンも同じで、不思議そうな顔をしている。

「あれ、全部転移できる?」
「ああ」
 アレクセイはすべての銃を転移魔法で移動させた。


「みんなー!今までお世話になったねー!ボク、国を出て行くからねー!」
 ラルジュナが明るく言うと、ヒューベルは尋ねた。

「ーーは成功したのか?」
 
「ーーみたいだね。シャラジュナをよろしくー」

 元王太子は何の憂いも残さずに、笑った。













「銃の記憶は全部消せた?」
 兵馬がアレクセイに尋ねる。
「ああ」
「作ろうと思えば簡単にできるんだ。気をつけないとーー」

 兵馬は目の前の大量の銃を見て顔を曇らせた。町子が兵馬に近寄り、拳を開いて銃の弾を渡す。

「石を加工してる。銃、潰せる?」
 
「保存魔法を解除してからだな」
「頼んだよ。後、陛下達の記憶も念の為」
「わかっている」

 強く、アレクセイは頷いた。



「ーーねえ、アレクセイー。ミント王女も、元々弟に嫁ぐって事にできるー?」
 ラルジュナの言葉に、アレクセイは柳眉を寄せた。
「ーーやってはみるが……。いいのか?」

「いいよー。パパも早く廃してくれたらよかったのにー。ボクも、お母様に毒を盛られるのもいい加減嫌になってたしねー」

 兵馬が俯いた。

「ーーわかった」

 アレクセイの手から光る魔法陣があらわれ、その光がゆっくりと神聖ロードリンゲン国を包んでいった。


 光を見た教皇ミハエルは苦笑を浮かべる。
「甘い事をなさるーー」
 














「ーーで、兵馬はアジャハンに行ったの?ラルジュナさんと一緒に?」
「ああ」
 ああ、じゃねえよー。琉生斗はアレクセイの上に崩れ落ちた。


「ヒョウマが呼んでいる」
 と、転移してなんでそうなるんだよ!
 
 琉生斗は歯噛みする思いだ。
 


 兵馬は大学からヒューリ達の後を付け、彼らがラルジュナに向けて銃を構えたのを見て、慌ててアレクセイと町子を呼んだのだ。

 銃を見ても危ないものと思わないのか、まわりの者達は気にもとめなかった。
 そして、魔法を使えない衛兵達は、ヒューリの呼びかけに応じ、味方をしたのだろう。


「ーーまあ、凄いひとなんだろうけど、凄すぎたんだな」
「そうだな。ふざけてはいるが、隠せなかったようだ」
「お家騒動って、やっぱりあるんだな。うちの場合大丈夫なのか?」

「どうだろう?皆、クリスとセージなら、どちらでもいいのではないか」
「おまえひどいな……」

 琉生斗は甘えるようにアレクセイにキスをした。
「けど、記憶ってヤツは本当に曖昧なものだな。兵馬とミントが理由がわからないが、いざこざがあったみたいになってるぞ」

 聞いても消された気がしない。

「教皇には効かなかったが」
「おっ!すごいな、じいちゃん!けど、ミントが一目惚れしたヤツってどんなヤツだったんだ?」
「君のほうが美しかった」
「別にそんな事聞いてない。普通はイケメンだったとかいうんじゃないのか?」
「普通に顔があった」

「はいー!あほー!アレクのあほー!キス百回の刑に処すー」
「それは拷問だな……」
「え?そう?」
「百回程度じゃ、すまないだろう?」

 真顔で見つめられ、琉生斗は悶絶した。










 その後、何事もなかったように、ミントはバッカイア帝国の王太子シャラジュナと婚約した。
 婚約式において、神聖ロードリンゲン国側は皆笑顔で、バッカイア帝国側は首を傾げていたそうだがーー。

 アレクセイはバッカイア帝国側の記憶を、銃のみ消したが、ラルジュナの事はあえて消さなかった。

 そちらの事はそちらで処理する話だからだ。

 何か思う者があれば、いつか声をあげる。




 ーーそれまであいつは、世界を相手に楽しむだろうー。公私ともに最高のパートナーを得たことだしなーー。


 二人を思い、アレクセイは微笑んだ。










 後日ーー。
 アレクセイは自然に妻に尋ねた。

「ルート、来月は何の行事があるかわかるか?」
「おまえの誕生日兼、結婚式の写真だろ?ああ、その前に、先王の一年祭があるなー」

 また、じいさんあらわれたら嫌だなーー、と言う琉生斗にアレクセイは苦笑した。

「何だよ?」
「いやー、もう少し精神修行をした方がいいな」

「ーーそう?」
 琉生斗は目を丸くした。





 ーーだが、内心は舌をだしている。


 アレクも甘いなーー。
 王族とは関わらない、と言った事。

 忘れたふりしてやってんだよー、ばーか。




「……兵馬……、良かったなー。まっ、子供の事はもうちょっと後で話すかー」


 琉生斗が笑うのを見て、アレクセイも笑った。
 









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 このお話でバッカイア・ラプソディーは最終話になりました。

 最後まで読んでいただき、長い話に付き合ってくださって、本当にありがとうございます。次回からはまた、通常のお話に戻ります。
 また、よろしくお願いいたします!
   
        濃子

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感想 18

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