243 / 307
バッカイア・ラプソディー(長編)
第33話 ミントのひとめぼれ
しおりを挟む
晴天の中、ミントはアウローラ大神殿前に転移した。傍らには父アダマスと母ラズベリーが付き添っている。
「ミント、本当にいいのね?」
「ラズベリー、しつこいぞ」
案じる母を父が制する。このやり取りも何百回したことか。
「ですがー」
「黙っていなさい」
ミントは大神殿の大階段をあがりながら、大歓声を聞いた。振り返ると、バッカイア帝国の民が旗を振ったり、口笛を鳴らしたり、大声をあげたり、騒がしかった。
ーーこういう国なのね。
馴染むだろうか。元々仲の良い友達だけで、ずっといたい性格だ。
大神殿前でラルジュナ王太子が待っていた。
「ようこそいらっしゃいました」
兄達とは雰囲気が違うがハンサムな人だ。性格も悪くはなさそう。
なら、何が問題なのかーー。
「はい。お参りをさせていただきます」
「どうぞこちらにー」
手を差し出された。
ミントは固まる。
「ミント」
父が後ろできつい声で自分の名を呼んだ。
「いいですよー」
ラルジュナはすぐに手をおろした。
祭壇前には枢機卿ルシフェが立つ。
国王アルジュナと王妃ジュリアム、近衛兵達が並びーー。
そしてーー。
「今日は私の弟もいるのですよー」
ミントは目を見張った。
ジュリアムの隣りにいる、近衛兵に囲まれた目つきの鋭い少年。髪や目はラルジュナと同じなのに、その目の強さが、ある人を思わせた。
似ていないのにーー、なぜ?
息をのみ、呼吸を忘れる。
ラズベリーが娘の異変に気付いた。
「どうしたの?ミント、大丈夫?」
「あらあら、体調がお悪かったの?」
ジュリアムが医師を呼ぶ。
ミントは喘ぐように言った。
「聖女様……」
アダマスとラズベリーが驚愕に目を見開いた。
ミントはその場にがくりと座り込んだ。
その様子に、ジュリアムは頷く。
「あー、なるほど。そう言われてみるとシャラジュナは、少しですが聖女様に似ていますわね。ラルジュナはやや目が垂れていますから……。ミント王女は目つきが鋭い方がお好きなのかしら?」
「ジュリアム、黙りなさい!!!」
「ミント王女がシャラジュナを気に入って下さるのならその方がよいでしょう?歳も近いですしーー」
ジュリアムはできたばかりの真珠のネックレスを触りながら尋ねた。
「ラルジュナ、どうする?」
「ーーミント王女の思うままにー」
表情も変えずにラルジュナは言った。
「王太子の座は譲るのね?」
「ジュリアムゥ!!!」
「ーーお母様のなさりたいように」
静かな声で、ラルジュナは答えた。
「お待ち下さい!娘の浅はかさで、そのような事は!」
ラズベリーが泣きそうになりながら間に入った。
「そうだ!ジュリアム!絶対に認めないぞ!」
「まあ、陛下。わたくしは案を申し上げただけですわよ」
「お母様、僕もいいよ」
シャラジュナが言った。
「悪くないね」
その目を細めた笑い方ーー。ミントはその人から目が離せなくなった。
「ミント……」
アダマスが悲しそうに頭を押さえた。
「あー、もう。ノートどこに置いたんだろ……」
兵馬は無人の大学内の教室で、自分のノートを探していた。たいした事は書いていないが、屋台の品目など案を書いていた為、失うのは痛いのだがーー。
「ん?」
二階の窓の外から下を見ると、ヒューリとフォンカベルがいた。
「ミント王女を見に行くんじゃなかったんだーー」
二人は何やら楽しそうに話をしている。
ーー仲がいいんだな。
ヒューリとフォンカベルーー、、、。
たしか、貴族名鑑に、ヒューベルとフォリカンがあったなー。どの家だったかー。
兵馬は頭の中のページをめくりながら、再びノートを探す。
ガンッ!
大きな音が響いた。
「何してんのかなー」
兵馬は下を見た。
「え?」
目を疑った。
ーー何で、何であれがあるの?
「申し訳ない、アルジュナ。今回はこちらが悪い。この話はなかったことにしよう」
青ざめたアダマスが項垂れながら言う。
「……そうだな。すまない……」
国王二人は頷きあった。
「ラルジュナには、他の姫に来てもらう。間違っても廃太子にはしない!」
「あら、せっかく聖女の国の姫が手に入るのにね」
「ジュリアム!」
アルジュナがどれほど激高しようとも、ジュリアムの態度は変わらなかった。
シャラジュナが口を開いた。
「ミント王女、またね」
「………」
ミントは顔をあげてシャラジュナを見た。小さく頷くのを見て、ラルジュナは苦笑した。
神殿は、転移魔法が使用できない。大階段の下までは歩かなければならない。
何という失態だーー。
アダマスの顔は暗い。
どうしてこんな事になるのだ。ミントは納得したはずなのにーー。
聖女が見切った王族に、もう光明はないのか。
アダマスは重い足取りで階段を降りていく。バッカイア帝国の国民の歓声が、嘲笑に聞こえる。
大階段の下には石畳の広場を取り囲むように、笑顔の人々がいる。アダマスとラズベリーは彼らに深々と頭を下げた。
警備の衛兵達が、目を見張った。
「ではー」
アダマスがやっとの事でそれだけ告げた。
「はいー」
見送りにきたラルジュナが、頭を下げた。
そのときだったーー、
「ジュナ王太子!ふせるか防御ぉ!!」
その声に、ラルジュナの目が大きく開かれる。
ガンッ!
「!」
ラルジュナの肩から血が飛んだ。
「きゃあああ!」
「何!」
「いやあーー!」
「きゃあぁぁぁぁ!助けてぇ!」
観衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。衛兵達が互いの顔を見合わせる。
「ミント、本当にいいのね?」
「ラズベリー、しつこいぞ」
案じる母を父が制する。このやり取りも何百回したことか。
「ですがー」
「黙っていなさい」
ミントは大神殿の大階段をあがりながら、大歓声を聞いた。振り返ると、バッカイア帝国の民が旗を振ったり、口笛を鳴らしたり、大声をあげたり、騒がしかった。
ーーこういう国なのね。
馴染むだろうか。元々仲の良い友達だけで、ずっといたい性格だ。
大神殿前でラルジュナ王太子が待っていた。
「ようこそいらっしゃいました」
兄達とは雰囲気が違うがハンサムな人だ。性格も悪くはなさそう。
なら、何が問題なのかーー。
「はい。お参りをさせていただきます」
「どうぞこちらにー」
手を差し出された。
ミントは固まる。
「ミント」
父が後ろできつい声で自分の名を呼んだ。
「いいですよー」
ラルジュナはすぐに手をおろした。
祭壇前には枢機卿ルシフェが立つ。
国王アルジュナと王妃ジュリアム、近衛兵達が並びーー。
そしてーー。
「今日は私の弟もいるのですよー」
ミントは目を見張った。
ジュリアムの隣りにいる、近衛兵に囲まれた目つきの鋭い少年。髪や目はラルジュナと同じなのに、その目の強さが、ある人を思わせた。
似ていないのにーー、なぜ?
息をのみ、呼吸を忘れる。
ラズベリーが娘の異変に気付いた。
「どうしたの?ミント、大丈夫?」
「あらあら、体調がお悪かったの?」
ジュリアムが医師を呼ぶ。
ミントは喘ぐように言った。
「聖女様……」
アダマスとラズベリーが驚愕に目を見開いた。
ミントはその場にがくりと座り込んだ。
その様子に、ジュリアムは頷く。
「あー、なるほど。そう言われてみるとシャラジュナは、少しですが聖女様に似ていますわね。ラルジュナはやや目が垂れていますから……。ミント王女は目つきが鋭い方がお好きなのかしら?」
「ジュリアム、黙りなさい!!!」
「ミント王女がシャラジュナを気に入って下さるのならその方がよいでしょう?歳も近いですしーー」
ジュリアムはできたばかりの真珠のネックレスを触りながら尋ねた。
「ラルジュナ、どうする?」
「ーーミント王女の思うままにー」
表情も変えずにラルジュナは言った。
「王太子の座は譲るのね?」
「ジュリアムゥ!!!」
「ーーお母様のなさりたいように」
静かな声で、ラルジュナは答えた。
「お待ち下さい!娘の浅はかさで、そのような事は!」
ラズベリーが泣きそうになりながら間に入った。
「そうだ!ジュリアム!絶対に認めないぞ!」
「まあ、陛下。わたくしは案を申し上げただけですわよ」
「お母様、僕もいいよ」
シャラジュナが言った。
「悪くないね」
その目を細めた笑い方ーー。ミントはその人から目が離せなくなった。
「ミント……」
アダマスが悲しそうに頭を押さえた。
「あー、もう。ノートどこに置いたんだろ……」
兵馬は無人の大学内の教室で、自分のノートを探していた。たいした事は書いていないが、屋台の品目など案を書いていた為、失うのは痛いのだがーー。
「ん?」
二階の窓の外から下を見ると、ヒューリとフォンカベルがいた。
「ミント王女を見に行くんじゃなかったんだーー」
二人は何やら楽しそうに話をしている。
ーー仲がいいんだな。
ヒューリとフォンカベルーー、、、。
たしか、貴族名鑑に、ヒューベルとフォリカンがあったなー。どの家だったかー。
兵馬は頭の中のページをめくりながら、再びノートを探す。
ガンッ!
大きな音が響いた。
「何してんのかなー」
兵馬は下を見た。
「え?」
目を疑った。
ーー何で、何であれがあるの?
「申し訳ない、アルジュナ。今回はこちらが悪い。この話はなかったことにしよう」
青ざめたアダマスが項垂れながら言う。
「……そうだな。すまない……」
国王二人は頷きあった。
「ラルジュナには、他の姫に来てもらう。間違っても廃太子にはしない!」
「あら、せっかく聖女の国の姫が手に入るのにね」
「ジュリアム!」
アルジュナがどれほど激高しようとも、ジュリアムの態度は変わらなかった。
シャラジュナが口を開いた。
「ミント王女、またね」
「………」
ミントは顔をあげてシャラジュナを見た。小さく頷くのを見て、ラルジュナは苦笑した。
神殿は、転移魔法が使用できない。大階段の下までは歩かなければならない。
何という失態だーー。
アダマスの顔は暗い。
どうしてこんな事になるのだ。ミントは納得したはずなのにーー。
聖女が見切った王族に、もう光明はないのか。
アダマスは重い足取りで階段を降りていく。バッカイア帝国の国民の歓声が、嘲笑に聞こえる。
大階段の下には石畳の広場を取り囲むように、笑顔の人々がいる。アダマスとラズベリーは彼らに深々と頭を下げた。
警備の衛兵達が、目を見張った。
「ではー」
アダマスがやっとの事でそれだけ告げた。
「はいー」
見送りにきたラルジュナが、頭を下げた。
そのときだったーー、
「ジュナ王太子!ふせるか防御ぉ!!」
その声に、ラルジュナの目が大きく開かれる。
ガンッ!
「!」
ラルジュナの肩から血が飛んだ。
「きゃあああ!」
「何!」
「いやあーー!」
「きゃあぁぁぁぁ!助けてぇ!」
観衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。衛兵達が互いの顔を見合わせる。
2
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる
冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド
アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。
他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します!
6/3
ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。
公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる