ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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バッカイア・ラプソディー(長編)

第30話 ラルジュナの苦悩

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「いやはや、凄い人間がいたものだ」

 アスラーンは椅子に腰かけると、挨拶もそこそこに話をはじめた。

 ラルジュナの私室には、先にアレクセイが来て書類を広げていた。

「誰の話ー?」
「アリョーシャの元書記官だ。是非、私の右腕になって欲しいと頼み込んでいるのだが、良い返事はもらえない」

 ラルジュナがアレクセイを睨んだ。珍しい顔だな、とアスラーンは眉をあげる。

「なんでアスラーンの所にいるのー?」
「鉄道の関係だ」
「ああ、そうー」

「鉄道もそうなのだが、頭がまわるのが面白くてな。我が国の西の大島のララバ領、海産物のみの際立った何もない島なのだがな、ヒョウマを連れて行ったところ、良い事を教えてくれてな」

 アスラーンはラルジュナの前に箱を置いた。

「おまえへのプレゼントだ、開けてみてくれ」
 ラルジュナはジュエリーケースを開け、目を丸くした。

「ーーはじめて見るー」

 深みのある白い粒がびっしりと入っていた。
 とても美しく、奥ゆかしい輝きを放っている。

 ラルジュナは白手をはめ、ルーペでその粒をひとつひとつ確認した。

 徐々に彼の瞳が輝いてくる。

「海にうちあげられていて、今まではたまに食べるだけだった貝の中にあったものだ。ヒョウマは真珠と言っていた。ある貝に異物が混入してできるらしいが、ここからは口を噤もう。我が国で独占したいからな。さっそく養殖も着手した。西の大島が真珠島と呼ばれる日がくるのが楽しみだ」

 アスラーンが楽しそうに展望を語る。

「ふーんー」
「これをおまえの所で加工して、売れた分をこのぐらいバックするように、と書類を預かってきた」

「しっかりしてるねー、ひどい数字だよー」
「嫌ならいい。我が国でもそこそこの職人はいる」
「やるよー!書きますー!」

 アスラーンのとこの職人じゃダメにしちゃうよー。

「他にも、若い兵士で結婚したい者がいるが、なかなか相手がいない、という難問にもな」

「何を相談してるんだよー」
 ラルジュナは呆れた声を出した。

「そういう者を募集して、集団でお見合いをした。なるほど、どうして今まで思いつかなかったのか、一対一なら恥ずかしい事でも、みんなでやれば怖くないのか、女性の応募が殺到してなーー」

 お見合い、という言葉に、アレクセイとラルジュナは目を細くした。

「ヒョウマが考案してくれたボウリングで、皆大盛り上がりで、十五組もカップルができてしまった。好評すぎて、またやらなければならなくなったし、ボウリング場もいくつか作る事になったので、またできたら呼ぶから遊びに来てくれ」

 アスラーンは楽しそうな顔で話を終えた。

「まあ、これは一例というやつだ。牡蠣の養殖に、マツタケというキノコの収穫、他にもたくさんあるが、話が長くなるからな」

 いまアジャハンは忙しい、とアスラーンは満足そうだ。

「ーーヒョウマが元気ならいい。ルートも安心するだろう」
「鉄道ができるまでと言わず、ずっといて欲しいものだ」
 ラルジュナが目を細めたまま、アレクセイを見ている。アスラーンは不思議そうな顔で二人を見て、首を傾げた。




「ねえ、アリョーシャ、君の国どうなってるのー?」
「関係ない」
「そうだけどさー」
 ラルジュナは愁眉を開いた。

「婚約式はいつになったんだ?」

 予定を空けなければ、とアスラーンが言うと、ラルジュナは首を振った。
「向こうの返事がないよー。パパが落ち込んでるー」
「そうなのか?おまえの見た目が嫌だったんじゃないか?」
「それが嫌なら最初から断ってるでしょー?」


「ーーおまえとヒョウマの噂について、ミントの学友がヒョウマに詰問した」
「え?」
「うん?」
「そのとき、ミントが学友を止めなかった事で、ヒョウマの不名誉な噂がまわる事になった。ヒョウマは国に見切りをつけ、そして、ルートも同様だ。今後、王族とは関わらないと決めた」


「ーーそれは、ミント王女も結婚どころではないな」
 アスラーンが呆れたように言った。
「なんだ、自分大好き娘と結婚するのか?」

 ラルジュナは無言だ。

「しかし、ルートが王家を見捨てたとなると、他の国が黙っていないぞ」
「それは大丈夫だ。スズ様も王族とは関わるのをやめておられたが、大叔父上との婚姻は解消しておられない」
「そうか、おまえの妻のままならいいのだな」

 いらん火種は付けんほうがいい、とアスラーンは続ける。

「何にせよ。ヒョウマについては安心するようにルートに言ってくれ。想像以上に皆と仲良くやっている。フストンなど、もう私の言う事よりヒョウマを頼るからな。モフモフ動物園もいいものができたので、トードォがよく来てくれる。本当に彼はいい、何とかならんものかー」

 アスラーンは考えながら立ちあがる。

「この後、ヒョウマと次の集団お見合いの開催場所を見に行く。吊り橋効果でヒヤリとする場所がいいらしい。ーーでは」






 靴音も軽やかに友が消えると、ラルジュナは机を叩いた。


「何なの!アリョーシャ!アスラーンのとこにやるなら、何でうちじゃ駄目だったの!」

「ーーなら、おまえはどういう結末を望んでいる?欲しい人材だから身体で引きとめたのか?」

「違うよ!そんなわけないだろ!」
「ならば……」

「ずっと一緒にいる事を望んでるんだよ!」
 ラルジュナは両手で顔を押さえた。


「……望んじゃ、駄目なの………?」

 アレクセイは何も言えなかった。












 友が帰った後、ラルジュナは父の所を訪れた。

「パパ、こっちにワイマリ来てるー?」
「ああ、いるよ」

 国一番の宝石加工職人ワイマリは、アルジュナとジュリアムの前でデザイン画を広げていた。

「王太子殿下、ごきげんいかがですか?」
「まあまあだよー。ねえ、ワイマリ、急ぎで見て欲しいものがあるんだー」
「何でございましょう」

 優雅な紳士は微笑みを絶やさない。

 だが、ラルジュナが箱を開けたとたん表情を変えた。横で見ていたジュリアムも、箱が開いた瞬間、顔が輝いていく。

「な、何という美しさ!作ったのですか!」
「まさかー、アスラーンの国の西の大島で採れる貝の中にあるそうだよー」
「えー!よく、発見しましたね!」
「ーー真珠、っていうみたいー。ヒョウマが教えてくれたそうだよー」

「さすが、あの坊っちゃん。知らない事はありませんな」
 ワイマリは食い入る様に真珠を見ている。時折唸り声をあげた。

「まあ、素晴らしいわ。わたくし、これでネックレスが欲しいわ」

 ジュリアムがうっとりと言った。

「うちではないのかしら。どんな貝なの?」
「教えないそうですよー」

「もう、アジャハンの独走状態じゃない!こんな素晴らしいもの、各国の王族貴族がほっとかないわ。仕入れはどうなっているの?」

「下さるみたいですー」
「え?」
「ただし、加工した物が売れた場合、向こうにかなり払う事になりますがー」
「あら、しっかりしてるわね。やっぱりヒョウマね」
 ジュリアムが笑った。

「本当に、あの子が女だったらーー。あの子の姉の方はあまり賢くないそうよ。双子なのに不思議ね」

「女だったら、何ですかー?」
「もちろん、国にいただきますよ。貴方にはあの王女よりもよほど似合ってるわ」
「ジュリアム……」

「いまどき子供をどうこうなんて古いわ。子供なら娘達の子を養子にすればいいだけなのに。もったいない話よ」

「私はそうは思わない。子供はやはりーー」
「それは、陛下がお姉様を忘れたくないだけでしょ?」

 ジュリアムの言葉にアルジュナは詰まった。

「ーー何年経っても亡くなった方には勝てませんわね。じゃあ、ラルジュナ。ネックレス早くちょうだいね。いつものクッキーは部屋に運んでおくから」
「はい。お母様ー。ありがとうございますー」
 ラルジュナはジュリアムが下がるのを頭をさげて見送った。

「パパもお母様には弱いねー」
「怖いからな。おまえの母親は優しかったのに。生きていてくれればな」
「しょうがないよー」

 ラルジュナの母親は、彼を産んだ後すぐに亡くなった。そのときに側室だった妹のジュリアムが王妃に立ち、ラルジュナの母親となったのだ。

「たしかに、私はユリアムの事が忘れられない。だからこそ、おまえの子が欲しい。ユリアムの血が無くなってしまうのは、本当につらいのだ……」




「ーーわかっているよー、パパー」

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