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バッカイア・ラプソディー(長編)

第27話 片想いのままでいいから派

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「ティンさーん!」
「もう、ルート君~、いいから~」
「おまえも、片想いのままでいいから派か。なんで諦めないんだ?」

「何言ってるのよ、ルート君~。世の中って片想いの方が多いわよ」

 琉生斗は目を見張った。


「そうかーー」

 それはそうだ。
 すべてのひとの恋がうまくいくなら、ミントの親友ナスターシャだって、アレクセイと付き合えてるはずだ。

「そうよ~。自分を基準に考えないでよ~。ルート君だって、殿下が他に好きな人ができたらどうするの~?もしくは、最初にいた、とか~」

「えっ……」
「来たときなら、はいさようなら、だけど、今はどうする~?」

「えっ、えぇっ!じ、地獄?」
「それでも好きなら片想いのままでいいじゃない~。無理に忘れる方が心に無理がかかるわ~」

「ひゃー、女子っぽい。けど、いまの兵馬にはそれがいいかもな。無理に忘れる必要はないな」
「兵馬君がどうしたの~?」
「ああ」
 琉生斗はこそこそと町子に話た。

「あ~、噂は本当だったんだ~」
「意外だよな。あいつが」
「ルート君~、ブーメラン効果って知ってる~?」

「ーーはい」
「陛下もルート君の為に、兵馬君を国に置きたいのよね~」
「えっ?」
「だって、ルート君、すごい落ち込んでるでしょ~?前なら、魔蝕の浄化が続いても疲れなかったじゃない~」

 神力落ちてるんでしょ~?

 町子に言われて気づき、琉生斗は目を見開いた。

「そっか、おれってだめだな。ーーあいつの邪魔してんのかー」
「そんな事はないわ~。あなたには心の拠り所がたくさん必要だもの~」
 町子は優しく微笑んだ。












 離宮に帰った琉生斗は、執務室でアレクセイと兵馬が書類を広げて話をしているのを見て、お茶の準備をした。

 ベルガモットに分けてもらったゆず茶を、兵馬の前に置く。

「ルート、ありがと。昼からどこ行ってたの?屋台の話、したかったのに」
「町子のとこ。バンブーさんに会ってきたぜ」

「魔導具研究室室長のところへ?」

 アレクセイが眉をしかめた。

「バンブーって、もしかして聖女タケの子孫?」

「ああ」

「ーーそうなのか?」
 アレクセイが目を丸くした。

 かわいいな、おい。
 琉生斗はキュンとなる。

「案外アレクは知らないんだな」


「そうだな。私はいままでは国にいないことが多かったからな」
「そうか。さすらいの神殺しゴッドスレイヤーだもんな」

 兵馬が吹いた。

「んー、また書類の山だ」
 琉生斗は一枚書類を見た。

 アジャハンに鉄道を敷設する決定書だ。第一期工事からはじまって、第三期まで決まっているらしい。

「先に来年の夏に向けて、海国オランジーに敷いた方がよくないか?」
「そう思うけど、オランジー大公はまだ様子をみたいんだって」
「ふーん。ナルディアのグルメツアーは?」

 いつ実現するのかしら。

「アジャハンの次かな……」
「あそこの次って、あの国うちの国の六倍の面積だろ?どこまでやんの?」
「頼まれてるのは、ヘブンズフォールまで」

 東かーー。アジャハン国でも特に有名な瀑布だ。それにしても、遠すぎだな。

「なぁ、兵馬」
「うるさいよ、ルート」
「アレクと結婚するか?」
「断る」
「断るのかよ!」
「いくら殿下でも、王族と関わりたくないよ」

 あら、そう?琉生斗はがっかりした。











「おまえ、知ってたか?タケさん男だったって」
 琉生斗の言葉にアレクセイが眉をしかめた。

「ーーまさか…」
「あっちの世界の人間が、こっちでは子供を作れないのは精子と卵子が使えないからなんだって」

 アレクセイが、なるほど、と頷いた。

「女神様が変えて下さるのだな」
「タケさんはそういうときは女の姿になってたみたい」
「なぜだ?」
「男のままじゃどうしても無理だったそう。ここからがおれの言いたい事」
「何だ?」
「人間か、神竜か、どっちになるかはわからないみたいだ」 

「ーーそうなのか」 
「アレクの先祖のヨシノさんだって、六人、人を産んだ後に、四十五歳で神竜産んだんだって」
「…………」
 アレクセイが黙った。

「おれ、じいちゃんからアレクが悪神斬りにいく前に神竜作れ、って言われたけど、無理な話だよな」

「そうだな、ひとりで子育ては大変だ」
「そういう事を言ってるんじゃない」

 琉生斗は呆れた。

「絶対につくらなきゃならないのはわかってる。これもおれの幸運だ。だけど、それ以上に、おれはアレクの子が欲しい」

「ーールート」
 アレクセイが顔を赤らめた。
「ルート…」
 抱き寄せて深くキスをする。

「私も同じ気持ちだーー。何人でもつくろう!」

「それはおまえが言う台詞じゃない!」









「ーールート、ひとつ聞いていいか?」
「……何だよ……」

 ベッドの上で気だるく伸びている琉生斗は、投げやりな返事をした。


 このまま緩やかな余韻に浸っていたいのに、邪魔すんな、である。



「ーーヒョウマは子供が産めないのか?」









「えっ?」
 琉生斗は目を見張った。




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