ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
234 / 410
バッカイア・ラプソディー(長編)

第24話 両国の噂話。

しおりを挟む
「よお!ヒョウマ!この前はお疲れさん!忙しかったよな!」
 貧血でふらつく中、兵馬は大学に通っていた。
「これ、前の講義の」
 ヒューリが笑顔でノートを渡してきた。
「ありがとー」
「いや、前にやってもらってるしさ」
 兵馬は教室内を見る。

 いつもの席にニコルナはいなかった。この国ではどういう処罰になるか、法学を勉強中の兵馬にはわかっている。

 犯罪内容にもよるが、初犯ならお咎めなしだ。

「案外、とんでもない国だよね……」
「ん?」
「今日の先生はーー」
「ああ、王太子」
 ヒューリの言葉を聞き、兵馬はノートを雑に机に置いた。落としたようにもヒューリには見えた。

「そうなんだ。婚約したばっかりで大変だね」
「ん?まだ正式じゃないだろ、お見合いは終わったけど、王妃様が渋ってるみたいだぜ」
「え?ラズベリー様?」
「はあ?ジュリアム王妃だよ」

 それはそうかーー、ヒューリが他国の王妃の情報など知る訳がないよな、と兵馬は自分の言葉に赤くなった。

「王妃様がなんで?」
「なんか、平凡すぎるし、聖女様が好きなんだろ?」

「え?その噂って有名なの?」
「陛下の側室にロードリンゲンの公爵出の方がいるから、間違いではないんじゃないか?」
「ーーーーー」

 たしかに、国王アルジュナにハーベスター公爵家の長女が嫁いでいるはずだ。
 だが、いくら兄の娘でも、ラズベリーがそんな内情を話すだろうか。

「第二王子ならお似合いかも、って言われたらしい」
「シャラジュナ様?」
「知ってるのか?」
「鉄道模型を気に入ってくださって、持っていったんだよ。本人には会ってないけど」
「引きこもりだからな。王妃様も何とかしたいだろうな」

 ヒューリが言う。

「この国は王族の話もオープンなんだね」
「だな。そっちが隠しすぎなんだよ。秘めたる方が偉いとでも思ってんだぜ」

「ーーどうだろうね。まぁ、陛下に愛人ができてもみんな黙ってるね」
「うっそー!うちじゃ国をあげてその幸せ者を祝うぜ!」
 ヒューリの言葉に兵馬は吹きだした。


「ーーちょっと静かにしてほしいなー」
 気付けば教壇にラルジュナが立っていた。
「「すみません!」」
 兵馬とヒューリの声が重なり、二人はバツの悪そうに顔を見合わせた。

「ーーはいー。みんな来てるー?休みの子もいるみたいだけど、授業は進めるよー。時はお金なり、だからねー」

 教室内には笑いがあふれた。

 講堂ではなく、教室の一授業でも教鞭をとるのだな、と兵馬は思った。

 装飾品は少なめで、焦げ茶色のロングジャケットを着ているのだが、地味な色の服だとオレンジがかった金髪がよく映え美貌が際立つ。


 カッコいいーー。



 素直に思ってしまう。

 本当に僕あの人としたの?

 違うかもねー、あれは都合のいい夢だったんじゃないかなー。









「オレ、将来的には玩具の店持ちてえんだ」
「バッカイアは玩具店が多いよね」
「大型遊具もいいけど、暇つぶしもいい」

 ヒューリは、うんうん、と頷いた。

 中庭は暖かく、色付いてきている木々の葉が美しかった。
 ーー南国の木が紅葉してるっぽいけど。

「あっちの遊びで、何かないか?」
「うーん。僕、ゲームはよくしてたけどー」

 ないよねー。半導体の仕組みって殿下ならいけるかなー。

「そういえば、カードゲームとか見ないよね」
「何だそりゃ」
「二人でカードを出し合うんだけどね。例えば、歴代の王様や王子様でもいいんだけど、キャラクターを集めて、強さを数字化して、得意技とか考えて戦わせるの。計算して勝ち負けがでるから、あれ、小さい子でも算術が得意になるんだよね」

 自分も幼稚園の頃、琉生斗とよくやったなー。

「へぇー、面白そうだな。けど、ヒョウマのとこの王子様がでたら一撃だな」
「そういうのはレアカードにして、1万枚に対して1枚しかでないようにするんだよ」
「なーる。貴重なモノってそそられるよな」

 他にも教えてくれよ、と言われ兵馬は思い出しながらノートに書いていく。

 コマで戦う(ブイブレード)、刺したら飛ぶ(白ひげちゃん危機一髪)、ブロック(ゴレ)、パチンコ、射的ーー。
 やはり、自分はあまり玩具を知らない、東堂の方が詳しいだろう。

「最後は屋台だなーー」
「パチンコって何だよ」
「ハマると怖い玩具だよ」

 説明するとヒューリは首を傾げた。 

「それが、魔法じゃなくて、電気で動くんだな」
「そうなんだ」

 魔法で動かないなんて変だなー、とヒューリは言った。

「面白そうな話だねー」

 兵馬はドキリとした。
「あっ、王太子殿下」
 ヒューリが頭を下げるのを見て、兵馬も慌てる。
「よしてよー。頭をあげてー」
 ラルジュナは笑いながら、兵馬の前に座った。

 座るんだーー。

 ドキドキする気持ちを抑え、兵馬は頭の中を冷静にした。ここは、円周率でも考えて気をそらそうか。
 
 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 ーー

「向こうの話?」
「ええ、魔法がないなんて信じられないですよね」
「そうだよねー。生活がどうなってるんだろうねー」
「戦もあるんですかね。武器だけなのかな?」

 50288 41971 69399 37510 58209 74944 ーー

「まぁ、魔法に近い武器もあるからね」

 59230 78164 06286 20899 86280 34825 34211 70679 ーー

「近い武器?」
 ヒューリが身を乗り出した。兵馬は思考を停止した。

「銃とか、爆弾があるんだ。僕も生で見たことはないんだけど。射的とかで玩具の銃があるでしょ?」
「あー、あるな」
「あんな感じ」
「あれが、武器になるのか?」

 ヒューリの食い付きに、兵馬はこれはあまり言わない方がいい話だと思い、口をつぐんだ。
 武器関係の話はしない、と琉生斗と約束しているからだ。

「まあ、他にもあったりするけど。ああ、そうだ、バッカイアはよくバルドと戦をしてるけど、何でなの?」

 ヒューリが眉をあげた。

「バルドが仕掛けてくるんだよ。あいつら本当はロードリンゲンが欲しいのに、襲えないからうちとアジャハンに来るんだよ」

「ーーそうなんだ……。わりと広いのにバルド国」
「嫌な奴等だよな。何であんな奴等が魔力が高いんだろ?」

 こっちなんて、とヒューリはブツブツ言う。

「ーー今はおとなしいもんだけど、オレが小さい頃はしょっちゅう開戦してたぜ」
「そうなんだ」
「今はなんで、って聞かないのか?」
「そりゃヒョウマはわかってるよー」
 ラルジュナが笑う。

「あー、そうか。ヒョウマのところの王子様だからな」
「まあ、僕は強いところを見る機会がないけど。器用なところはたくさん見るよ」
「器用?」
「靴作ったり、指輪作ったり、列車や線路をつくったり」

「ーーすげぇー王子様がいたもんだな!まあ、そういうならうちの王子様は遊具ばっかり作ってるからいい勝負だな!」

 ヒューリは大きな声で笑った。

「奥さんの為に、よくアイスクリームも作るんだよ。バラ風呂するからってバラの花びら集めたり、ほんとロマンチストだよー」
 笑い死ぬぐらいヒューリは笑った。

「ーーヒュー!ちょっと来てくれない!」
 遠くからヒューリは呼ばれた。
「あっ、悪い。バイトの話だ!すみません!失礼します!」

 ヒューリは慌てて立ち上がり、頭を下げて走り去った。


 ーーうそーーー。

 兵馬は視線を泳がせた。
 ラルジュナの表情は変わらない。

 ーーそうだ、普通だ。
 
 普通にするんだ!




「怪我は大丈夫だったー?」

 兵馬は驚いてラルジュナの顔を見た。彼の目が心底自分の身を案じてくれているーー、目の色でそれがわかった。

「う、うんー」
「最後まで一緒に見廻ればよかったねー、ごめんねー」
「いやっ、そんな、そんな訳には」
「ルートが怒るのも無理ないよー、責任が足らなかったー」

 いや、ルートはそんなつもりではないだろう。

「あー、やっぱりルートがいなくてマズかったの?」
「わりとパパは気にしいだからねー」
「ごめんーー」
「ヒョウマが悪いわけじゃないよー、うちの国の子がごめんねー。安心して、他国の人を傷つけた場合はそれなりに罪が重いからー」

 そうなんだーー。罰したところで本人は納得しないだろうな、と兵馬は思う。

「ねえ、ヒョウマー」
「う、うん?」


「ーーヒョウマは、ボクの事嫌いー?」
「えっ?」
「嫌いだから避けてるんだよねー?」




 兵馬はラルジュナの視線を受けて固まった。


 何でだよ。
 最低、って言ったのはそっちじゃないかーー。
 


「ヒョウマー?」
 
「最低、って言ったよね?」

「…………」

「嫌いなのはそっちでしょ?」
 視線を下げて、兵馬は言った。



「ーーごめんねー。でも、ボクとしては、なかった事にはしたくないんだー」




 えっ?

 何言ってるのー?




 言ってる事めちゃくちゃだよーー。僕の事なんか気にしててどうすんの。

 ーー結婚するんでしょ?




「ーー嫌いー、」
 兵馬はラルジュナの顔は見なかった。
「……………」
 小さく頷いたラルジュナは、悲しそうに笑う。



「ーーになりたいよ………」
 

「ヒョウマーー」

 あっ、と兵馬は声をあげた。マスクを目の下まであげる。そんな事をしても顔の赤さはどうにもならないのに。

「ふっ!」

 突如、ラルジュナの手で耳に髪の毛をかけられ、変な声がもれる。

「ーー耳が真っ赤になってるねー」



 沸騰して蒸気になってしまった冷静さを、何とかかき集めて兵馬は言う。

「ぼ、僕はどうにもならない事に期待はしないから!」 
「ヒョウマー」
 立ちあがろうとして腕を掴まれ、兵馬は転ぶ。

「おっとー」
 抱きかかえられ、兵馬は顔を伏せた。ラルジュナは兵馬の顔を覗きこむ。

「嫌いになっちゃうのー?」

 これ以上ないぐらい顔を赤くした兵馬は、意識が飛んだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

処理中です...