ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

文字の大きさ
上 下
232 / 410
バッカイア・ラプソディー(長編)

第22話 嫉妬された兵馬

しおりを挟む
「兵馬!晩メシ行くぞ!」
「もうちょっと待って!」

 列車の中の魔石を点検し、兵馬は息をついた。

「あー、何とかなったかなー」

 課題は山積みだが、思っていたより苦情は少なく兵馬は安堵した。魔石が入った動力機に鍵をして、列車から降りる。

 黒が美しい列車を見ながら帰ろうとして、兵馬は足をとめた。


『調子にのるな、クソチビ!』


 黒い車体に白い文字が浮かんでいた。

「いつの間にーー?」

 確認前はなかったはずだーー。

 突然、背後に気配がした。

「ーーヒョウマ!しゃがめ!」
 琉生斗の焦った声が響いた。

「えっ……」
 振り返る間もなく兵馬は後頭部に痛みを感じた。

 ーー殴られた?と思いながら、兵馬の意識が薄れていく。


「兵馬ぁ!!待てぇ!おまえぇ!!」
「聖女様!わたくしが参ります!」

 地面に倒れた兵馬に駆け寄り、暗闇に逃げる人影に琉生斗は叫んだ。

 犯人を捕まえる為に、ルッタマイヤは走りだす。

「お願い!ーーおい、兵馬!無事かぁ!あー、どっちにしろおれは役立たずだぁ!ごめんよ!兵馬ぁー!じいちゃんー!ヘルプー!」

 兵馬の後頭部からは血が流れていく。琉生斗は焦りながら教皇ミハエルを呼んだ。

「兵馬ぁ!!」












「大学の同級生でしたわ。個人的な恨みだそうです」
 ルッタマイヤの言葉に、琉生斗は顔を歪めた。兵馬はミハエルに治癒聖魔法をかけてもらい、命に別状はない。

「クソッ、またいじめられてんのか。ーーバッカイアのヤツが犯人の場合は?」
「向こうの警備隊に引き渡します」

「ーー刑が甘そうだな」
「おっしゃるとおりでーー」

 神殿の私室で眠る兵馬を見ながら、琉生斗は悲しそうに言った。

「どうせ嫉妬だろうな。みんなこいつに敵わないから、すぐに嫌がらせするんだよ」

「そうですかーー。ヒョウマも苦労が多いですね。聖女様、席を外しますが、着替えはよろしいでしょうか?」

 琉生斗の白銀色の胡服は、兵馬の血で胸から下が血で染まっていた。

「ああ。後始末とかあるのに、ごめんな」
「とんでもございませんわ」

 ルッタマイヤは微笑んで出て行く。
 琉生斗は本で埋め尽くされている部屋を見て溜め息をついた。

「がんばってるのになーー」
 












 
「殿下……」

 魔法騎士団軍将ルッタマイヤが、会食中のアレクセイに声をかけた。
 とはいえ、アレクセイはほぼ食事に手を付けていないのだがーー。

「どうした?」
「お耳を……」

 ルッタマイヤの言葉にアレクセイは眉を顰めた。

「ーーヒョウマが?」

 軍将は目を丸くした。アレクセイが敢えて兵馬の名を口にしたように感じたからだ。

「クリス、後は頼む」
「兄上。どうかしましたか?」
「失礼致します」

 アレクセイは素早く場から退出した。


「何だ?アレクセイは?魔蝕か?」
 アダマスが尋ねる。

「いえーー、ヒョウマ殿の名前がでてましたけど……」
 クリステイルが首を傾げた。

 カチャンー。

「あら、珍しいこと」
 ジュリアムが目を見開いた。

「ーーすみませんー」
 ラルジュナはフォークを落とした。
 
 












「アレクーー」
 琉生斗は黒地に銀の刺繍が映えるウエストコートを着た旦那様の正装を見て、よだれを垂らした。

「カッコいいー。おまえはなんでそんなにカッコいいんだ。ああ、アレク、あなたはどうしてアレクなの?」
「…………」

 アレクセイは何と返していいかわからず沈黙した。

「おっ、正解。ここはロミオは口を挟まない。隠れて見ていて、ひたすらジュリエットの独白が続くんだ」

「そうかーー。ヒョウマは?」

 アレクセイは琉生斗の身体を確認し、服を魔法で交換した。

「じいちゃんに治癒してもらったから大丈夫」
「酷かったのか?」
「あっ、後頭部をトンカチみたいな物で殴られたんで、ちょっと出血が多くて、おれパニックになっちゃったんだよ」

 そうか、とアレクセイは安堵したように言い、琉生斗にキスをした。抱きしめると、琉生斗が嬉しそうにキスを返した。


「んっ」
 アレクセイの舌が口の中に入り、琉生斗は吸いながら甘噛みをする。舌を絡め合いながら夢中になってキスをして、琉生斗はふと視線に気付いた。

「ーっ!、兵馬!大丈夫か!」
「もう……。僕の部屋で何やってんのさ……」
「キスだけど」
「堂々としすぎで怖いよ……」
「ヒョウマ、痛みは?」
「全然ないよー。殴られたんだよね?」

 教皇ミハエルの治癒聖魔法だ、痛みも残らないのだろう。

「ああ、トンカチみたいな物だってーー」
「ーー誰に?」

「ニコルナ、って女性知ってるか?」
 琉生斗の答えに兵馬は俯いた。

「そう……」
「おまえ、またいじめられてんのか?おれが行ってぶん殴ってーー」

「ルート!いい加減にしなよ!十九歳にもなって、まだ僕が君がいないと何にもできないとでも思ってるの!」

「違う!そんなんじゃねえ!おまえは勉強したくて大学に通ってるんだ、よけいな問題は考えなくてもいいように取り除きたいだけだ!」

「そのぐらい、自分でできるよ!」
「けど、ーーまた襲われたらどうすんだよ!」
「油断しないよ、これからは」

 兵馬ーー、と琉生斗は悲しそうに下を向いた。

しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

神子の余分

朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。 おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。

一級警備員の俺が異世界転生したら一流警備兵になったけど色々と勧誘されて鬱陶しい

司真 緋水銀
ファンタジー
【あらすじ】 一級の警備資格を持つ不思議系マイペース主人公、石原鳴月維(いしはらなつい)は仕事中トラックに轢かれ死亡する。 目を覚ました先は勇者と魔王の争う異世界。 『職業』の『天職』『適職』などにより『資格(センス)』や『技術(スキル)』が決まる世界。 勇者の力になるべく喚ばれた石原の職業は……【天職の警備兵】 周囲に笑いとばされ勇者達にもつま弾きにされた石原だったが…彼はあくまでマイペースに徐々に力を発揮し、周囲を驚嘆させながら自由に生き抜いていく。 -------------------------------------------------------- ※基本主人公視点ですが別の人視点も入ります。 改修した改訂版でセリフや分かりにくい部分など変更しました。 小説家になろうさんで先行配信していますのでこちらも応援していただくと嬉しいですっ! https://ncode.syosetu.com/n7300fi/ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...