ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。(第一部、第二部、第三部)

濃子

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バッカイア・ラプソディー(長編)

第19話 新しい友達

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「オレはフォンカベル、フォンって呼んでくれ」
「アタシはニコルナ、よろしくね」
「よろしく、僕はヒョウマ」
 授業の一環でプロスペクト(損をしたくない)理論を実践研究するグループ分けをされた。メンバーは四人。
 
 フォンカベルはそばかすが残るかわいい男子で、ニコルナは大人の女性の雰囲気をまとう色っぽい容姿をしている。

「もう、ひとりいるけど、今日は休みみたいだ」
「あまり来ない人よ。話をまとめて、来たときに渡しましょう」

 テキパキとニコルナが仕切った。

「なあ、ヒョウマは聖女様と一緒にこっちの世界に来たんだろ?そんな事あるんだなー」
「そうだね、イレギュラーだったみたい。儀式を急いだからって言ってたかなー」
「急ぐと失敗するのか?」
「わからない」
「でも向かうの生活があったんでしょ?聖女様なら仕方ないけど、他の人は怒ったんじゃない?」

 聖女は仕方ないんだ。

「そこまでかな?みんな水があった、っていうのか、すぐに馴染んでたね」
「すごい順応力ね」
「他のみんなは才能が、すごくてね。正直僕だけはいらなかったと思うよ……」
 兵馬の言葉に二人は首を傾げた。

「ヒョウマは鉄道の設計者なんだろ?」
「アタシ達なんかより、上をいく人じゃない」
「違うよ!あれは向こうの世界にあったものを描いただけ!」
「資料もなく、覚えて描いたんだろ?」
「すごいじゃない!」
「うちの王太子は商売にはシビアだよ。そこをクリアしたのが、そもそもすごいんだよ」

「あー、たしかに出資金の募集なんかしなかったのに、バッカイアの富裕層がどんどん送ってきて困ったよ」
「あら、出資金なし?」
「アレクセイ殿下の資金だけ」
「「すごい!!!」」

 二人の目が輝いた。

「けど、それだと何とか出資したい人が嫌がらせをして来るだろうなーー」
「あー、なるほど……」

 人の悪意も計算に入れるのが商売だ。

「例えば出資金を募った事にして、どのぐらいの利益が還元できるかを考えてみる?」
「いいじゃない!」
「よし!いい研究になりそうだ!」

 フォンカベルとニコルナの喜ぶ顔に、兵馬は胸を撫で下ろした。





 その日、兵馬達の前に、王太子ラルジュナは姿をあらわした。

「ども、こんにちは☆知ってる人も知らない人もよろしくねーラルジュナだよーんー。本名は長いから省略しまーすー」

 講堂に笑い声が起きる。

「商売するのに大事な事は、『人を見たら泥棒と思え』、と『顧客は生かさず殺さず』、でも、従業員には優しくね」

 場がどっと湧き、普通逆じゃん!とヤジが飛ぶ。

 ーーすごいな。王太子にヤジが飛ばせるなんてー。

 自分達もヒョロ太子などと言ったりして、クリステイルを下に見てしまうときもあるが、その上をいくバッカイアの民だ。

 しかし、自国の王太子と違って凄まじいカリスマ性だ。
 クリステイルは良くも悪くも優等生のお坊ちゃんだが、こちらは百戦錬磨の敏腕実業家という雰囲気が出ている。

「ーーボクも友達に裏切られて、売上金持っていかれちゃったり、儲かるから出資してって言われて出しちゃったり、失敗ばかりしてるんだー」

 実際に経験した話を語る姿に、皆引き込まれている。誰もよそ見をしていない。

 カリスマ性ならアレクセイが一番だとは思うが、彼は本当に琉生斗の事以外どうでもよく、人を惹きつけるより琉生斗を幸せにする事しか考えていない為、求心力は低いだろう。

 そう思うとルートは幸せだよねーー。

 好きな人との間に何の障害もないのだから。愛が深いのにたまにぶーたれているが、贅沢だよね、まったく。

 兵馬は髪を耳にかけた。
 長くなってきたから切らなくちゃ。

 


「そりゃ、うちのヒョロ太子はカリスマ性では弱いよな」
 話を聞きながら琉生斗は頷いた。
「けど、面白そうだな授業」
「面白いよ。今度グループ研究をするんだ」

 ハロー効果や、サンクコスト効果とか、グループでテーマを決めてねーー、兵馬の説明に琉生斗はじっと耳を傾けた。

 楽しそうでよかった。本当にーー。

 今日は二回魔蝕が発生した為、やや疲れてはいたのだが、琉生斗はにこにこと話を聞き続けた。












 天気はあいにくの雨だが、兵馬の心は軽く浮足立っていた。
 教室に入ろうとすると、中から大きな笑い声が聞こえた。そっと覗くと、生徒が集まって話をしている。

「ーー王太子に気に入られてるかなんか知らないけど、仕切り倒されてるよ」
「エラそうよねー」
 フォンカベルとニコルナのまわりに人垣ができている。

「そんな感じだよなー」
「わかるー。ニコルナも貧乏くじ引いたわね」
「ホントよ。仕切るなチビって言っちゃいそうになるわー」
「まあ、課題は悪くないからこのまま使ってやるけどよ」
 はははははっ、笑い声が教室に響いた。兵馬は来た道を足音を立てずに引き返した。






 傘をどこに置いたのかーー。
 適当に歩きすぎて道がわからない。案内板はどこだったのかー。

 いつもこうだ、うまくいかないーー。

 何で友達ができないんだろう。普通に話しているだけなのにうっとおしがられ、疎外され、いつの間にかイジメに変わる。

 何が悪かったのだろう。

 小学一年生の教室で、筆箱を窓から鯉の池に捨てられた事を思い出す。教科書もいつの間にか無くなり、ビリビリにされて机の上に置かれ、先生に「どうして大事にできないの?」と怒られたのは自分の方だった。

 精神が不安定になっていく自分に気づき、クラスメイト達を琉生斗は殴りにいった。事件が大きくなり、すぐに転校できて内心ホッとした。

「僕は、ルートがいないとだめだなーー」


 いつでも助けてくれた大好きな親友。君のためなら向こうの世界なんか捨てられる。

 けど、それだけじゃだめだ。それじゃ、一緒に戦えない。


「ーーっう……」


 涙をのんだ。


 負けるな、負けるなーー。どこにだって理解者も否定者もいるのだから。
 兵馬は強引に涙を拭った。


「ヒョウマー」
 後ろから声がした。
 その声に兵馬の頭は冷静になった。

 ーー頭の中まで学生気分になるな。何のためにここにいるんだ。

 自分に言い聞かす。
「何?何か用事?」
 振り返るとラルジュナと近衛兵のジュドーが立っていた。
「明日はよろしくねー。急に予定変更でごめんねー」
「ううん。大丈夫だよ」
「そうー?」
「じゃあ、授業あるから」
 兵馬は深く頭を下げた。

 王太子と馴れ馴れしいヤツなんか嫌われてもしょうがない。

 気をつけよう。

 兵馬は教室に戻る事にした。


 教室に入った兵馬を見ても、誰の態度も変わらなかった。これはこれで怖いなー、と兵馬は思う。

 あれ?

 いつも兵馬が座る席に知らない人がいた。席が決まっているわけではないが、皆大体は同じ席に座る。
 隣りに腰かけ横目で見ようとして、動きをとめる。
「あんたがヒョウマ?」
 彼に話しかけられたからだ。
「うん。そうだけど……」
「長く休んでてごめん!あんたのまとめてくれたノート、すごい助かったぜ」

 爽やかな笑顔にまわりの女子が、顔を赤らめた。

「いや、どうも」
「あー、オレ同じグループのヒューリね」
「よろしく」
「鉄道のバイトが忙しくてさー」
「え?」
「すっごい倍率だったんだぜ!勝ち抜いたからには一日も休めないからな!」
「ーーそうだね」

 何と言ったらいいのかわからないが、兵馬は嬉しそうに相槌をうった。


「えー!設計図かけんの!なんでもありだな!!」
 昼休み、兵馬はヒューリと昼食を食べながら話をする事になった。
「覚えてる事をかいてるだけなんだよ」
「いやいや、すごいって!鉄道もすごいけど、この前でたあの玩具、あれすごいなー!」
「あー、キューブ型パズル?あれ、まだ試作品だけど、ヒューリは貴族なの?」

 サンプル程度にしか作れていないので、一般の国民にまではいってないはずだ。

「あっ、バレたか!まあ、たいしたあれじゃねえよ!いま、オレすっげぇハマってんだぜ!」
 なんか、この人のテンション、ルートみたい。
 兵馬はおかしくなって笑った。

「明日忙しいけど、すっげぇ楽しみだな!」
「がんばってね!」
「ああ」
 ヒューリは破顔した。


 ーーその日、帰るときに女生徒が教えてくれた。
「ヒュー君ね、ヒョウマ君を悪く言ってたニコルナ達を怒ったの!自分達だけじゃ何もできないくせに!S評価は誰のおかげなんだよ!って、かっこよかったわー!」
 
 それもあってか、その後兵馬とヒューリはよく一緒にいるようになった。
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