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列車は走るよ。何乗せて? 編

第14話 列車は走るよ。何乗せて? 5

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 バッカイア帝国の国民の歓迎を受けながら、琉生斗達は魔導列車を降りた。異国のきつい香りに琉生斗はくすぐったいものを感じる。

「なんか、ニオイがきつくね?」
 アレクセイに小声で聞くと、そうだな、と返事が返ってきた。

「バッカイア帝国は香油や香水が盛んな国だ」
「はー」

 たしかに、ラルジュナも香水くさい。だが、ここでは普通のこと。

 おれの鼻がロードリンゲンに染まってんだろうなーー、と琉生斗は思う。

 娯楽の国、バッカイア帝国が誇る大型遊具施設バスラパーク。ロードリンゲンとは規模が違い、複合遊具の大きさや数、アスレチック、ボルダリングの充実、何よりも客のテンションが高い。

 この時期ならではの水の遊具や、きらびやかな水着の女性に、東堂は興奮して鼻血を出した。
「生きててよかったー」
「おまえは破廉恥な奴だな」

 トルイストが呆れたように言う。

「え!?師団長、興奮しませんか!」
「何をだ?」
「ほら、セクシーな水着のお姉さまがいっぱいですよー」

 東堂は鼻の下を伸ばす。

「自分の女でもないのに、じろじろ見ては失礼だろう」

 トルイストの言葉にファウラも頷いた。

「あー、そうなんすねー」

 こういう国民性なんだなー、さすがは聖女の国だ、と東堂は深く感銘を受けた。

 まあ、あそこに水着の美女の視線をすべて集めるイケメンがいるけど、本人興味のきょの字も無さそうだよなーー。


 アレクセイは琉生斗の為にアイスを買い、琉生斗は嬉しそうにそれを食べていた。アレクセイに食べさせたりして、ちょっとは我慢できないのかあのバカップルは、と魔法騎士達は含み笑いがとまらない。


「あれ、いつまで続くと思います?」
 東堂はトルイストに尋ねた。

「知らん、というかわからないな。殿下のそういう噂は一度も聞いたことがないので、判断ができない」

 生真面目にトルイストが答える。

 この人とも親しくなったよなー、と東堂は思う。こんなくだけた話をする間柄じゃなかったのにーー。

「臣籍降下するなら是非教皇にと、神殿から打診があったそうです」

 ファウラが話す。内情に詳しいのは、王妃ラズベリーから聞いたのかもしれない。

「それぐらい、清らかなのでしょうね」

 おまえ違うのかよ、と東堂は意外そうな目でファウラを見た。美花は女性達と遊具で遊んでいる、これはチャンスだ。

「えっ。大隊長は色々ありましたか?」
 声を顰める。

「それなりにです」
「どっかの令嬢とかですかー?」

「トードォ、そんな訳ないだろ。令嬢なんかに手を出したら、即結婚させられるに決まっている」

「そうですね。難しいんですよ。お付き合いする人って。父にバレたら、邪魔されますしね」
「はー、高貴な人は大変だ。下々は気楽でいいっすね」

 頭をかいた後、東堂はにやりとした。

「じゃあどうすんです?」

 東堂の疑問に、公爵家と侯爵家のご令息は目を見合わせた。

「ーー妓館だな。自国ではなく、それも最高クラスのな」
「口が堅い、病気もない、そこですね」
「付き合うなら婚約させられるからなー」
「極端なんですよね」

 あぁ、やっぱりそうなんだな。向こうでも、偉い奴ほど夜の街に行くもんな、と東堂は納得した。


「じゃあ、きっと殿下も妓館でサクッとしてたんですねー」

 トルイストとファウラが口を噤んだ。何とも判断のできない顔だ。

「我々には何ともーー」
「おまえ、聞いてみたらどうだ?」
 二人が疑問を東堂へぶん投げた。
「機会があったら聞いてみます」


 そのときはぜひ教えてくれーー。






 琉生斗はひまわり畑の中にいた。

 広大な土地に、見渡す限りのひまわりだ。

「ルートは花が好きだな」
「そうかもなー。ばあちゃんがよく、胡蝶蘭とかデンファレとか鉢植えもらうんだけど、世話すんのおれだった」

「ーー花はどうした?」
「近所の人で、欲しい人にあげた。万年筆とか、皿や、服や家具なんかは、学校のバザーに持って行ったら、すげぇー勢いでなくなったよ」

 琉生斗は笑った。

「ーーひとつぐらい、身に付けてたらよかったな」

 何気なく呟く。

 アレクセイが後ろから琉生斗を抱きしめた。

「もう、いい加減痛いカップルだと言われてんぞ」
「言われてもいい。きみとずっとこうしてたい」
「そう?」

 こいつもたいがい変わってんなー、おれの何がいいんだーー。




『加賀にスカート履かせてみないか?』
 中一のときのクラスメイトが言った。

『おお!協力するぜ!履かせて犯してみる?』
『やりたい!』

 ゲラゲラ笑う彼らは、犯す、という言葉が、相手にどれほどの恐怖を与えるか、知らないのだろう。

 無知なウジ虫達め。
 絡んできたクラスメイトを、全員病院送りにして停学になった。

 当時は、あの親父の子供だし仕方がない、と言われていた。暴力を受けて育つと切れやすくなるらしく、その後は切れないように努力した。
 
 自分は自分が思う、理想の自分になってきているのだろうかー。
 
 夜の公園でうずくまるあいつは、どこへいったのだろうーー。






「ルート、ベンチに座ろう。何か食べたいものはないか?」
「あぁ」

 何がいいかなー。

「香水とか盛んだと、味が濃そうだ」
「そうだなー、香辛料がよくきいているな」
「アレクは好き嫌いないなー」

 食べれないのは可哀想だけどーー。琉生斗の言葉に、アレクセイは薄く笑った。

「それどころではなかったからなー」

 自分の事を話すなんて珍しいな、と琉生斗は目を丸くした。

「ルート……」
 静かに見つめられて、琉生斗の胸は早鐘を打つ。
「な、なんだよー」

「何か悩みがあるのか?」


 琉生斗はアレクセイの目をじっと見つめた。何か、自分はおかしかったのだろうか、彼が不安気に見つめるほどにー。

 あっーー!
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